俺は彼女の騎士
「お前の使える呪文はこれだけか?」
「そうです!これ一つあればフィアは無敵ですぅ」
「歯が立たなかったって言ってたじゃねーか」
遠慮無いツッコミを入れながら話を続ける。
「今まで杖が強く輝いて、呪文が強力になったことはないか?」
「なんの話ですか?フィアの雷は元々強力ですぅ」
どうやら彼女からは呪文の謎の手がかりは掴めそうにない。相手の騎士は、盾は持ってないという話だったが……。
「敵の王女が使う呪文も一つか?」
「……そういえば、二つ使ってたと思うです」
「なんでお前らは一つしか使えないのに、二つ使える奴もいるんだ?」
それは才能の違いなのか?それとも他に何かがあるのか。
「すみません、一つしか使えなくて」
「あ、いや、責めてるわけじゃないぞ」
申し訳なさそうにするリヴを、蓮はフォローする。
前回の戦いでは、フィズラスが強力になったこともある。だが条件がわからない以上、戦略に組み込むことはできない。
「で、敵の呪文はどんなのだった?」
「一つは、自分の騎士にかけてたです。それから軟らかくなったり、呪文が効かなくなったですよ」
一つは自分の騎士を強化する呪文か。軟らかくなるというのがわからないが、呪文を無効化するというのは脅威だ。
「もう一つは、ネバネバした物を撃ってきたです。それでフィアの騎士は身動きが取れなくなって、簡単にやられちまったですよ」
もう一つは、こちらの動きを制限してくる呪文か。二つの呪文を操る王女。思った以上に厄介な敵になりそうだ。
「だが事前に知っておくことができたのはアドバンテージだ。なんとか敵の術中にハマらないように気をつけないとな」
まだ見ぬ強敵に向かって、三人は闘志を燃やすのだった。
フィアの呪文は確認した。敵の情報も得た。これ以上前もってできることはないだろう。
「近くに例の王女はいそうか?」
「おそらくこの街のどこかには。詳しい場所まではわかりません」
「フィアも同意見ですぅ」
どうやら二人の探知能力はあまり変わりないようだ。
「じゃあフィアは街中に行け。人混みに紛れていれば、相手も簡単に手を出してこないだろ。近づいていることがわかったら、ここに誘導するんだ。俺達が迎え撃つ」
「わかったですぅ……見捨てないですよね?」
フィアが珍しくしおらしい。こいつなりに不安なんだ。もしかしたら普段の態度も、それを隠すためなのかも知れないな。
「……ああ、安心しろ。ちゃんと助けてやるからよ」
「役に立たなかったら承知しねーです!しっかり働くですよ?」
前言撤回。やっぱりこいつ素だ。
* * *
フィアが街中へ消えて、一時間以上が経っていた。
果たして敵は釣れるだろうか。そして、戦いになって勝てる相手だろうか?
「すみません、こんなことに巻き込んでしまって」
「気にするな。昨日言ったろ?これくらい避けてちゃどうせ勝ち残れないんだ」
「それもありますけど……フィアって、ああいう性格ですから」
「ああ……」
クソ生意気な性格に随分と振り回された。リヴの友人でなければ付き合う義理などなかっただろう。
「まあ、お前が庇ってくれるからなんとかな……ガキ相手に本気になってもしょうがないしな」
リヴは、昨夜蓮が激昂した瞬間を思い出したが、あえてそのことには触れなかった。
「根はいい子なんですよ……ああ見えて」
「……ああ見えて?」
「ああ見えて」
二人で顔を合わせて、吹き出してしまった。
「……僕達、勝てますかね?」
「……勝つさ」
敗北は二人の別れを意味する。蓮もリヴも、まだ一緒にいたいという気持ちは同じだった。
「……!フィアがこっちに動き始めました!」
「敵は釣れたのか?」
「待ってください……いました、もう一人!」
どうやら作戦の第一段階は成功したようだ。
「できるだけこっちに引きつけないとな……仲間がいるとバレると、逃げられるかも知れない。リヴはもうちょっと離れたところにいてくれ。俺は街の近くで、隠れて様子を見る」
「わかりました」
今すぐ助けに行ってやりたいが、俺だけではフィアの位置がわからない。そしてリヴが動くと相手に察知されてしまう。
しばらく街の方角を眺めていると、フィアが走ってこっちにやってきた。後ろからは、騎士も追ってきている。
「ギャーっ!こっちに来るなです!」
フィアは泣き叫びながら必死に走っている。しかし敵の方が速い。
「宝玉を出さねえなら……そのネックレスをよこしやがれ!」
追い縋る剣が、フィアに届こうとした──その瞬間。
鋭い金属音と共に、蓮の剣が割って入り、フィアを守った。
「何っ!?」
「はあ、はあ……もっと早く助けろです!」
「助けられておいて最初に言う言葉がそれか」
これだけ生意気な口を叩ければ、こいつの心配はしなくていいだろう。
「なんだお前、こいつの騎士か?」
「いや、違う。俺は……」
背後から、水色のドレスを翻し、美しき王女が戦場に現れる。
「リヴの騎士だ!」




