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王女達の呪文戦 大将の首を獲るのはどっちだ

「くっ……!」


(このオカマだけでも手一杯だって言うのに、安住さんにまで攻撃されたら、捌ききれないぞ!)


 阿部の攻撃をかわしても、間髪を入れずに安住の剣が襲いかかる。

 彼はまともに攻撃を受けないことに精一杯だ。


(くくっ……お前が隙を見せる時を、ずっと待っていたぞ。安住貴志)


 相手の駒をそのまま自分の持ち駒に変える。

 これがフィオナ・スピオネラの切り札。

 彼女の魔法は、操られているとは思えないほど本人の動きを再現することができた。


 蓮が防御に徹していると、阿部は距離を取り周囲の木を駆け上がる。

 そして高所から飛び降りると、そこから思い切り剣を振り下ろしてきた。


 バキィンッ!


 何とか防御するが、衝撃に耐えきれず盾には亀裂が走った。


「ふふっ。次はないわよ」


 このままでは、防ぐことすらままならなくなるだろう。


(そうだ、糸だ。安住さんは糸で操られている。それを切ってしまえば……)


「はあっ!」


「くっ!」


 二人の波状攻撃。防ぐだけで精一杯だ。

 反撃に転じる余裕なんてない。


「うわっ!」


 阿部の剣が蓮の右肩を掠め、思わず彼は顔をしかめた。


「どうしたの? もっと積極的に攻めて来なさい!」


「くそっ……!」


 蓮は必死になって二人の攻撃を掻い潜る。

 だが分の悪さは変わらない。次第に彼は追い詰められていく。


「ネルトプラ!」


 アイリスの呪文によって木の根が出現。

 二人へと襲いかかるが、阿部と安住は下がりながらそれを切り刻んでいく。


「そんな呪文、効かないわよ」


 やがて呪文の効果が消失すると、再び二人は容赦なく襲いかかる。


「ほらっ!」


 バガァンッ!


 再度高所からの阿部の剣を受け、ついに盾が砕けた。

 次いで安住の剣が、蓮に迫る。


 ダメだ、やられる──


 そう思った瞬間、安住の剣は彼に届くことなく、糸の切れた人形のように崩れ落ちていった。


(何が起こった!?)


 蓮がフィオナの方へと目をやると、そこには彼女に向かっていくシルエナ、そしてリヴとフィアがいた。


「あなたの糸で操る呪文は強力ですが、自分も操作に集中せざるを得ない。それが最大の弱点です」


「ちっ……ちょこざいな」


 シルエナ達が、直接フィオナを狙っている。


(だから安住さんを俺に向かわせる余裕が無くなったのか)


 まさにこの戦いの大将戦。


(あいつらがあの女を破ることができれば、この戦いは俺達の勝ちだ!)


 フィオナはシルエナ達を仕留めるべく、考えを巡らせる。


(何とか……もう一度安住を操り、こいつらに向かわせられれば……)


「シルシェミド!」


 シルエナから放たれた黒い光球。

 それをフィオナは左後方に下がって回避した。


(チッ……安住を操る隙を与えないつもりか)


「イプリトレイド!」


 フィオナが杖を振り回すと、ミシミシと繊維が折れる音と共に木が倒れ、最後は轟音を立てて地面に倒れた。


「お前達だけが相手なら、仲間を巻き込む心配は無いな」


「杖の軌道に注意なさい! 切り刻まれますよ!」


「こっ、こえーです! そんな物騒な呪文やめるですぅ!」


 フィアは怯えまじりに叫ぶが、彼女も自分を奮い立たせ、真っ直ぐにフィオナの下へと向かっていく。


「フィズラス!」


 リヴが放った氷柱は、フィオナが杖を振り回すと音を立ててバラバラになり、彼女に届くことなく崩れ落ちた。


「甘いな」


「くっ」


 悔しがるリヴに対し、余裕を見せつけるように笑うフィオナ。

 だがシルエナは彼女の心中を見抜いていた。


(それで良いのですリヴ。彼女に人を操る隙を与えてはいけません!)


 今度はフィアが、相手に向かって杖を掲げる。


(雷なら、糸じゃ防げないはずですぅ!)


「ミルナス!」


「マグナジス!」


 マーニャが呪文を唱えると、近くにあったバスの残骸が集まって壁となり、フィアの雷を防いでしまう。


「フィオナに攻撃はさせん!」


「ベグロス!」


 今度はイリヤの放ったガラスの刃がフィアへと迫る。


「シェミドジス!」


 だがそれを、シルエナから伸びた影が盾となって防いだ。


 王女同士の呪文戦。お互いが決定打を引き出せない。


(ルラシェミドで誰かを呼びますか? いえ……)


 シルエナは一瞬考えた案をすぐに否定する。

 もしフィオナによって操られてしまえば、窮地に追い込まれるのはこっちだ。


(わたくし達だけで、ここを制圧する!)




 安住が脱落し、蓮と阿部は一対一。

 だが蓮は盾を失い、防御で不利を取っていた。


 敵の剣が、何度も蓮の肌を掠める。

 アイリスの呪文によって癒された体は、またも傷だらけになっていた。


(このままじゃ、ジリ貧だ……)


 策も無く剣を振り続けても、やられる。


(どうすればいい。どうすればこいつを倒せる?)


「誰か! あれを止めろ!」


 戦場に誰かの怒号が響く。

 振り返るとアイリスの隣にあるのは、木の根でできた光るゆりかごのような何か。


 しばらくした後に木の根が大地に戻っていくと、そこからは千早の姿が現れた。


「ありがとうアイリスちゃん!」


 彼女は混戦模様の戦場を迂回して、リヴ達の下へと向かっていく。


(今のは、アイリスの呪文? 近藤は、立ち上がれないくらい限界だったはずなのに……)


 蓮は、自分もあの呪文に救われたのだと理解した。


(まずい……! 今フィオナに騎士を近づけさせるのは!)


 阿部が蓮を振り切ってリヴ達の下へと向かおうとする。


「させるか!」


 彼は必死になって阿部を食い止める。


 今リヴ達は誰も騎士がいない状態で戦っている。

 そこに近藤が加われば、圧倒的に有利なのはこっちだ。


(みんなの奮闘が、俺に新たな装備を与えてくれて、近藤を復活させる力になった。あとはお前が決着をつけてくれ……っ!)

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