頼みの呪文は不発? 謎の属性を攻略せよ
「誤算だったね。仲間がいたのか」
遅れてやってきたのは、黒いドレスに身を包んだ赤いショートヘアの少女。リヴよりもいくらか大人びて見える。
「初めまして。その子からもう聞いてるかな?私はランバー国の王女、リジー・ランバー。そして彼は岡本信親。以後お見知り置きを」
相手にとって俺達の存在は想定外だったはず。それでも動揺している様子はない。
(この余裕……自分達の実力に自信があるってことか)
敵の騎士もリジーを守るように立ち塞がる。体格は俺より一周り上だ。だがそんなことで今更怯みはしない。
「あなた達……そこのお嬢ちゃんよりは歯応えがありそうだね」
リジーの唇が不敵に歪む。
(来るか……)
前回は事実上の敗戦。今回は負けるわけにはいかない!
お互い剣を取り、間合いを図る。相手は踏み込まない。しかし蓮は構わず相手に攻撃を仕掛けた。
「むっ!」
相手の剣でそれは防がれる。鍔迫り合いとなることを避け、攻撃を続ける。
相手はそれを難なくいなす。剣で片がつくなら一番だが、そんなに甘い相手ではない。
ならば!
「フィズラス!」
後方でリヴが叫ぶ。蓮はそれを予知していたかのように身をかわし、呪文が通る射線を作る。三つの氷柱が相手の騎士へと襲いかかる。
「うおおっ!」
敵はそれを避ける。しかし第二の矢はこれからだ!
「ミルナス!」
フィアの放った雷が、男に直撃した!
「ぐあああっ!」
効いた!敵は衝撃に耐えられず動きを止める。
(ここだ!)
蓮の剣は、相手の左胸の宝玉へと向かっていく。
呪文を二つ操るなら、相手は格上。指輪を狙う余裕なんてない。これで仕留める!
「シルガムゴ!」
リジーの杖から呪文が放たれた黒い塊が、蓮へと向かっていく。
(まずい……っ!)
攻撃を諦め、なんとかそれをかわした。
それはベチャッと音を立てて地面に落ちる。固形のような、液体のような、不思議な物体。
(あれが敵の動きを封じる呪文か?)
「いきなり飛ばしてくるね。なかなか好戦的じゃないか」
リジーが涼しげに言葉を漏らす。対して蓮は、舌打ちしながら構え直す。
最初に騎士を仕留めてしまいたかった。相手に強化呪文を使われてしまっては、こちらが圧倒的に不利になるとわかっているからだ。
しかしそれも失敗した。次からはこうはいかないだろう。
今わかったことは一つ。
(フィアの雷は通じた。やはり、呪文を防ぐ強化呪文を使うってことか)
「うおおっ!」
蓮は攻撃を続ける。強化呪文を使わせるわけにはいかない。
やることは変わらない。こちらは三人だ。リヴとフィアの時間差攻撃で、相手を逃さず仕留める!
「フィズラス!」
リヴの声に合わせて、蓮は体を避けて敵の騎士に呪文がぶつかるようにする。
またもこれはかわされた。しかしここで、もう一度フィアの呪文が発動すれば……!
だが蓮の期待も虚しく、フィアの攻撃は続かなかった。
(まだ呪文を撃てないのか?)
俺とリヴの攻撃だけでは、相手の手数を封じきれない。
「ルドガムゴ!」
リジーの杖から放たれた光は、今度は自分の騎士に当たった。
「しまった……!」
(これが聞いていた強化呪文か。防ぐことができなかった……!)
「ここからは……本気で行くぜ!」
今まで守勢にまわっていた男は、今度は力強く間合いを詰めてきた!
相手の動きがはっきりと速くなった。
繰り出される攻撃を剣で受け止めると、先ほどよりも明確に威力が変わっている。
(重い……っ!)
蓮は弾かれるように後方へ吹き飛ばされる。構わず相手は距離を詰めてくる。
四肢の動きはしなやかで、まるで鞭のように変わった。そこから繰り出される攻撃は、確実に蓮を追い詰める。
「そらそらっ!」
(防ぎきれない……っ!)
「フィズラス!」
リヴは三度呪文を放つ。しかし相手は、先ほどよりも余裕を持ってそれをかわしてしまう。
回避に使った勢いをそのまま攻撃に転じ、鋭い剣閃が蓮を襲う!
「うあっ!」
後方へ吹き飛ばされると同時に、今度は剣も弾き飛ばされてしまった。
「シルガムゴ!」
そしてリジーから放たれた呪文は、蓮の右手に直撃した。
「うわっ!……なんだぁ!?」
蓮の右手は薄黒い奇妙な物体に閉じ込められてしまった。
(これじゃあ、剣を持つことができない!)
動きを封じられた蓮に、男は容赦なく襲いかかる。
「オラァっ!」
「くっ!」
なんとかかわすが、長く持ちそうにない。
「やめるです!ミルナス!」
リヴからずいぶん遅れて雷が放たれる。それは男に直撃するが……。
「……ふん」
先程効果のあった呪文が、今度は効いていない。
「やっぱり効いてねーです!」
相手の騎士は無敵の存在となってしまったのか。それなら……。
「リヴ!フィア!王女の宝玉を直接狙うんだ!」
「……はい!」
「わかったですぅ!」
戦略を隠すこともできないが、もうそれしかない。それまで相手の騎士は俺が引きつける!
「舐めるな、そんな暇与えねえよ!」
相手の連続攻撃は蓮の体を掠め、生傷が増えていく。なんとか素手で応戦するが、有効な攻撃にはならない。
それでも食らいついていくが……。
(……リヴ、どうした!?そろそろ次が撃てても良いはずだ!)
フィアも遅いが、リヴも明らかに呪文のペースが落ちている。
その理由を、リヴもフィアも理解できずに戸惑っていた。
(どうして……?杖の反応が鈍い!)
打つ手のない蓮達を前にして、リジーは勝利を確信していた。
(あの子達……呪文の基本的なルールもわかっていないみたい。この勝負、もらったわ)




