↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
125/144

戦いが終わればノーサイド 国を背負う者達の宴

 俺達は、大阪の温泉旅館で一泊することになった。

 今回敵対したフィオナ王女の陣営の人たちも、みんなが参加した。


 またも費用は大高さん持ち。本当にこの人には頭が上がらない。


「皆様、我々は此度の決戦を経て一つとなりました。この絆は我々の未来の、希望の礎となるでしょう。我々は今後、三大勢力という更なる強敵と相対することになります。ですが今はそれも忘れて、楽しいひと時を送り、英気を養ってくださいませ」


「みんな、コップは持ったかー? それじゃ、かんぱーい!」


 シルエナの演説の後、煌夜さんの音頭に合わせて大広間で宴会が始まった。


 東京で行われた立食パーティーは、まさに社交場という感じだった。

 だがこのような場は複数の王女たちが集まる場としては、なんとなく合わない気がする。


「これが日本風のパーティーなのね。なかなか面白そうじゃない」


「わぁ~、食べたことがない料理でいっぱいですね~」


 だがアイリスやベルーナさんだけでなく、他の王女たちも馴染んで楽しそうにしている。


 日本は海外から旅行先として人気が高いと聞く。

 異世界の王女から見ても、日本の文化というのは特殊で、興味深いものなのかもしれない。


「……なんだか食べ慣れない料理ばっかりですぅ」


 だがフィアは、不満げに口を尖らせていた。


「だからお前は、お子様膳にしてもらうかって聞いただろ」


「フィアだけそんなもん用意してもらったら、恥どころじゃないですぅ!」


 その様子に、俺は思わず笑ってしまった。


「ふぅ~、美味い」


 鹿野さんが美味しそうにビールを飲む。


「鹿野さん、注ぎますよ」


「ありがとう。すまないね」


 だがビールの注ぎ方など慣れていないので、泡がこぼれそうになる。

 それを口で受け止めながら、鹿野さんはビールを美味しそうに飲んだ。


「鹿野さん、お疲れ様でした。鹿野さんのおかげで勝てましたよ」


「いや、恥ずかしい。大して役になんて立てなかったよ」


 鹿野さんは謙遜するが、この人がいなければ間違いなく勝てなかっただろう。


 彼は装備で劣っていて、実戦は初めてだったのだ。

 逆の立場だったら、俺なんかあっという間にやられていただろう。


「それって、そんなに美味いですか?」


「美味いよ。でもなんていうか、上手く言えないんだよね。喉で味わうというか」


 騎士は鹿野さんをはじめ、多くの人がビールを飲んでいる。

 王女ではベルーナさんだけ。他はみんな未成年だ。


 シルエナも、あの威厳でまだ十九歳らしい。


「フィアの国では、お酒は十八歳から飲めますけどね」


 そう言って、フィアはオレンジジュースを口にする。

 俺もリヴもアイリスも、コップに入っているのは同じだ。


「蓮さん、注ぎますよ」


 リヴが俺の空いたコップにジュースを注ごうとしてくる。


「良いよ。お前は王族なんだから。こういう場でそんなことしたら、軽く見られちまうぞ」


 自宅ならともかく、他の王女の目があるところでそんなことをさせるのは、あまり良くない気がした。


「やあ、飲んでいるかい」


 ジュースの瓶を持って現れたのは、フィオナの側近らしき存在だったマーニャさん。

 俺の喉を呪文で貫いた人だと、後で周りから聞いた。


「君達は、オレンジジュースで良かったかな?」


 そう言って彼女は瓶の口を傾ける。


「いや、そんなことしなくて良いですよ」


「日本のこういう場では、無礼講と言うんだろう? 遠慮しなくていい」


 こう言われては断る方が悪いので、俺はコップを差し出した。

 トクトクと音を立ててジュースが注がれていく。


「体は大丈夫かい?」


 彼女は俺の喉を覗き込む。

 戦いが終わった後に鏡で確認したが、傷は全く残っていなかった。


(俺はこの人に殺されかけたんだよな……)


