騎士と王女を結ぶガラスの靴
午前中を遊び尽くし、俺達はレストランに来ていた。
内装は多角形の壁や窓、青い照明など、近未来を意識したように風変わりだ。
主なメニューはハンバーガー。
バンズはキャラクターの顔になっており、愛嬌が溢れている。
「ナイフとフォークはどこ?」
アイリスが辺りを見回しながら言った。
彼女達にとって、ハンバーガーは初体験だ。
「そんなもんない。手で持ってかぶりつくんだ」
そう言いながら、俺は実演して見せる。
バンズを持ち上げて軽く一口。
肉汁とソースが口の中に広がった。美味い。
「……このアイリスちゃんに、そんな野蛮な食べ方をしろって?」
「こっちの世界の偉い人だって、みんなこうやって食べるんだよ」
俺は、アメリカの大統領がハンバーガーを食べている画像を思い出した。
隣でリヴが、慎重に自分の分を持ち上げている。
小さく口を開けて、一口。
「……美味しいです」
彼女は柔らかく微笑んだ。
それに触発されたのか、アイリスも意を決して口にする。
だが上手くいかず、具がバンズからはみ出した。
「もう、何よこれ!」
「ははは!」
何事もスマートにこなそうとするアイリスがたじろいでいるところを見られただけでも、これを注文した甲斐はあったってもんだ。
(……それにしても)
どこに行っても、やはり周りに見られている。
注目されているのは勿論、リヴとアイリス。
男だけじゃない。女性もすれ違いざまに二人に目線を合わせる。
二人には、男女問わず惹きつける魅力がある。
そんな美少女に囲まれる、平凡な男が俺だ。
(こんなに楽しくって、いいのかな……)
そう考えたところで、俺は自分の愚かさに気づいた。
(バカか俺は。彼女達には素直に楽しめと言っておいて)
俺が引け目を感じているとして、二人がそれを良しとするわけがない。
「──楽しいな」
ぽつりと漏らした俺の顔を、二人が覗き込む。
「午後も、楽しもうな」
リヴとアイリスは、満足そうに笑った。
午後も俺達は、ジェットコースターに乗ったり、グッズショップを覗いたり、存分に遊び回った。
そして楽しい時間は、あっという間に過ぎるもの。
気がつけば辺りはすっかり暗い。
園内はライトアップされ、日中とはまた違った顔を見せる。
「綺麗ですね……」
「ああ」
皆で見上げるのは、シンデレラ城。
園に入ってすぐに目についた、夢の国の象徴。
だが今の姿は、昼間のそれとはまるで違う。
青い光に無数の白い輝きが重なり、まるで氷でできているかのように煌めいている。
「城のライトアップというのもいいわね。お祭りの時なんかに、ロゼリア城でもやろうかしら」
白のアーチを潜ると、外の喧騒が少し遠くなった。
壁も床も石造りの雰囲気を醸しており、廊下はやや薄暗く、暖色の照明が等間隔に灯っている。
「お前らの城もこんな感じか?」
「雰囲気は似てますね」
「こっちの世界のお城も、なかなか立派じゃない」
壁には、シンデレラのストーリーを追うことができる絵画が飾られている。
「この絵は何を表しているの?」
「シンデレラっていう、こっちの世界のおとぎ話だな」
俺は二人に物語の説明をした。
「ってわけで、ガラスの靴とサイズの合ったシンデレラは、無事王子様と再会し、結婚して幸せに暮らしましたとさ」
ただの少女が王子様に見初められる。
女の子の夢を形にしたみたいな物語だ。
「なんでガラスの靴は、魔法が解けても無くならなかったの?」
「え?」
「それに、シンデレラと同じサイズの足の女性なんて、いくらでもいるじゃない」
「えーっと……」
アイリスの素朴な疑問。
確かに、言われてみればおかしい。
「……あれだ。王子様に見つけてほしいっていう想いが、靴には強く残ってたんだよ」
「想い?」
「だから靴は消えなかったし、シンデレラ以外の女性には履けなかったんだ」
多分。
……いや、知らんけど。
「想いの強さが魔法を強くする。僕達と同じですね」
リヴの言葉に、アイリスも「なるほどね」と納得したようだ。
本物の魔法を操るお姫様からすれば、庶民とは違った感想を持つのは無理もないのかもしれない。
回廊を抜けると、最奥に広い空間が現れた。
天井は高く、幾何学模様の装飾が描かれ、ドーム状に広がっている。
中心には巨大なシャンデリアが吊り下がり、無数の光を反射して輝いていた。
その下には白い柱が並び、壁は青色と金色のカーテンで彩られている。
ここで見られるのは玉座。
そして、光を浴びて輝くガラスの靴。
一つは完全な鑑賞用。
もう一つは、実際に足を入れることができる。
二人がサイズを合わせようとすると、リヴには少し大きく、アイリスには丁度良かった。
「これで王子様は、あたしを見つけてくれるってわけね」
「アイリスにも、そういう願望があるのか?」
「あたしにだって、憧れくらいあるわよ」
「どんな男性が好きなんだ?」
俺がそう言うと、アイリスは俺を舐め回すように見ながら答えた。
「……背が高くて、顔が良くて、誰よりも強い、そんな男よ」
「要は俺とは全く違う男だって言いたいわけだ」
「ふふ、あたしに釣り合う男になりたかったら精進しなさい」
そう言われても、身長と顔なんて俺の努力でどうにかなるもんでもない。
誰よりも強く、というのも無理難題だ。
「僕は、蓮さんにもう見つけてもらいました」
リヴが、ぽつりと呟いた。
「僕を見つけてくれたから、ここまで来られました。とても感謝してます」
その言葉に、俺の胸の奥から何かが込み上げてくる。
「……違う。見つけてくれたのはリヴ、お前だ」
お前が見つけてくれたから、俺は変われたんだ。
つまらない人生に光をくれたのは、お前だ。
「この指輪は、俺にとってのガラスの靴だったわけか」
俺は、左手の薬指と中指で輝く銀のリングを感慨深く眺めた。
「……あたしもあんたを見つけてやったんだから、感謝しなさいよね」
「ああ、ありがとうよ」
二人に見つけてもらって、俺の運命は変わった。
その恩に報いるために、強くなる。
そしてこいつらを守ると、改めて自分に誓いを立てた。




