天空を征く勇者達 果て無く見える脱出口
「月が、美しいですね」
月明かりに、シルエナの豊満かつ優美な裸体が映し出される。
それをリヴとフィアは、羨望の眼差しで見ていた。
(シルエナさん綺麗……蓮さんは、こういう女性が好きなんだろうな……)
「シルエナは、どうしてそんなに乳がデカくなったですか?」
「あんた相変わらずデリカシーがないわね」
遠慮のないフィアをアイリスが嗜める。
「よく食べて、よく動き、よく眠る。わたくしが行っていることなど、それくらいです」
「むぅ……それならフィアも大きくなるはずですぅ」
「あんた好き嫌いするじゃない。綺麗になりたかったらトマトも食べなきゃだめよ」
胸を大きくするか、トマトを食べるか。
フィアにとっては究極の二択であった。
「トマト美味しいですよねぇ。わたしは大好きです~」
シルエナよりもさらに大きな胸を湯船に浮かべ、ベルーナは相変わらずの間延びした声で語った。
「ベルーナはなんで乳がデカくなったですか?」
「あんた、胸の大きな女性全員にそれを聞く気?」
「わたしも特別なことはしてないですね~。食べるのも眠るのも大好きです~。動くのはちょっと……苦手かもしれません~」
「乳がデカいと、やっぱり男によく見られるですか?」
「そうですね~。元樹さんも、よく気にしてるみたいです~」
「……あいつも、男なのね」
女性が苦手と言いながらも、本能は素直であるらしい。
「シルエナはどうですか?」
「男性がそれを気にしてしまうのは、仕方のないことです。煌夜などは遠慮がありませんが、理玖はあまり気にしていないようですね」
「あいつホモなんですか?」
「仮にそうだとしても、わたくしが彼に寄せる信頼に変わりはありません」
(……否定してあげなくて、いいのかしら)
アイリスは、この場にいない大高理玖に同情した。
そしてリヴは、蓮がたまに自分の胸元を気にしていることを思い出していた。
(蓮さんは、小さくても平気なのかな……)
露天風呂で絶世の美女達が会話に花を咲かせる一方で、過酷な戦場に身を投じる五人の男達がいた。
(さっ、寒い……ていうか、いてぇ……!)
湯上がりで濡れた体を、夜風が刺す……!
外気温は四度……!
全裸で過ごすには、あまりにも無謀……!
彼らは指輪によって、致命的とはならないよう辛うじて守られていた。
でなければ、この挑戦は入り口で頓挫していただろう。
(この鉄骨……キンキンに冷えてやがるっ……!)
足の裏から伝わる、圧倒的冷感……!
「うっ、うわっ!」
「青山さんっ……!」
揺れる上半身を、青山が必死に制御する……!
「あっ、危ない……!」
「濡れてるせいで……滑りやがる……!」
青山だけではない。
誰もが、想像以上の苦難の道であることを感じ取っていた。
(落ち着け……焦るな……確実に進め……)
教わったわけでもないのに、誰もが摺り足を始める。
まるで尺取り虫。そして全裸。
今の彼らは、あまりにも無力……!
勇敢に剣を取って戦場を駆ける姿など、今は欠片も無い……!
時刻は二十二時。
白い月が、外壁をわずかに照らす。
(あそこまで行けば……中に入れるかも……)
露天風呂の外、闇の向こうにガラスがうっすらと光る窓が一つ。
その距離、約十メートル……!
(遠い……!)
日常では意識しないような距離が、今は果てしなく遠くに見える。
見えているのに、届かない。
果ての無い地獄の行軍……!
「ん?」
その時、先に行く安住が光を纏う。
そしてそれは、鎧姿に変わった。
全裸に騎士の装備は、ある意味全裸よりも危険……!
圧倒的変質者……!
(すごい絵面だ……でも、そうか……!)
騎士の装備を身につけ、身体能力と感覚を強化……!
このまま一気に、渡り切る……!
その時、安住のバランスが大きく崩れる!
「あっ!?」
「えっ!?」
「安住さん……っ!?」
「あああああああああああっ!」
安住、声を上げて無情にも落下……!
「安住さん! 安住さーーんっ!」
「安住さん……」
蓮の叫びも、緑川の呼び声も、奈落へと無情にも溶けていった。
暗闇の中で、お互いの荒い息遣いが聞こえる。
「何で……?」
悲痛な表情で思わず顔を押さえる蓮に、緑川が語りかける。
「……重心だ」
「え?」
「盾と剣で重心が崩れて、濡れた鉄骨の上に耐えられなくなったんだ……」
ざわ……ざわ……。
(安住さん……っ!)
誤算……!
普段は身を守るための装備が、皮肉にも安住を奈落へと突き落とす……!




