激闘の終焉 呪縛を破る二人の絆
「……ふふふ……ははは! 勝った! 私の勝ちだ!」
勝利を確信したフィオナは、一転、蓮を操り安住を追い詰める。
強く踏み込んで来た蓮の一撃で、満身創痍だった彼は剣を弾かれ、手放してしまう。
「くっ……!」
「鷹見くん! やめて!」
追いついた千早が、蓮を止めようと再度立ちはだかる。
だが彼女もまた、彼を止める力を持たない。
その剣を受け止めきれず、千早は後方へと吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
そして今度こそ彼女を逃すまいと、蓮の剣が千早に迫る。
「近藤! 逃げてくれっ!」
(ダメ、かわせない──!)
「蓮さん!」
リヴが、蓮を止めようと彼の下へ駆けて行く。
「リヴ! ダメだ、来るな!」
「リヴ、あぶねーですぅ!」
フィアの悲鳴が響くが、リヴは止まらない。
蓮は千早からリヴへと向き直り、標的を変える。
「最初の犠牲者は氷の王女か。やれ!」
フィオナの容赦無い命令が、無情にも蓮の刃を突き動かす。
リヴの表情に恐怖は無い。ただまっすぐ彼に近付いて行く。
(蓮さん……っ!)
蓮の剣が、リヴへと振り下ろされる。
彼女の肩へと届きそうになるまで、あと僅か。
(やめろ、俺にリヴを……傷付けさせないでくれ……!)
その時、フィオナは杖から伝わる感覚に違和感を覚えた。
(何だ……?)
次の瞬間、蓮はリヴに剣を届かせることなく、その動きを一瞬、ピタリと止めた。
「……蓮さんっ!」
その刹那に、リヴは渾身の力で彼の胸に飛び込み、その体を地面に押し倒した。
「うわっ!」
(馬鹿な、なぜ止まった? 抵抗したというのか!?)
フィオナの目が見開かれる。
「……フィオナっ!」
虚を突かれた彼女は、迫るシルエナに対応しきれない。
体勢を大きく崩してしまう。
(しまった!)
「これで、終わりです!」
「シルエナぁっ!」
すかさず追撃。
その攻撃は、ついにフィオナの杖の宝玉に届く。
砕けた破片が、宙を舞った。
「馬鹿なっ……そんな……」
急所を砕かれたフィオナに、最後の時が訪れる。
力を失った王女の体は陶器のごとく砕け、欠片は砂となって消える運命。
例外は無く、彼女も幾多の王女と同じようにこの世界から消えていった。
「やった……!」
「フィオナ・スピオネラを倒したぞおっ!」
誰かの叫びを皮切りに、戦場に歓喜と落胆の声が交差する。
「やったぜっ!」
「ああ……そんな……」
「この場にいる者たちよ!」
シルエナは杖を天に掲げ、声を高らかに響き渡らせる。
その威厳に、戦場は静まり返る。
「フィオナ・スピオネラは敗れました! 彼女の同志に問いましょう! まだ戦いを続けるのか、どうかを!」
フィオナが消えたことによって、彼女の騎士たち三人も力を失い、その場に倒れている。
形勢は決した。この状況をひっくり返そうなどと考える者など、誰もいなかった。
「……我々の負けだ。戦闘の継続はしない。みんなもそれで良いな?」
マーニャが仲間達に意思を確認するが、反対する者はいない。
皆がドレス姿を解き、次いで彼女の騎士たちも装備を解いて、戦闘を放棄した。
「よっしゃあ!」
「勝った……」
「ふー、やれやれ」
戦い抜いた戦士たちに、ようやく安堵の時が訪れる。
「やったですぅ! フィアたちの勝ちですぅ!」
「勝った……勝ちましたよ、蓮さん!」
「ああ……そうだな……」
蓮とリヴは、互いに笑い合う。
彼は彼女の汗に塗れた笑顔が、眩しいと思った。
「……お前、いつまでリヴにくっついてるですか? 離れろですぅ!」
「あっ、ごめんなさい蓮さん!」
「いや、大丈夫だ」
蓮を押し倒してそのまま抱きつく形になっていたリヴが、起き上がって彼から離れた。
続けて彼も立ち上がる。
「終わった……」
蓮は深く息をついた。
クイーンズクレストに参加してから、こんなに長く戦闘を行ったのは初めてだ。
もう戦わなくていいんだと緊張の糸が解けると、ドッと疲れが出てきた。
「また蓮さんのおかげで勝てましたね」
「リヴだって頑張ったろ。それに……これはみんなで勝ち取った勝利だよ」
シルエナ率いる東日本・北海道勢力は、西日本勢力を率いたフィオナ・スピオネラを討ち、勝利した。
敗残者となったのは、磁力を操るマーニャ・エレクトロ、ガラス呪文の使い手イリヤ・ヴィトラール、風を支配するジルフィ・タペストラ。
彼女達は今後シルエナの下に降り、三大勢力に対抗するための同志となる。
シルエナの同志であったアイラ・フェルライト、リファ・サクリスは敗れてこの世界から退場した。
戦場に残された四つの指輪は、シルエナ陣営が全て管理することとなる。
そしてもう一人。
「……出てきませんね」
リヴが辺りを見回す。木々の影には、もう人の気配は無い。
「おーい。もう戦いは終わった。出てこいよ!」
煌夜が森中に聞こえそうな大声を響かせる。
だが反応は無い。
リファに化けてシルエナを不意打ちした、ミラ・ベール。
彼女だけが戦いの最中に姿を消したまま、戻って来ない。
「僕達と共に来るつもりはないということでしょうか」
「騎士もいなくなったのに、これからどうするつもりだ?」
蓮とリヴが互いに顔を見合わせる。
(……彼女の変身呪文は、危険過ぎる。私は彼女を野放しにするつもりはありませんでした。それを、感じ取ったのでしょうか)
シルエナは冷たい風の中で目を閉じた。
(……もし、また彼女の呪文が、わたくしたちに牙を向くことになったら──)
「……どうしました? シルエナさん」
「……いえ、なんでもありませんよ、リヴ」
一抹の不安を残して、日本で行われた最大の決戦は幕を閉じる。
これによって、国内の勢力は統一された。
今後彼女達は、海を越えて更なる強敵達と立ち向かうことになっていくのだ。




