王女達が見た宇宙と海
「スターツアーズ、1401便。発進を許可します」
俺達は宇宙旅行の観光客として座席に座り、これから宇宙へと飛び立とうとしていた。
周囲は完全な暗闇。
だが次の瞬間──
前方でシャッターが開くようにしてモニターが現れ、光が漏れる。
そこに映し出されたのは、鋼鉄で覆われた広い格納庫。
そこから飛び立とうと奥に広がる漆黒の宇宙空間が近づいてきた時、無数の白い兵隊と共に、黒い仮面と装束に身をまとった、いかにも悪党という男が俺達を呼び止めた。
「スパイが乗っているな。中を調べさせてもらおう」
その言葉を振り切るようにモニターは加速。
兵士達を置き去りにし、そのまま宇宙へと飛び出した。
座席は揺れ、本当に宇宙船に乗っているかのように感じるほど迫力は満点だ。
次の瞬間、目の前に現れたのは青い光で映し出されたホログラムの女性。
「その船には反乱軍のスパイが乗っています。どうか仲間を無事に届けてください」
そして船はワープを繰り返し、上下左右に揺れ、大きくカーブ。
目の前に迫る無数の隕石帯をレーザーで破壊し、その後人工物で構成された衛星内部へと高速で突入していく。
追いついてきた敵の爆弾を弾き返す。
最後は反乱軍の基地で大勢の人に迎え入れられながら、映像は大団円を迎えた。
外へ出ると、陽の光がいつもよりも眩しく感じる。
「すごい迫力だったわ。宇宙って、とても綺麗なのね」
アイリスは珍しく興奮冷めやらぬ様子だ。満足できたらしい。
(宇宙って、実際はあんなに星が綺麗に見えないって聞いたことあるけど……)
だが彼女の夢を壊す理由はないので、余計な考えは黙っておく。
「宇宙で生活するようになっても、人は争いをやめられないんですかね……治安維持が大変そうです」
リヴは少し違った角度で物語を見ていたらしい。
「宇宙へ進出の時が来たら、遅れは取らないわ。宇宙の資源はロゼリアが確保してみせる」
「お前ら、話のスケールが大きいな」
俺のような平民とは目線がまるで違う。
流石は王族だ。
次に、俺達は薄暗い夜の水上をボートで進んでいた。
あたりは湿っぽく、水の匂いが漂っている。
周囲からは虫や獣の声が聞こえ、その息遣いも感じ取れそうなほど。
人工の施設のはずなのに、本物の入江に迷い込んだみたいだ。
「本当に海を進んでるみたいです」
「リヴは船に乗るのは初めてか?」
「はい。僕らの世界では海上は危険なので、王族が積極的に乗ることはありません」
「あたしは何度も乗りたいって言ってるのに、お父様が許してくれないのよね」
こいつらとの世界の常識にギャップを感じながら、ボートはさらに奥へ。
水の流れる音がどんどん強くなる。
「この先は危険がいっぱいだ。しっかり掴まってろ」
船頭のアナウンスが流れた後、ボートはジェットコースターのように坂道を勢いよく通り抜けた。
「きゃっ!」
水飛沫と共に辺りに広がったのは、青く光る洞窟。
その光景はどこか幻想的だ。
「綺麗……」
リヴが思わず呟き、アイリスも恍惚とした表情を浮かべている。
周囲にはまばらに骸骨が登場し、雰囲気がどんどん強くなる。
風と雷、そして大雨の音が鳴り響き、嵐を思わせる演出が広がったかと思うと──
陽気な音楽が流れ始めた。
そして現れたのは、入江で楽しそうに生活を送る何体もの海賊達の人形。
立派な海賊船が、目の前で大砲を撃ち鳴らす。
最後は海賊の親玉と思しき人物の横を通り抜け、俺達の船旅は終わりを告げた。
「ここも楽しかったな」
「こっちの世界の海賊はあんなに楽しそうなのね」
「いや、あれは過去の海賊をモデルにしてるファンタジーだぞ」
現代でも海賊はいると聞くが、あんなに絵に描いたような海賊は多分いない。
「あたし達の世界じゃ海賊なんてエンタメに仕立て上げる余裕なんてないわよ。取り締まるので精一杯で、勘弁してもらいたいわ」
「反社会的勢力の対応は、いつも国にとっての課題です。ですが彼らも、まともな職に就けずに仕方なく選んでいる側面もあり、ある意味では国の被害者なんです」
こいつら、何でも国政と結びつけて物事を考えていやがる。
「……お前らと一緒にいると、何も考えていない自分が恥ずかしくなるよ」
俺が苦笑すると、慌ててリヴが首を振った。
「あっ、すみません。そんなつもりじゃないんです」
「あんたみたいな庶民が呑気に暮らせる世界を作るのが王族の役目よ。気にする必要なんてないわ」
こいつらは、常に王族としての責任を負いながら生きているんだ。
(──こんなに楽しくって、いいんですかね……)
かつて、リヴが言った言葉を思い出す。
「お前ら、ちゃんと楽しめてるか?」
「楽しいわよ。どれも刺激的で飽きないわ」
「こんなに楽しいのは久しぶりです。大高さんには感謝してもしきれませんね」
「そうか。それならいいんだ」
今日くらい、面倒なことは考えずに羽を伸ばしてもらいたいもんだ。




