美少女へのくすぐり指令 罰ゲームを受けているのは誰だ
「罰ゲームって何だよ?」
あまり恥ずかしいのとかは無しにしてくれよ。
「じゃあ1位の人が、最下位の人を10秒くすぐるっていうのはどう?」
「良いじゃん、それにしよ!」
俺が異を唱える間もなく、罰ゲームの内容は決まった。
まあ俺が1位になることは無いだろう。最下位もできれば避けたいところだ。
トップバッターはまたも漆間。相変わらず上手い。
得点は……90点。
「おお~すげー」
「これは漆間が優勝かな」
次に歌った女子の点数は86。結構上手いと思ったが、漆間には及ばなかった。
次の順番は隅田。
「なあ鷹見、ビブラートって何だ?」
「声を震わせることだよ」
「感動で?」
「どんだけ心込めて歌う気だお前」
そして隅田はこれでもかと声を震わせて歌った。
まるで演歌歌手のように拳を握り締めていたが、もしかして採点項目に「こぶし」とあるのも勘違いしているのではないか。
ビブラートの甲斐あってか、あまり上手くはなかったものの84とまあまあの点数だった。
次の女子は88点。そして俺の番が来た。
すでに喉が痛かったので、高い声を出さなくても歌える曲をチョイスする。
隅田には負けないようにと、俺の持てる技術は全て歌に注いだ。
そしてその得点は……。
「91点!鷹見すごーい」
「鷹見上手いじゃん」
まさかのトップに躍り出てしまった。
このままだと俺が隅田をくすぐることになってしまう。
(こうなったら息ができなくなるまでくすぐってやるか)
「最後はあたしだね」
トリを務めるのは南條。
こいつは歌が上手いから、1位の座は明け渡すことになるかも知れないな。
そう思いながら彼女の歌を聴いていると、何やら違和感がある。
ところどころ音程が外れている。4曲目になって、疲れてるのだろうか?
そして得点は……。
「うわー、81点!やらかした~」
「ウソー、美咲が最下位?」
その場の誰もが意外だと思った。
漆間と南條の最下位だけは無いと、みんなが思っていた。
「しょうがないな~。はい、鷹見」
「えっ」
「あたしをくすぐる権利をやろう」
えっと……1位は俺で、最下位が南條。
つまり罰ゲームを執行するのは俺で、受けるのは南條。
俺が南條を、くすぐる?それはつまり、こいつの体に触れるってことで……。
南條が両手を広げ、俺を待ち構える。
だが俺は……心の準備なんてできていない。
「鷹見やんなよ。10秒はこっちで数えとくから」
周りは誰も止めない。いや、確かにそういうルールだったけど。
良いのかよ?南條は女で、俺は男だぞ?
だが拒否したりいつまでも何もしないでいると、周りを白けさせてしまうだろう。
覚悟を、決めるしかない。
(えっと、どこをくすぐればいいんだ)
腋がまず思いつくが、胸が近い。
足の裏は?俺がしゃがんで南條に脚を伸ばしてもらうとなると、短いスカートと目の高さが合ってしまう。
となれば、脇腹か。
俺は恐る恐る手をそこに伸ばす。
「なんか鷹見の動きエローい」
他の女子が俺を冷やかす。
(くっそ。これじゃ罰ゲームを受けてるのは俺じゃねーか!)
「鷹見……優しくしてね?」
(やめろ!変な気分になってくるだろーが!)
俺は意を決して指先を南條の脇腹に触れさせる。
そして指を動かしたが……反応は薄い。
「あたし……そこは平気かも」
「鷹見、腋を狙いなよ」
(良いのかよ?勧めたのはお前たちだからな)
こうなったら、ヤケだ!
俺は腋に狙いを定め、一心不乱に指を動かした。
「ちょっ、きゃっ、あははははっ!」
南條が身を捩る。構わず俺は必死になってくすぐり続けた。
俺の指で、南條が反応している。
くすぐられているのは南條なのに、俺の方が興奮しているかも知れない。
「はい10秒。そこまで~」
その声に合わせて俺は南條から距離をとった。
彼女はソファーにもたれたままぐったりとしている。
顔は赤く、息は荒い。
俺はその姿が、とても艶かしいと思ってしまった。
「鷹見……すごかったよ」
こいつ、わざと変な想像をさせる言葉を言っているのか。
その時、アラームが部屋に鳴り響く。
退室時間が10分前という合図だ。
「どうする?延長は?」
「今日はもう良いんじゃない」
「あたし、もう1曲歌う。最下位で悔しかったし」
最後に南條が歌った曲は、音程がしっかりと合わせられ93点を叩き出した。
さっきそれをやってくれよ……。
そうしてくれたら、こんなに疲れる事は無かったのに。
* * *
「腹が苦しい」
「ドリンクバーで元なんか取ろうとするからだ」
腹をさする隅田を連れて、俺たちはカラオケの外に出た。
「楽しかったね鷹見。また一緒に行こ」
「ああ……」
「そうだ、LINE交換しよ」
南條とLINEで繋がることで、また一つリア充の階段を登ったような気がした。
「それじゃあ、またね」
ボロが出ないか心配だったが、なんとか盛り下げることなく無事終えることができたようだ。
遊びに行ったのにこんなことを気にしてるなんて、我ながら変な話だと思いながら、帰路についた。
* * *
「……前、お前っ」
フィアの声に、ハッと意識が戻ってくる。
「お前、フィアのこと無視するなですぅ」
「ああ、悪い。何だ?」
夕飯を終え居間で寛いでいたところ、俺の心はここに在らずだった。
「蓮さん、何か考えてましたね。もしかして悩み事ですか?」
「そんなんじゃないよ」
リヴに心配をかけまいと否定する。
悩み事なんかじゃ無いが、考え事はしていた。
今日、カラオケであったあの出来事を。
必死にくすぐる間、指先が何度か南條の胸に触れた。
柔らかいかどうかなんて、意識する余裕なんて無かった。
あんな風に触られて、怒ってはいないのだろうか。
また俺と一緒にカラオケに行きたいって。それはただの社交辞令じゃ無いのか。
南條から送られてきた可愛らしいスタンプが、それはきっと杞憂なのだと俺を慰めてくれた。




