ゴスロリ美女との出会い 彼女の剣と金メダル
シルエナ達と共に戦い抜いた国内決戦。
その戦利品として、シルエナ陣営は四つの指輪を手にしていた。
一つはシルエナが、もう一つはベルーナが、そして残りの二つは俺達の手に渡った。
三人の王女の中で、複数の騎士を有しているのはリヴだけ。
フィアとアイリスがそれぞれ手にすることに異論を挟む者はいなかった。
「蓮、あたしにふさわしい騎士を探してきなさい」
「そんなこと言われても、どこを探せってんだ」
俺は腕を組みながら天井を見上げた。
(また近藤の道場からスカウトするか? 記憶を失くした難波さんにもう一度頼むというのも気が引ける)
「日本で一番強い人を連れて来てちょうだい」
「無茶言うな」
だがこれから参戦してもらうとなると、生半可な人ではついてくることが難しいのも事実。
俺がなんとか戦えているのは、リヴとアイリスに強力な装備を与えられているからだ。
新しく参戦する騎士は、その恩恵を十分に受けることはできない。
それこそ鹿野さんのように相当な実力を持っていなければ、ついてくるのは難しいだろう。
今後のクイーンズクレストは更なる激化が予想される。
三大勢力との戦いを、見据えなければならないのだから。
「リヴはどう思う?」
「えーっと……そうですね……」
彼女は困ったように視線を落とし、しばらく考え込む。
だが彼女から良いアイデアは出てこなかった。
リヴは人を戦いに巻き込むことを良しとしないし、こういうのはそもそも不得意なのだ。
「仮に強い人が見つかったとしても、協力してもらえるとも限らないけどな」
「あたしの魅力の前で首を横に振る相手なんていないわ」
相変わらずアイリスは自信に溢れていた。
そして、この家にはそれ以上に強引で我儘な王女がいる。
彼女はいつも家でゲームをして過ごすことが多いのだが、今日は珍しく用事で留守にしていた。
───
「これ、うめーですぅ」
フィアは千早と一緒にカフェで一息入れていた。
グラスの中はゼリーと生クリームで埋まり、その上にはプリンにソフトクリームまで添えられている。
彼女はすっかりご機嫌だ。
「映画面白かったね、フィアちゃん」
向かいに座る千早が、紅茶を飲みながら微笑む。
今日は二人で【鬼殺の剣・夢幻城編】を観てきたところだ。
フィアに必要な費用は全て蓮が出している。
「いいことを思いついたのです。元の世界に帰ったら、鬼殺の剣はフィアの作品として全世界に出版するのですぅ」
「……えっ?」
「反撃の巨人も、ドラゴンピースも全部フィアの作品として世に出すのです。これでエクレールはコンテンツ大国となること間違いなしですぅ」
「う~ん……」
流石にそれはどうなのだろう、と千早は思った。
「……訴えられることはないかも知れないけど、他の王女様に真似してるってバレちゃうんじゃない? どれも世界中で人気のある作品ばかりだし」
「……それもそうですね」
フィアはスプーンを持つ手の動きを止める。
「流石にパクリ魔とレッテルを貼られてはフィアの沽券に関わるのです」
「うんうん」
「なので、そう言われないようにちょっと変えてから世に出すのですぅ」
「……」
元の世界に戻られたら、もう自分には彼女の暴走を止めることはできない。
パフェを幸せそうに頬張る小さな王女を見ながら、千早は彼女の将来が本気で心配になった。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けて新たな来客が入ってきた。
女性だ。
金髪ロングの白人。歳は二十代だろう。背は千早よりもさらに大きそうだ。
「こちらの席へどうぞ」
彼女はフィアの視界の前方に位置する席に通される。
そこで彼女は仰天した。
「おっ、王女です!」
「えっ?」
突然の言葉に、千早は反射的に振り返る。
まさか戦闘になってしまうのか──
そう思う彼女の視界に映ったのは、コートを脱ぎ露わとなった白一色のゴシックロリータ。
袖口にも肩口にも、細かなフリル。
胸元には装飾的なリボンとレースが幾層にも重なり、首元には黒いチョーカー。
頭上にはゴシック調のヘッドドレスが載っている。
「すみません……素敵なお洋服ですね」
