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二人の犠牲を払った決死の進軍の末に

「……安住さん、大丈夫でしょうか」


「……死にはしないだろう。肉体的には……」


「………」


 騎士のコスプレをしている半裸の成人男性が、二十二時に屋外で発見された場合、申し開きは不可能……!

 通報される……否が応でも……!


「他の人に見られていないことを祈るしかないな」


「……そうですね」


 安住の無念を晴らすため、彼らは振り返らず前へ進むっ……!


(あと、少し……!)


(あと、二メートル……!)


 少しずつ、だが確実に進むっ……!

 そして先頭の青山が、ついにやり遂げる……!


「やった……っ!」


「青山さん……っ!」


 青山……窓の前に到着……!


「やったぞ……っ!」


「やったっ……青山さんが着きましたよ……煌夜さんっ……!」


 蓮は後方にいるはずの煌夜に話しかける。

 だが返事は無い。


「煌夜さん?」


 振り返ると、後ろからついて来ていたはずの煌夜は、スタート地点から一歩も動いていなかった……!


「煌夜さん……なんでっ……!」


「ダメなんだあ……!」


 落涙……!

 蓮が目にしたのは、普段の軽薄な態度からはあり得ぬ絶望の表情……!


「俺様、高所恐怖症で……足の震えが止まらねえんだ……動けない……」


「そんなっ……!」


「すまねぇ……俺様には無理だっ……! そっちには行けねぇ……」


「それじゃあ……どうするって言うんですか……!」


「……戻るっ……露天風呂へ……っ!」


「何言ってるんですか、煌夜さん……(社会的に)死にたいんですか……!」


 それでも煌夜は、踵を返すっ……!


「俺様に構わず、行ってくれっ……お前達は……勝てる人間なんだから……っ!」


 そう言い残し、煌夜は露天風呂へと戻るっ……!

 湯気の向こうに現れた男の影を前に、女性陣は一瞬固まり、そして何が起きたのかを理解する。


「えっ!?」


「きゃーーっ!」


「煌夜!? 何を考えているのですかっ……!」


 突如、女性の花園に乱入する全裸の成人男性……!

 快適なリラクゼーション空間は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄と化す……っ!


「煌夜さん……っ!」


「……行こう。あいつの犠牲を、無駄にしないために……」


 彼らは振り返らず、前へと進む……!

 もうゴールは目の前……!


 が……しかし……っ!


「……開かぬ……!」


(……えっ……!)


「開かぬのだ……!」


「そんなっ……!」


 鍵っ……!

 窓を固く閉ざす、鍵っ……!

 道は開かれない……!


 壁っ……!

 突破不可能……!

 人を寄せ付けぬ、絶対防壁……!


 呆然……!

 三人は、なす術もなく立ち尽くすのみ……っ!


 考えてはいたが、考えないようにしていた。

 そこまで辿り着けば、道は開かれると。


 否……!

 窓は施錠されているのが至極当然……!

 甘い希望は、霧散……!


(ど、どうする……! 破るか……無理矢理……それとも……戻るのか……この道を……!)


───


 大浴場のすぐ外にある、休憩スペース。

 湯上がりの客が、テレビや漫画本、マッサージ機などで思い思いに寛いでいる。


 そこに混ざって、蓮と青山、緑川が死んだような目をして一点を見つめていた。

 しばらくして女湯から上がったリヴ達が通りかかる。


「あっ、蓮さん達も今上がったところですか」


「……ああ、そうだな……」


「……お風呂上がりだって言うのに、何で疲れた顔してるのよ、あんたら」


 アイリスの疑問に、答える余力を持った者はいない。


 三人は、結局その後、露天風呂に戻った。


 その時、もうリヴ達の姿は無かった。

 煌夜が見つかって一騒ぎになり、出て行ったのだろう。


 その隙をついて、彼らは男湯へ戻ることに成功した。


「ちょっと聞いてよ! 煌夜の奴、あたし達が露天風呂に入ってる時に覗きに来たのよ!」


「……軽薄なところはあれど、信に足る男だと思っていたのですが……まさか、あのような狼藉を働くとは思っていませんでした」


「………」


 憤慨するアイリスとシルエナに、俺達も実はそこにいた、なんて言えるわけも無い。


 館内着を身につけた湯上がりのリヴ達は、とても色っぽい。

 だが、そこに目をやる余裕は今の蓮には無かった。




 それから少し経った後、旅館の外で全裸の安住がスタッフに保護された。


 彼は酔ったまま「コウヤー! コウヤー!」と叫び、前転して十メートル移動。

 宥めようとするスタッフに、「裸だったら何が悪い!」と抵抗したらしい。


「シルエナの騎士って、ヤバいやつしかいないのかしら」


 アイリスの呟きに、シルエナは顔を赤くして身をすくめた。


 後で知った話だが、安住と煌夜は、騎士としての装備がしばらくワンランク下がったままだったという。

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