 マーニャさんは謝らなかった。

 でも、この人なりに俺のことを案じてくれているのだろう。


 だが、俺はそれ以上に気になっていることがあった。


 俺達に協力し、そして巻き込まれたバスの運転手さん。

 聞いた話によると、催眠術をかけられて、事故に遭った記憶は忘れてしまったらしい。


 それも、フィオナの糸の呪文なのだという。

 怪我も無く、無事に帰されたと聞いた。


(……非戦闘員を巻き込んでおいて、無事なら良いというわけでもないけれど)


 それでも、彼女たちは犠牲を出すことはしなかった。

 もし彼が無事でなかったなら、このように食事の席を一緒にする気にはなれなかっただろう。


「シルエナは、敗残者である我々を迎え入れる上で、特に制限のようなものを作らないつもりのようだ。こんな会も用意してもらえるし、全く恐れ入るよ」


「マーニャさん達が今後一緒に戦ってくれるのは頼もしいです」


「……それでも私はフィオナを勝たせたかったのだが、我々が負けるとはね。その原動力になったのは間違いなく君達だ。敬意を表するよ」


 聞くところによると、スピオネラとエレクトロは元々親交が深く、マーニャさんとフィオナも幼少の頃から交流があるのだという。


「いえ、マーニャさん達も強かったです」


 殺されかけた相手に挨拶をする。なんだかおかしな話だ。

 でも俺達は、憎み合って戦ったわけじゃない。


 国のためなら、どんな相手とだって戦う。

 そして国のためなら、どんな相手とだって手を取り合う。


 国を背負うっていうのは、きっとそういうことなんだ。


「あんたが死ななくて済んだのは、あたしのおかげね。ちゃんとこのアイリスちゃんに感謝しなさいよ」


「ああ、感謝してるよ」


「あたしもアイリスちゃんに助けられたよ」


 俺と近藤の感謝の言葉が聞けて、アイリスは満足そうに笑った。


 実際、アイリスの回復呪文は大したもんだ。

 今後の戦いでも、助けられることになるだろう。


 そんなことを考えていると、横でリヴが浮かない顔をしていることに気がついた。


「どうした? 口に合わないか?」


「いえ、美味しいですよ」


 リヴは慌てたように俺の言葉を否定する。


「……疲れたもんな。今夜は美味いもん食って、ゆっくり休もうぜ」


「……はいっ」


 そう言ってリヴは笑ったが、何かを内に隠しているような気がした。


(アイリスさんの呪文は、確かに凄い)


 これからの戦いでも、頼りになることは間違いない。


(でも、きっと蓮さんは──)


 治るんだからと、きっとますます無茶をしてしまう。

 リヴにはそれが気がかりだった。


「もうその辺にしておくのだ、ベルーナ殿」


「え~、やだもんやだもん。まだ飲み足りないです~」


 宴が終わりに差し掛かった頃、ベルーナさんはすっかり出来上がっていた。

 青山さんが必死に宥めようとする。


「何杯くらい飲んだんですか?」


「数えておらんので、わからん」


 ビールだけでなく、日本酒など様々な酒を飲んだようだ。


「あ~、鷹見さんだ~。どうです、一杯?」


 彼女は俺にまで酒を勧めようとする。


「いや、俺は未成年なので」


「残念です~。鷹見さん、とってもカッコ良かったですよ~」


 前屈みになったベルーナさんの襟元から、大きな谷間がはっきりと覗けた。

 思わず俺の視線は、そこに吸い寄せられる。


「ベルーナ殿。もうお開きにしよう。私が部屋に送っていく。先に戻らせてもらうよ」


 青山さんが彼女を抱えて、宴会場を後にした。


「……スケベ」


 アイリスの一言が突き刺さる。

 不可抗力だろ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。