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ホワイトデーのお返しの意味

「近藤、これ」


「あっ、ホワイトデーのお返しだね。どうもありがとう」


 下校途中、先月のチョコのお礼をする。

 俺には手作りなんてできないから、それなりに良い物を購入した。


「美味しそうな飴があったから」


「……えっ、飴?」


「えっ? ……そうだけど……嫌いだったか?」


 飴が嫌いな人間なんて、この世にいるのか?


「鷹見くん、ホワイトデーに飴を渡す意味ってわかってる?」


「意味?」


「ホワイトデーに飴でお返しするってことは……その子のことが、好きって意味だよ」


「えっ……ええええっ!?」


 思わず大きな声が出た。

 周りにいる生徒が一斉にこっちを見る。


「鷹見くん、私のことが好きだったんだ」


「いっ、いやっ……違っ……」


「……ふふっ、わかってるよ」


 近藤が悪戯っぽく笑った。


「……そんな意味があったなんて、初めて知ったよ」


 俺なんかが近藤みたいな美少女を好きなんて……恐れ多い。


「南條さんには何渡したの?」


「あいつには……マフィンを……」


 ただ、美味しそうだと思ったから。


「ええっと……マフィンの意味は……」


 近藤がスマホで検索をかけている。


「『あなたは大切な人』だって」


「……」


「南條さん、喜ぶと思うよ」


「……大切な……友達だよ」


 それは間違っていない。

 だから問題はない、はず。


「フィアちゃん達にはもう渡したの?」


「ああ、朝登校する前に」


「何渡したの?」


「ええっと……」


───


「ただいま」


「おかえり」


 レーカさんの家にプレゼントを届けた後、自宅に戻った俺を出迎えてくれたのは、アイリスだ。


 海外出身のレーカさんには、お団子を渡した。

 和菓子には特に意味はないらしく、素直に喜んでもらえたようだった。


「リヴはいないのか?」


「あの子なら買い物に行ってるわよ」


「そうか。フィアは?」


「部屋にこもってるみたいね」


 またゲームでもやってるのか。

 出迎えくらいしてくれても良いだろうに。


「学校お疲れ様。あんたがくれたマドレーヌ、取ってあるから一緒に食べましょ」


「えっ? ああ……」


 部屋着に着替えて居間に戻ると、アイリスが紅茶を淹れて待っていてくれた。

 湯気の立つカップから、柔らかな香りが漂う。


「それじゃ、食べましょ」


 ソファーに腰掛けた俺の隣に、アイリスが座る。


「これ美味しいわ。ありがとうね」


「ああ……アイリスが淹れてくれたお茶も美味しいよ」


 妙だ。

 アイリスがいつもより優しい。

 距離もやけに近いような……。


 彼女に渡したマドレーヌ。

 ホワイトデーに渡す意味は、「あなたと親密になりたい」らしい。


(まあ、間違ってはいない。別に変な意味はない……はず)


 そもそも、アイリスがいちいち意味なんて調べたり、気にしているのかどうか。


「フィアは部屋から出てこないんだな」


「あの子のことが気になるの?」


「ああ……おやつを食べていたら、自分にも食べさせろ! ってなりそうなもんだが」


「そうね。あの子もリヴもいなくって、二人っきりなんて……久しぶりね」


「そういえばそうだな」


 リヴは家事をして、フィアは居間でだらける。

 それが彼女達の日課なので、アイリスと二人きりというのは滅多にない。


「リヴは、どこまで買い物に行ったんだ?」


「近くのスーパーじゃない?」


「何を買いに行ったんだろうな」


 何気ない会話。

 だが──


「……さっきから、他の子の話ばかりするのね」


「えっ?」


 アイリスが、綺麗な顔で俺を覗き込んでくる。


「今あんたの隣にいるのは、あたしよ」


「お、おう……」


 改めて、顔を見る。


(可愛すぎる)


 美人は三日で慣れると言うが、こいつの顔には慣れる気がしない。

 俺は不自然に目を逸らした。


「……あんたって、どういう女の子が好きなの?」


「えっ?」


「ディズニーで、あたしには聞いたわよね。あんたの好みは聞いたことなかったと思って」


 そういや、そんなこともあった。

 その時こいつは、背が高くて顔が良くて誰よりも強い、なんて言ってたっけ。


「俺は……優しい子が好きだよ」


「優しくない相手が好きな人なんていないわよ。そんな無難な答えじゃなくって……あんたの本心が聞きたいわ」


「本心……か」


 なんとも気恥ずかしい。

 でも、ここは本当のことを言うべきなんだろうな。


「俺は……」


 言いかけたところで、言葉が喉に引っかかる。

 少しの間を置いてから、口を開いた。


「……俺のことを、受け止めてくれるような人が、きっと好きだ」


「受け止める?」


「……俺のカッコ悪いところとか……情けないところも受け止めて、それでも一緒にいてくれる人が、好きだ」


「……ふーん、なるほどね……」


 含みのある反応。

 恥ずかしいことを言ったことはわかっている。


「……軽蔑したか?」


「しないわよ。本心を言えって言ったのはあたしだもの」


 彼女の目が細められる。


(それに……あたしになら情けないところを見せてもいいって、思ったんでしょ?)


 アイリスは静かに、満足そうに笑みを浮かべた。


 その後、俺達は他愛のない話をした。

 学校のこと、最近のこと。


 やはり、アイリスの様子はいつもとどこか違う。


(こいつ、こんなに優しい顔をするんだな)


 いや、ただ俺が見過ごしてきただけなのかもしれない。


 ガチャリ。


 ドアの開く音が聞こえる。

 顔を向けると、そこには目の周りを真っ赤に腫らしたフィアがいた。


「〜〜っ、バカバカ、バカ蓮っ!」


 突然、大きな声を上げながらの罵倒。

 居間が瞬時に静まり返る。


「フィアだって……お前のことなんか嫌いですぅ!」

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