一年の始まりも王女達と共に
「おはようございます。蓮さん」
「おはよう、リヴ。あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
元日の朝。
少し寝坊して起きてきた俺を、変わらず早起きのリヴが迎えてくれる。
昨日は年越しの瞬間まで皆が起きていた。
その瞬間に年越しの挨拶をしたので、朝は二度目ということになるのだが、なんとなく言わないと落ち着かないような気がして、ついしてしまう。
「お雑煮できています。食べませんか」
「ありがとう。もらうよ」
リヴが作ってくれたお雑煮と、事前に注文し用意していたおせちが並ぶ。
リヴとアイリスもおせちに挑戦すると言ったのだが、年末年始くらいはゆっくりして欲しくて、俺が注文を押し切ったのだ。
「お雑煮美味いよ」
「ありがとうございます。おせちも美味しいですね」
「口に合ったなら、良かったよ」
正直、おせちは皆が喜ぶご馳走かと言うと微妙だと思う。
俺一人だったら、わざわざ用意しようとは思わなかった。
だがせっかくなので、日本の正月を感じて欲しくて注文を決めたのだ。
「おはよう」
「おはよう、アイリス。あけましておめでとう」
「それ昨日言ったじゃない。あれ、昨日じゃなくて今日だったかしら……」
今日ばかりはアイリスも寝坊気味だ。
しかしフィアがもっとも遅いのは変わらない。
結局起きてきたのは、いつもよりさらに遅い九時過ぎだった。
「これ、あんまり美味くないですね」
予想した通り、おせちはフィアには不評だ。
だが伊達巻と栗きんとんは気に入ったみたいで、そればかり食べようとする。
「ごちそうさま」
「洗い物は俺がするから、リヴは休んでろよ」
「ありがとうございます」
リヴも休ませて、昼過ぎまで特に目的もなくダラダラと過ごす。
午後からは、近藤も誘って初詣に行く予定だ。
「ところで、お年玉はまだですか?」
「え?……用意してないぞ」
フィアが当たり前のように要求してくる。
なんでもらえると思ってるんだよ、こいつ。
「フィアは子供です。お年玉をもらう権利があるのですぅ」
「……お年玉ってのは、目下の人間がもらうもんだそうだ。お前、俺の主君を名乗ってたよな。むしろお前が俺に渡すべきなんじゃないのか?」
「はーっ、そういう細かいことを気にするから、お前はモテないのですぅ」
相変わらず都合に合わせて自分の立場をコロコロ変えやがる。
新年になっても、こいつの調子は変わらないらしい。
───
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」
近藤と合流して、初詣のために神社へと向かう。
気温は氷点下二度。
皆が厚着をする中、相変わらずアイリスは短いスカートを履いているが、流石にタイツでしっかり防寒している。
目的地は、ここからなら徒歩で行ける距離だ。
ギュッ、ギュッ……
雪を踏み締める音が規則的に響く。
頬に当たる風は少し痛い。
白い息を吐いて談笑しながら二十分ほど歩く。
まばらだった人影が、一ヶ所に吸い寄せられるように集まっていくのがわかる。
やがて雪を被った大きな鳥居が見えてきた。
北海道神宮の入り口だ。
奥には立ち並ぶカラマツの木と共に参道がしばらく続く。
さらにその奥、本殿の前には、すでに何人もの人が詰めかけていた。
「ここも日本、って感じがしていいですね」
リヴは周囲を見渡して、嬉しそうに笑った。
「じゃ、お参りするか」
各々が小銭を投げ入れ、手を叩いて目を閉じる。
胸の奥で願うのは、こいつらとのこと。
(できるだけ長く、こいつらと一緒にいられますように)
「お前、何をお願いしたですか?」
「クイーンズクレストに勝ち抜けますように、だよ」
「殊勝ね。あたしも、あんたがちゃんと働くようにお願いしておいたわ」
結局みんな、クイーンズクレストに関することを願ったらしい。
まあ、そうなるか。
「あそこは何ですか?」
リヴが、本殿とは別の人だかりを気にしている。
「あそこはおみくじを売ってるとこだな。一年の占いみたいなもんだ」
人数分、おみくじを購入した。
丸まったそれを開くと、中には『凶』と書かれていた。
「……お前ら、どうだった?」
「小吉って書いてるです。これって良いですか?」
「あたしは中吉って書いてるわ」
「あたしも中吉だ」
「僕は、大吉って書いてあります」
皆、順当に良い運勢を引き当てたようだ。
「蓮さんはどうでした?」
「俺は、凶だったよ」
「げーっ、新年早々縁起でもねーやつです。不運が移るから近寄るなですぅ」
悪態をつくフィアに苦笑いをすることしかできない。
「蓮さん、僕のと合わせたら、小吉くらいになりませんかね?」
リヴの優しさが心に染みる。
爪の垢を煎じてフィアに飲ませてやりたい。
「……しょうがないわね。あたしの運も分けてあげるわ」
「じゃあ、あたしも」
みんなが、俺に気を遣ってくれる。
最後に残ったフィアも、バツが悪くなったのか、渋々といった様子で自分の運を分け与えることに賛同した。
「全員合わせたら、中吉くらいですかね」
「いいね。あたし達はチームみたいなもんだから、運はみんなで分け合おう」
みんなの言葉に、心が温かくなるのを感じた。
(こいつら、良い奴ばかりだな)
───
近藤と別れた後、俺達は自宅でカルタを始める。
少しでも日本文化を感じて欲しくて、ことわざが記載されたものを用意した。
読み手は俺。
聞き取りやすいようにゆっくりと読み上げる。
「可愛い子には旅をさせよ」
「はい!」
アイリスが素早く札を取る。
「これ、どういう意味?」
「可愛い子はちゃんと旅行に連れてけという意味です。お前、また今度フィアを遊びに連れてけですぅ」
「子供のためを思えば、ちゃんと苦労もさせるべきという意味だ。お前は可愛くて仕方ないから、ちゃんと苦労を与えてやろう」
「あっ、ありがた迷惑です! そんなのいらないのですぅ!」
次の札を読み上げる。
「良薬は口に苦し」
「はい!」
今度はフィアが近くにあった札を取った。
「これはどういう意味ですか?」
「良く効く薬は苦い。つまり、自分に有益なものは快いものではないってことだな」
昔の人が残した言葉は、どれもフィアに伝えてやりたいものばかりである。
「次、破れ鍋に綴じ蓋」
「はい!」
今度はリヴが札を取る。
「これはどういう意味ですか?」
「欠点がある相手であっても、ちゃんと相応しい相手がいるってことかな」
「じゃあ、これは僕のことですね」
「えっ?」
「欠点だらけの僕を、蓮さんが支えてくれてここまで来れました。ありがとうございます」
まっすぐな目で見つめられると、こっちが困ってしまう。
「……欠点ばかりなのは俺だ。それをリヴが支えてくれたから、戦ってこれたんだ。礼を言わなきゃいけないのは俺だよ」
ここでアイリスが、わざとらしく咳払いをした。
「……まあ、このアイリスちゃんがちゃんとあんたを引っ張ってあげるから、感謝しなさいよね」
リヴとアイリス。
二人とも俺の大切なパートナーだ。
そしてもう一人。
俺達は三人一緒に、フィアの顔を覗き込んだ。
「俺達はお前を見捨てないぞ。一緒に成長していこうな」
「どういう意味ですか!」
正月の鷹見家に、暖かい笑い声が響いた。




