両手に花 二人の王女とのディズニーデート
周囲は人、人、人。
夢の国への入場口は、まだ開園前だというのに列をなし、皆が冬の空気の中で期待を膨らませている。
「すごい人だな。迷子になるなよ、フィア」
「子供扱いするなですぅ」
時間と共に列がゆっくり進み、金属探知のゲートを通り抜けた先で、白とパステルグリーンのアーチを潜る。
一気に視界が開け、正面に広がるのはミッキーマウスを形作った花壇。
色とりどりの花が、来客を歓迎するように咲き誇っている。
やってきた東京ディズニーランド。
いつものメンバーに加えて鹿野さん一家、そして青山とベルーナも一緒にやってきた。
誰一人欠けることなく、ここに立っている。
そのことに蓮は深い満足を感じていた。
「ディズニーなんて初めて! パパ、ママ、早く行こ!」
「家族で招待してもらえるなんて、大高さんに感謝だな」
「後日改めてお礼しなきゃね」
鹿野達も四人でディズニーにやって来られて嬉しそうだ。
「それじゃ、行きましょ、蓮」
「ああ」
蓮の右隣を、アイリスが並んで歩く。
今日は彼女と一緒に回ると、事前に約束をしていたのだ。
流石に夢の国の一日に臨むだけあって、格好には気合が入っているように見える。
白のハイネックニットが首元を柔らかく包み、その上をネイビーのショートコートが覆う。
黒い台形ミニスカートから、黒タイツ越しに伸びるのはまさに脚線美。
服装に疎い彼でも、おしゃれだとわかる。
可愛さとかっこよさを両立させた、アイリスらしい格好だ。
「じゃあ、俺達は行くよ」
そう言って輪を離れようとした瞬間──
「とても楽しみです」
もう一人、ぴたりと並ぶ存在。
リヴ。
柔らかいクリーム色のニットにライトグレーのロングコート。
ミドルのプリーツスカートは淡いブルーでふわりと動き、その下からは薄いグレーのタイツに覆われた細い脚が覗く。
アイリスが大人っぽさを演出しようとしているなら、リヴからは清楚な可愛らしさを感じる。
この辺り、二人の性格が表れていると蓮は思う。
(リヴも……とても可愛いな)
リヴとアイリス。
今日は三人で一緒に回る約束だ。
(こんな美少女二人に囲まれてディズニーなんて、俺って人生の運をもう使い切ろうとしてるんじゃないか?)
蓮がそのように考えている一方で、アイリスにもまた思うところがあった。
(まさか、リヴもついてこようとするなんてね……)
東京へ出発する前、鷹見家にてこのようなやりとりがあった。
「ディズニーでは一緒についてきなさいよ」
アイリスは蓮に命じるように伝えた。
「お前、こいつをデートに誘ってるですか? 趣味の悪いやつですぅ」
フィアがからかうようにニヤニヤと笑う。
だがアイリスは動じない。
「バカ言わないで。荷物持ちが必要なだけよ」
彼はその言葉にも気を悪くしたようなそぶりを見せず、素直に応じた。
「わかった。まあ、お互いの信頼を高めるいい機会だな」
その返答が、アイリスには少し気に入らない。
まるでクイーンズクレストに必要だから了承したみたいに。
(でも、内心は嬉しいんでしょ?)
この超絶美少女と二人きりで遊びに行けて、喜びを爆発させない男など存在するはずはないのだから。
(ふふっ、当日はどこを見て回ろうかしら)
頭の中で、アトラクションの順番を組み立てる。
写真スポット、パレードの時間、昼食の場所。
そんな考えを巡らせていると、思いもよらぬ干渉が入った。
「蓮さん、アイリスさん、僕も一緒について回ってもいいですか?」
──そのようなことがあったので、今日は三人で回ることになったのだった。
(普通、あの状況で後から一緒に来ようって思う? 確かに、デートじゃないって言ったのはあたしだけど)
アイリスは、蓮の左隣を歩くリヴの顔を覗き込む。
いつもと変わらぬ裏表のなさそうな表情で、ディズニーを楽しむことだけを考えているように見える。
だがこの純粋無垢な顔で、抜け駆けは許さない、などと考えているのだろうか。
(わ、わからない。リヴが何を考えているのか、わからないわ!)
「……アイリス、どうした? 難しい顔をしているぞ」
隣から心配するようにかけられた蓮の声。
「えっ?……なんでもないわよ。今日一日、楽しまなきゃね!」
こうして、三人のディズニー体験が始まった。
「USJを思い出すわ。雰囲気が似てるわね」
アイリスが園内を見回しながら呟く。
USJとディズニー。
その二つはテーマパークという括りでは同じかもしれないが、似て非なるもののような気がする。
しかし、あまりこういう場所を知らないアイリスにとっては、その差異は曖昧なのかもしれない。
「他に遊園地行ったことないのか?」
「ないわよ。あたしがいた北見の近くに遊園地なんてあったかしら」
北見市にも小さいながら遊園地は存在している。
だが確かに北海道の東は田舎で、観光地としては良くても遊ぶ場所は多くはない。
「ここ、ルスツにも似てますね」
ぽつりと、リヴの一言。
「何それ?」
「北海道にある遊園地だ。札幌からは二時間くらいだな」
あれはまだ、アイリスが蓮の家に来る前の話である。
「……リヴと、二人で行ったの?」
「いや、近藤とフィアもいたぞ」
(まあ、園内では割と二人きりだったけど)
そう思っても、蓮は余計な言葉は口にしない。
「……ふーん」
(ここであたしの知らない話題を出すなんて。僕はアイリスさんの知らない蓮さんを知ってるんですってわけ?)
リヴの何気ない一言は、アイリスの対抗心に火をつけた。
(リヴ、確かにあたしはあんたよりもこいつと会って過ごした時間は短い。でも、だからってあんたよりあたしとの関係が浅いなんてことはないのよ)
事実、今回の戦いで蓮はアイリスの騎士としてグリーヴを発現させた。
リヴよりも先のステージに進んだことは明らかだ。
そして、何よりも──
「あんたが死なないでここに来られたのも、あたしがあんたを助けてあげたからなんだからね」
「そうだな。そこは感謝してもしきれないよ」
「わかってるならいいのよ」
彼の命を救ったのは、自分。
これ以上の絆が存在するだろうか?
彼はもう一生自分に頭が上がらない。
アイリスはそう思っていた。
だが。
「そういやリヴ。確認したら、お前の装備でもグリーヴが身についていたよ」
「なっ!?」
アイリスは思わず目を見開く。
「お前も俺を、信用してくれてるんだな」
「そんなの当たり前ですよ。蓮さんのことは誰よりも信じてます」
リヴの純粋な好意が、アイリスの胸にチクリと刺さった。
(リヴの装備でもグリーヴが? それじゃ、あたしのアドバンテージが……)
彼女の中で、何かが音を立てて崩れていく。
「……遊びに来てるのに、野暮な話しないでよ! ほんとデリカシーないわね、あんた」
「ええ? どっちかというと、そういう話の流れにしたのはお前だろ?」
アイリスは相変わらず、蓮に対して理不尽だった。




