戦いの後の安らぎ 幼き王女は無垢な寝顔を晒す
家に帰って俺は、ピザをメインに、寿司も少量注文した。二人は寿司なんて食べたことないだろうと思ったからだ。生魚は苦手な人もいるだろうから、最悪俺一人でも食べ切れる量だ。
「何ですかこれ、見たことない料理です!」
「生のお魚なんて食べたことありません。でも、綺麗な料理ですね」
「じゃあ今日はお疲れ様。みんなよく頑張ったな」
「「「いただきます」」」
「これどうやって食べるですか?」
「箸を使うんだけど……手でつまんでも構わないぞ」
リヴもフィアも、箸なんてうまく使えない。リヴは練習して少しマシになったが……それでもまだぎこちない。
「こんなもん使ってられねーです。でも手で食べるなんてはしたない真似できねーですよ。」
「……じゃあフォークでも出すか」
寿司をそんな食べ方するやつは見たことないが……外国人はどうしているのだろうか。
「その醤油につけて食べるんだ」
フォークで串刺しにしたマグロを醤油にたっぷりつけて、口に運ぶ。
「……しょっぱい!何ですかこれ、全然美味くねーです!」
「醤油をつけすぎだ……ほんのちょっとでいいんだぞ」
リヴは寿司を前に躊躇している。生魚は異文化の人間にはきついだろう。
「無理に食べなくてもいいからな。ピザも美味いぞ」
「いえ、せっかくなので……いただきます」
リヴは恐る恐るサーモンを口に運ぶ。
「……美味しい!魚が口の中でとろけるようです!」
「フィアも食べるです!」
どうやらリヴの口にあったようでよかった。フィアも続けて口にするが、今度は醤油を適量にして美味しく食べられたようだ。
寿司は全てさび抜きにしてある。俺は付属のわさびをマジックカットし、自分の醤油皿に混ぜた。
「それは何ですか?」
「これはわさびと言って、お前らには──」
合わないかもしれない、と言いかけたところで邪な考えが脳裏に浮かぶ。
「……まあ、大人の味ってやつだな。リヴにはともかく、お子ちゃまには早すぎるな」
「ムキーっ!立派なレディになんて失礼なやつですか!それをよこせです!」
俺は未開封のわさびをそのまま渡した。簡単に封が切れることを伝え、フィアは中身を全て自分の皿に混ぜる。
「……ギャーーーっ!辛っ、辛いですぅーーーっ!」
「わはははは!」
俺の期待通りにことが運んだ。ちょっと可哀想だけど、今までを思えばこれくらいやり返してもいいだろう?
「悪い悪い、ほら玉子は甘くて美味いぞ。わさびはいらないから」
「もぐもぐ……これはうめーです!もっとよこせです!」
「残念、売り切れだ」
不評だった時に備えて一貫ずつしか注文していないのだ。でもこんなに喜ぶならもっと頼めば良かったな。
結局、ピザも寿司も綺麗に片付いてしまった。
「「「ご馳走様でした」」」
「じゃあ、片付けておきますね」
リヴは醤油を入れた小皿を回収して台所へ向かった。あとはゴミとして捨てるだけで終わりだ。
「ふー、食った食ったです。こっちの世界にも美味いもんがあるですねぇ」
偏食気味のフィアも、寿司とピザは口にあったようだ。
「明日は卵の寿司を10個注文するです!」
「寿司ってのはそんな毎日食うもんじゃねーよ」
まあ好きな人は毎日食ってるのかもしれないが。
「ところで……お前これからどうする気だ?」
フィアを狙っていた王女は撤退した。俺とリヴは役目を果たしたと言っていいだろう。
「しょうがねーからもう少しここで世話になってやるです。ありがたく思えです」
「………」
まあここを出ていってもアテがあるわけでもないだろうが……こいつは自分の立場というものがわかってないのではないだろうか?
「フィアには騎士がいないです。しばらくはお前が代わりに戦えです」
「……それなら」
台所からリヴが出てきた。
「僕は指輪を一個持ってるから、これをフィアにあげるよ」
「ホントですか?リヴ、ありがとうですぅー!」
指輪は王女にとって貴重品のはず。それを簡単にあげてしまうなんて……。
「おい、いいのかよ」
「フィア、騎士を見つけた後も、僕達に協力してくれるでしょ?それなら、僕が持っていてもフィアが使っても同じですよ」
「当然です!フィアは義理を忘れない女なんです!」
協力。それはこの戦いを有利にする上で重要な戦略だろう。こいつの雷呪文は確かに協力だ。しかし。
(この先ずっとこいつの相手をしなくちゃならないのかよ……)
蓮は深くため息をつかずにはいられなかった。
「……しかし、危ないところだったな。今でも勝てたのは奇跡だと思うよ」
舐めていたわけではないが、想像よりもずっと強敵であった。
蓮は、念じて鎧姿に変化する。左手には盾が装備されている。確かに自分の新しい装備として根付いたようだ。
「何で急に、盾が出てきたんだろうな」
ゲームでいう経験値が溜まった結果なのだろうか?それならば、呪文も次第に新しいものが身につくのかもしれない。
「ところで……お前ら最後は呪文が使えなかったみたいだけど、何でだ?」
「わかりません。急に杖の反応が悪くなって……」
「フィアの杖もおかしいんです!前に戦った時はこんなことなかったですよ!」
リヴが呪文を使えないのは途中から、という感じだったが、フィアは二発目からすでに遅かった。原因を考えても、思いつくものはない。
「あの時と違うのは、お前が一緒に戦ったから……つまり、お前が悪いです!」
「何でだよ!」
戦うたびに謎は深まる。これもこの先を戦い抜く鍵になることは間違いない。
* * *
風呂から上がってしばらくくつろいでいると、寝息が聞こえる。フィアが床に横たわりながら無邪気な寝顔を晒していた。
「フィア、こんなところで寝ちゃったら風邪ひくよ」
「しょうがねーな。ベッドに運んでやるか」
蓮はまさにお姫様抱っこという形でフィアを抱き上げ、ベッドに寝かせた。普段からこれくらい大人しければいいのに、と思わずにはいられなかった。
「今日はお疲れ様でした」
「ああ、そっちもな。勝ててよかったよ、本当に」
「フィアもだいぶ蓮さんに懐いてくれてよかったです」
「はあ?どこがだよ」
あれで懐いているのなら、俺の中で懐くという概念が崩壊してしまう。
「フィアも素直じゃありませんから……でも、だいぶ蓮さんに甘えるようになったと思います」
会ってから今まで何も変わったとは思わないが、リヴにしか分からない差があるのだろうか。
「気を許せない相手の前で眠れるほどフィアは図太くないですよ。ああ見えて実は繊細なんです」
納得はいかないが、リヴが言うのならそういうことにしておくしかない。
「リヴも疲れたろ。もう休んだらどうだ?」
「蓮さんはどうするんですか?」
「俺はもう少し起きてようかな」
「なら、ご一緒させてください」
その夜、二人は他愛のない話をした。
蓮は、久しぶりに自宅で安らぎというものを感じることができたのだった。




