温泉にて 男どもの裸の付き合い
「ふー」
宴が終わり、俺は青山さんと一緒に温泉に浸かりに来ていた。
いつ入っても温泉というものは良い。
戦いの疲れが、湯に溶けていくようだ。
「さっきは大変でしたね。ベルーナさんはよくお酒を飲むんですか?」
「好きなようなので、たまに飲ませているが……付き合わされるのは、少々大変である」
「よう、来てたのか蓮」
煌夜さんと緑川さんが並んでこっちに向かってきた。
この二人、本当に仲が良い。
(うっ……酒臭い……煌夜さん、相当飲んだみたいだな)
だがその割には、あまり酔ってはいないようだ。
酒に強いと自称するのは伊達ではないということか。
「お前、なかなかいいもん持ってるじゃねーか」
俺の股間を見て、煌夜さんは感心している。
「はは……」
そういう煌夜さんは俺よりでかい。青山さんは俺と同じくらいかな。
緑川さんは……タオルで隠しているのでわからない。
「男同士だってのにつまらない奴だ。こいつ、顔に似合わずでっかくてな。何人もの女が病院送りになったんだぜ」
「デタラメを言うな。僕は結婚するまでそういうことはしないと決めている」
この二人のやり取りは、相変わらずだ。
「冗談に決まってるだろ。蓮、お前も童貞だろ?」
「えっ……まあ、そうですけど」
一瞬躊躇したが、隠すことでもないので素直に話した。
「彼女はいないのか?」
「いません」
「欲しくないのかよ」
「そういうわけじゃありませんけど……」
一瞬、南條と過ごしたクリスマスのことを思い出した。
そして次に脳裏に浮かんだのは、自分が守りたい大切な女性の姿。
「リヴちゃんにアイリスちゃんに、フィアちゃんとも同居してるんだもんな。手を出すわけにもいかないし、大変だろ?」
「手を出すって……」
フィアはともかく、あんな美少女二人に囲まれて思うところが無い、とは言わないけれど。
「いい加減にしろ。すまないな、鷹見くん。こいつのことは気にしなくていいから」
「はあ」
この話を広げたいとは思わなかったので、緑川さんが助け舟を出してくれて助かった。
「俺様は先達として愛の伝道師になりたいだけなのに」
「振り撒くのは愛じゃなくて、性病の間違いじゃないのか?」
「失敬な。俺様のブツはそんなもんにかかるほどヤワじゃねぇ」
「………」
この手の話題は苦手だ。とてもついていけない。
「あーあ、今頃女湯ではシルエナやアイリスちゃん達が美貌を見せつけ合ってんのかな」
だが煌夜さんの話は止まりそうにない。
「下卑た話をするな! シルエナ様をなんだと思ってるんだ」
「シルエナ、あんたなんでそんなに胸が大きくなったの? アイリス、あなたのスタイルは完成されています。人と比べる必要はありませんよ、みたいな」
煌夜さんは裏声を使って一人二役を演じる。
はっきり言って、全く似てはいない。
「貴様……シルエナ様をそんな目で見ているのかっ!」
「いや、あれが気にならなかったらそいつは男じゃねぇだろ。蓮、お前は大きい胸は好きか?」
「えーっと……嫌いじゃありませんが……」
正直、大好きだ。だがそれをはっきりと言う勇気は無い。
「リヴちゃんはどっちかっていうと控えめだもんな。でもあの歳なら、まだこれからかもしんねーし」
「いい加減にしろ! 彼女達をそんな目で見るな!」
(話題変わらないかな……)
なんて考えていると、目の前を安住さんが通りかかった。
ふらふらとしていてなんだか危ないな、と思っていたら、足を滑らせて転んでしまった。
「あ、安住さん!?」
「あいつ、すぐ酔っ払うからなー。見てて飽きないぜ」
「そんなこと言っている場合ですか?」
まあ指輪の力で守られているから、大怪我することは無いだろうが。
彼はふらふらと立ち上がり、別の浴槽へと向かって行く。
そして大浴場の奥へと消えていった。
あの先にあるのは確か……
「あいつ、露天風呂に行ったな。俺様も行こおっと」
煌夜さんが湯気をかき分けて立ち上がる。
「蓮、お前も付き合えよ。裸の付き合いを続けようぜ」
「いいですよ」
正直このノリで会話が続くのは大変だが、断るのも悪いので素直に付き合うことにした。
緑川さんも青山さんも一緒だ。
露天風呂のドアの前で、安住さんがドアをガタガタと動かしている。
「おい、何やってんだ?」
「このドアが……開かんのだ」
ドアは建て付けが悪いようだ。
「安住さん、そんなに強引に開けようとしたら壊れちゃいますよ」
旅館の人を呼んできた方がいいのではないだろうか。
だがそのまま乱暴に揺らしている間に、ドアは開いてしまった。
「よし」
安住さんはそのまま何事もなかったかのように入って行った。
俺達もその後に続く。
そこにいた者は誰も気づかなかった。
ドアには鍵がかかっており、それを強引にこじ開けてしまっていたことを。
安住さんがドアの前に立っていた看板を避けていたことを。
そして看板に書かれていた文字は──
「現在、女性の利用時間です」