こちらの反応に少し驚いた様子の彼女に、千早は軽く頭を下げる。
彼女は気にしていない、といった様子で柔らかく微笑んだ。
「フィアちゃん、あれはああいうファッションなの。王女様とはまた違うのよ」
「そうなんですか?」
詳しくなければ、誤解してしまっても無理はない。
フィアは敵ではないと知って安心したようだ。
「この格好に興味があるんですか?」
続けて話しかけてきたのは、そのゴスロリ美女だった。
「こっちは平民でもドレスを着るですね」
「あら、お嬢さん。お父さんが偉い人なのかな?」
「フィアは高貴な生まれなのです。よきにはからえですぅ」
初対面でも不遜な態度を隠さないフィアに、千早はハラハラした。
「よく見ると二人ともとっても可愛らしいのね。もし良かったら、うちに来てくださらない?」
「えっ?」
千早は思わず聞き返す。
「私、ドレスをたくさん持っているの。着せ替えも大好きで、友達にもよく着てもらってるんですよ」
「そこまで言うならしょうがないです。お前の家で世話になるから、ありがたく思えですぅ」
千早が返事を考える間もなく、二人だけで話は決まってしまった。
ここから断るのも悪いので、千早はこの女性の家にお邪魔することにした。
「私、ファルカシュ・レーカって言うの。よろしくね」
笑顔と態度がとても柔らかい。
初対面だが、良い人なのだと千早にはわかった。
続けて二人も自己紹介をする。
「ファルカシュさんは、どちらの国の方なんですか?」
「私はハンガリーから来たの。祖父が日本人のクォーターなのよ」
「そうなんですね」
千早は頷きながら、頭の中で小さく首を傾ける。
彼女はハンガリーに詳しくない。
どの辺りにあるのかもよくわからないが、後で調べてみようと思った。
「ハンガリーは日本と同じで、名前が後なのよ。よかったらレーカって呼んでほしいわ」
「わかりました。私のことも千早って呼んでください」
「特別にフィアの名前を呼ぶことを許すのですぅ」
「よろしくね。フィアちゃんはどちらの国の子なの?」
「えーっと、アメリカですぅ」
フィアは蓮から、とりあえずアメリカと言っておくようにと言われている。
彼女の機転に任せると、碌なことにならないからだ。
「私、日本が大好き。日本のお友達が増えて嬉しいわ。これからよろしくね」
そう笑う彼女は、とても美しく、ドレスも相まって気品に溢れていた。
───
「どうぞ、中へ入って」
レーカに案内された部屋は、特に変わったところはない普通のものだ。
だが彼女がクローゼットを開けた時、千早は唸るように感心した。
「すごいですね」
黒、白、深紅、青。
色とりどりのゴシック調のドレスが所狭しと詰まっている。
「あなた背が高いから、私のドレスもきっと合うわ。これなんかどうかしら」
千早が着替えさせられたのは、黒と白のフリルが幾重にも重なったクラシックなゴスロリだった。
胸元や裾には小さな黒いリボンが並び、パニエで広がった膝丈のスカートが、人形のような丸いシルエットを作っている。
「可愛い! とても似合ってるわ!」
「千早、可愛いですぅ」
「そ、そうかな……?」
千早は可愛いものが大好きである。
だがファッションに関しては、自分の高身長を理由に、そういうものは似合わないと諦めてきた。
だから今、周りに褒められても、その評価が妥当なのかは彼女にはわからない。
「次はこれなんかどうかしら」
レーカが取り出したのは、ピンクと白を基調とした、いわゆるスイートロリータドレスだった。
「こ、これは流石に可愛すぎるんじゃ……」
「絶対に似合うわ。着せて見せてちょうだい」
千早はたじろいだ。
だがレーカは全く引かない。
「ところでフィアのドレスはどこですか?」
彼女が横から口を挟む。
「あなたに合うサイズはここにはないの。でも準備してるから、ちょっと待ってちょうだい」
「そういうことなら待ってやるのですぅ」
フィアは暇を潰すため、適当に部屋の中を探検した。
興味の赴くままに遠慮なく扉を開け、寝室にまで入り込む。
そこで棚に飾られているあるものが目についた。
写真だ。
白い衣装に身を包み、針のような剣を握るレーカの姿。
そしてその隣には、堂々と輝く金メダルがあった。




