戦いが終わればノーサイド 国を背負う者達の宴
俺達は、大阪の温泉旅館で一泊することになった。
今回敵対したフィオナ王女の陣営の人たちも、みんなが参加した。
またも費用は大高さん持ち。本当にこの人には頭が上がらない。
「皆様、我々は此度の決戦を経て一つとなりました。この絆は我々の未来の、希望の礎となるでしょう。我々は今後、三大勢力という更なる強敵と相対することになります。ですが今はそれも忘れて、楽しいひと時を送り、英気を養ってくださいませ」
「みんな、コップは持ったかー? それじゃ、かんぱーい!」
シルエナの演説の後、煌夜さんの音頭に合わせて大広間で宴会が始まった。
東京で行われた立食パーティーは、まさに社交場という感じだった。
だがこのような場は複数の王女たちが集まる場としては、なんとなく合わない気がする。
「これが日本風のパーティーなのね。なかなか面白そうじゃない」
「わぁ~、食べたことがない料理でいっぱいですね~」
だがアイリスやベルーナさんだけでなく、他の王女たちも馴染んで楽しそうにしている。
日本は海外から旅行先として人気が高いと聞く。
異世界の王女から見ても、日本の文化というのは特殊で、興味深いものなのかもしれない。
「……なんだか食べ慣れない料理ばっかりですぅ」
だがフィアは、不満げに口を尖らせていた。
「だからお前は、お子様膳にしてもらうかって聞いただろ」
「フィアだけそんなもん用意してもらったら、恥どころじゃないですぅ!」
その様子に、俺は思わず笑ってしまった。
「ふぅ~、美味い」
鹿野さんが美味しそうにビールを飲む。
「鹿野さん、注ぎますよ」
「ありがとう。すまないね」
だがビールの注ぎ方など慣れていないので、泡がこぼれそうになる。
それを口で受け止めながら、鹿野さんはビールを美味しそうに飲んだ。
「鹿野さん、お疲れ様でした。鹿野さんのおかげで勝てましたよ」
「いや、恥ずかしい。大して役になんて立てなかったよ」
鹿野さんは謙遜するが、この人がいなければ間違いなく勝てなかっただろう。
彼は装備で劣っていて、実戦は初めてだったのだ。
逆の立場だったら、俺なんかあっという間にやられていただろう。
「それって、そんなに美味いですか?」
「美味いよ。でもなんていうか、上手く言えないんだよね。喉で味わうというか」
騎士は鹿野さんをはじめ、多くの人がビールを飲んでいる。
王女ではベルーナさんだけ。他はみんな未成年だ。
シルエナも、あの威厳でまだ十九歳らしい。
「フィアの国では、お酒は十八歳から飲めますけどね」
そう言って、フィアはオレンジジュースを口にする。
俺もリヴもアイリスも、コップに入っているのは同じだ。
「蓮さん、注ぎますよ」
リヴが俺の空いたコップにジュースを注ごうとしてくる。
「良いよ。お前は王族なんだから。こういう場でそんなことしたら、軽く見られちまうぞ」
自宅ならともかく、他の王女の目があるところでそんなことをさせるのは、あまり良くない気がした。
「やあ、飲んでいるかい」
ジュースの瓶を持って現れたのは、フィオナの側近らしき存在だったマーニャさん。
俺の喉を呪文で貫いた人だと、後で周りから聞いた。
「君達は、オレンジジュースで良かったかな?」
そう言って彼女は瓶の口を傾ける。
「いや、そんなことしなくて良いですよ」
「日本のこういう場では、無礼講と言うんだろう? 遠慮しなくていい」
こう言われては断る方が悪いので、俺はコップを差し出した。
トクトクと音を立ててジュースが注がれていく。
「体は大丈夫かい?」
彼女は俺の喉を覗き込む。
戦いが終わった後に鏡で確認したが、傷は全く残っていなかった。
(俺はこの人に殺されかけたんだよな……)
マーニャさんは謝らなかった。
でも、この人なりに俺のことを案じてくれているのだろう。
だが、俺はそれ以上に気になっていることがあった。
俺達に協力し、そして巻き込まれたバスの運転手さん。
聞いた話によると、催眠術をかけられて、事故に遭った記憶は忘れてしまったらしい。
それも、フィオナの糸の呪文なのだという。
怪我も無く、無事に帰されたと聞いた。
(……非戦闘員を巻き込んでおいて、無事なら良いというわけでもないけれど)
それでも、彼女たちは犠牲を出すことはしなかった。
もし彼が無事でなかったなら、このように食事の席を一緒にする気にはなれなかっただろう。
「シルエナは、敗残者である我々を迎え入れる上で、特に制限のようなものを作らないつもりのようだ。こんな会も用意してもらえるし、全く恐れ入るよ」
「マーニャさん達が今後一緒に戦ってくれるのは頼もしいです」
「……それでも私はフィオナを勝たせたかったのだが、我々が負けるとはね。その原動力になったのは間違いなく君達だ。敬意を表するよ」
聞くところによると、スピオネラとエレクトロは元々親交が深く、マーニャさんとフィオナも幼少の頃から交流があるのだという。
「いえ、マーニャさん達も強かったです」
殺されかけた相手に挨拶をする。なんだかおかしな話だ。
でも俺達は、憎み合って戦ったわけじゃない。
国のためなら、どんな相手とだって戦う。
そして国のためなら、どんな相手とだって手を取り合う。
国を背負うっていうのは、きっとそういうことなんだ。
「あんたが死ななくて済んだのは、あたしのおかげね。ちゃんとこのアイリスちゃんに感謝しなさいよ」
「ああ、感謝してるよ」
「あたしもアイリスちゃんに助けられたよ」
俺と近藤の感謝の言葉が聞けて、アイリスは満足そうに笑った。
実際、アイリスの回復呪文は大したもんだ。
今後の戦いでも、助けられることになるだろう。
そんなことを考えていると、横でリヴが浮かない顔をしていることに気がついた。
「どうした? 口に合わないか?」
「いえ、美味しいですよ」
リヴは慌てたように俺の言葉を否定する。
「……疲れたもんな。今夜は美味いもん食って、ゆっくり休もうぜ」
「……はいっ」
そう言ってリヴは笑ったが、何かを内に隠しているような気がした。
(アイリスさんの呪文は、確かに凄い)
これからの戦いでも、頼りになることは間違いない。
(でも、きっと蓮さんは──)
治るんだからと、きっとますます無茶をしてしまう。
リヴにはそれが気がかりだった。
「もうその辺にしておくのだ、ベルーナ殿」
「え~、やだもんやだもん。まだ飲み足りないです~」
宴が終わりに差し掛かった頃、ベルーナさんはすっかり出来上がっていた。
青山さんが必死に宥めようとする。
「何杯くらい飲んだんですか?」
「数えておらんので、わからん」
ビールだけでなく、日本酒など様々な酒を飲んだようだ。
「あ~、鷹見さんだ~。どうです、一杯?」
彼女は俺にまで酒を勧めようとする。
「いや、俺は未成年なので」
「残念です~。鷹見さん、とってもカッコ良かったですよ~」
前屈みになったベルーナさんの襟元から、大きな谷間がはっきりと覗けた。
思わず俺の視線は、そこに吸い寄せられる。
「ベルーナ殿。もうお開きにしよう。私が部屋に送っていく。先に戻らせてもらうよ」
青山さんが彼女を抱えて、宴会場を後にした。
「……スケベ」
アイリスの一言が突き刺さる。
不可抗力だろ!




