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決着へのカウントダウン 勝者を決める最後の攻防

「みんな、逃げろ!」


 蓮の剣が、リヴ達に無差別に襲いかかる。

 グリーヴを身につけたこの場の最強の騎士を、止められる者は誰もいない。


「フィオナ……」


 蓮の背後で不敵に笑うフィオナを、シルエナは忌々しげに見つめる。


 ここまで追い詰めておいて、最後の逆転。

 このままでは、彼に自分達はなす術なく蹂躙されてしまう。


「みんな、下がって!」


 千早が皆を庇って蓮の剣を受け止める。そして、その重さに慄く。


(鷹見君、速い……安住さんと、同じ……)


「きゃっ!」


 衝撃を受け止めきれずに千早が体勢を崩す。

 その隙をついて、蓮の体は彼女の懐へ踏み込もうとする。


「トプラベル!」


 蓮の周囲に出現した木の根が、彼をドームのように囲う。


 本来なら三百六十度全ての攻撃を防ぐ、アイリスの防御呪文。

 それを、蓮を捕らえる檻として利用した。


「蓮、やめなさい!」


 蓮の体はそれをこじ開けようとするが、木の根はしっかりと彼の刃を受け止め、それを許さない。


「いいぞ、アイリス! みんな、今のうちに逃げてくれ!」


 言葉とは裏腹に、彼の体は檻を突破しようと剣を振るい続け、木の根を激しく軋ませる。


 根の一本がミシリと音を立てて裂ける。

 それほど長い時間は保たないだろう。


(彼が捕らえられている間に逃げるべき……? いえ……)


 シルエナは冷静に戦況を判断する。


 フィオナは蓮を操る糸を離していない。

 ここで逃げれば、彼が解放された後、今度こそ止める手段は無いだろう。


(この隙に、フィオナ姫を倒す! それしかありません!)


(来るか、シルエナ。あの少年が解放されるまで耐えれば、私の勝ちだ!)


 正真正銘の、最終局面。

 蓮が解放されるまでに要する時間は、十秒も無いだろう。

 長く続いた戦いの、決着へのカウントダウンが始まった。


「ルラシェミド!」


 シルエナが影から呼び出したのは、安住貴志。

 すでに傷だらけの彼を、彼女はこれ以上戦わせたくはなかった。


(それでも……ここはあなたに懸けるしかないのです……)


 彼女達に、新たに呪文を唱える余力は残されていない。

 残された最後の切り札は、シルエナが誇る最強の騎士。


(わかっている。決着は、私がつける!)


 無数の傷と血で汚れた体を奮い立たせ、安住はフィオナの宝玉をまっすぐに狙う。


「マグナベル!」


 マーニャの呪文によってバスの残骸が浮上し、フィオナの周囲に集まる。

 そしてそれは、四方八方を覆う盾となった。


 安住はグリーヴによって踏み込み、勢いに乗って剣を振り下ろす。

 だがその一撃をもってしても、それを打ち破ることはできない。


「くっ!」


「ウェイウィルド!」


 ジルフィが杖を掲げると、周囲に突風が巻き起こる。

 安住をはじめ、皆はフィオナから遠くへと吹き飛ばされてしまった。


「きゃあっ!」


「ちぃっ!」


 安住は体勢を立て直し、地面を力強く蹴ってフィオナの下へと向かう。

 そして、それを他の仲間達も追いかけた。


「イグベグロス!」


 イリヤの杖から放たれるガラスの連射を、安住は斜め前方へと跳んでかわす。

 剣を強く握り締め、フィオナへと再度迫る。


(この一撃に懸けるしかない!)


(無駄だ。お前がマーニャの防御呪文を破るよりも、あの少年が出て来る方が速い!)


 フィオナは自身の勝利を信じて疑っていない。

 このままでは彼女の筋書きが実現し、勝者と敗者を決めるだろう。


 千早も諦めずに、安住の背中を懸命に追いかける。

 だが彼女の速さでは、フィオナの喉元には届かない。


(私の力じゃ足りない。フィアちゃん……あなたの力が必要なの……!)


 その想いが、フィアの新たな力を呼び覚ます。

 彼女の杖が、森中を照らすほど金色に輝いた。


「フィア!」


 誰もが彼女の新呪文に期待を寄せる。

 これが最後の反撃の一手だ。


(千早がくれた新呪文、絶対に外せないのですぅ!)


 フィアは狙いをフィオナに定め、力強く唱えた!


「ミルナグ!」


 金色の雷光が、まっすぐと向かっていく。

 その正体を、フィオナは看破した。


(中級の攻撃呪文か。そんなものでは、この防御は崩せん!)


 雷撃は、激しい音を立てて彼女を守る鉄の残骸に直撃。

 フィオナの想定なら、防げるはずの攻撃だった。


 だが次の瞬間、フィオナを覆っていた盾は全て、力を失ったかのように崩れ落ちた。


「バカな! この程度の呪文で破られる訳は……」


 思わず動揺した彼女の横で、マーニャは何が起こったのかを理解した。


(雷が、私の磁力を乱してしまったのか……!)


 守る術を無くしたフィオナの下へ、安住はまっすぐ向かっていく。


「これで、終わりだ!」


 キィンッ!


 安住が振り下ろした剣は、フィオナの宝玉に──届かなかった。


 それを受け止めたのは、鷹見蓮。

 木の檻を突破した彼は、フィオナを守る最後の騎士として立ちはだかる。

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