窮地の逆転 糸の王女を守る最後の騎士
「これ以上、あんたとは遊んでられないわ!」
阿部は蓮から距離を取る。
周囲の木を蹴って、別の木を蹴って、どんどん高く登っていく。
高所から、また急襲するつもりだ。
「どう!? 盾のないあんたがこれを防げる? 今度こそ真っ二つにしてあげるわ!」
阿部の言う通り、剣ではとても防げないかもしれない。
(じゃあ、かわせるか?)
阿部が、彼の周囲の木を跳び、タイミングを測らせない。
死角から、確実に仕留められるタイミングで仕掛けてくる気だ。
(ここっ!)
阿部が蓮の背後を取り、勢いよく跳んで迫り来る。
死神の鎌で、彼の命を刈り取るために。
──だけど、その攻撃を待っていたんだ!
蓮はポケットに手を入れ、そこから取り出した物を阿部に向かって投げつける!
そしてそれは、彼の顔面に直撃した!
「っ! ぎゃあああああっ!」
攻撃に失敗した阿部は、地上に激突し痛みで身を捩らせた。
「痛い! 痛い! 何よこれぇ!」
「それはあんたの仲間の王女の呪文。砂だ」
蓮と鹿野を苦しめた、アリーナという王女の砂の呪文。
どこかで役に立つかと思って、彼がポケットに忍ばせておいたもの。
勢いよく跳んできた阿部には大ダメージとなったようだ。
「高いところからの攻撃は確かに強力だよ。だけど自分の防御にも気を配るべきだったな」
「ちょっ、ちょっと待って! タイム!」
そんなもの聞く義理も無く、蓮は無防備となった阿部の宝玉を容赦なく砕いた。
そしてその瞬間を、フィオナははっきりと感じ取っていた。
「孝宏が、やられた……!?」
最強の騎士の脱落は、流石の彼女にも強い動揺をもたらした。
その隙をシルエナは見逃さない。
「あなたも、ここで終わりです!」
「しゃらくさい……」
だが、彼女の心は折れない。その目は静かに闘志を燃やしている。
「フィアちゃん!」
「千早!」
そこへ千早が合流する。
彼女の参戦は、王女しかいなかったこの場のパワーバランスを大きく変えるだろう。
そのことを誰よりも危惧したのは、やはりフィオナだった。
(何とかこの女を……いや……)
来ている、もう一人。
風を切って現れるその男の名は、鷹見蓮!
(もうこいつらを守る騎士はいない、これで終わりだ!)
迫る決着の時。
追い詰められた、フィオナ・スピオネラ。
だが彼女は──これを待っていたとばかりにほくそ笑む。
「……っ! 迂闊に近づいてはなりません!」
(もう遅い!)
そしてシルエナが最も恐れた状況が訪れる。
「シルシェミド!」
「マグナジス!」
シルエナが牽制するようにフィオナに呪文を唱える。
だがマーニャは再度残骸を盾として固め、それを防いでしまった。
「リオイプリト!」
呪文に守られたフィオナは、蓮に杖を向けた。
彼は彼女の眼前でその動きをピタリと止めてしまう。
「………っ!」
(なんだ……体が、動かない……っ? いや)
──体が、勝手に動く!?
彼を襲ったのは、関節の奥に冷たい糸が入り込むような不快な感覚。
敵を仕留めるはずだった剣は、今、守るべき仲間へと向けられる。
「蓮さん!?」
「お前っ、冗談はやめるですぅ!」
「違っ……体が、勝手に……っ!」
リヴとフィアが悲鳴のような声を上げても、彼は自分の動きを止められない。
(これは……さっき安住さんを操っていた、糸の呪文!?)
フィオナは思い通りに事が運んで満足そうに笑った。
「さあ新しい人形よ。私に仇す者達を始末しておくれ」




