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美少女王女との同居開始 思春期の少年は落ち着かない

 「……」


 リヴの申し出に、蓮はしばし固まってしまう。


(リヴを……泊める? この家に?)


 広さは問題ない。部屋はいくらでも余っているのだ。

 

 しかし。


「……リヴ、お前は女の子だろう。男の家になんて泊まっちゃダメだ」


「でも、外に部屋を借りるのはお金がかかりますよね? 蓮さんにそこまでさせられません。ここに泊めて頂ければ、今度は僕が蓮さんのお世話をすることができます」


「そんなもんいらない。金は余ってるんだ。遠慮はいらないぞ」


 本当はバイト代だけから捻出するなら余裕とは言えないが、リヴに気を遣わせたくなくて嘘をつく。


「外に部屋を貸していただくくらいなら、このまま野宿を続けますよ」


 その言葉に蓮はぐっと詰まらせられてしまう。

 

 リヴの顔は真剣だ。そして、やっぱり頑固だ。


(女の子が、うちに泊まるって……)


 それも、とんでもない美少女だ。年頃の少年が気にしないわけがない。それでも野宿を盾にされた以上、蓮は折れるしかなかった。


 先に入浴を済ませた蓮は、火照った体でスマホを触り続けていた。


 今リヴは自分の家で入浴している。そのことがどうにも落ち着かないのだ。


(変な想像をするな……俺……)


 本当は先に風呂に入るように促したのだが、家主を置いてそんなことはできないと、ここでもリヴは譲らなかった。


 脱衣所の扉が開くと、蓮はビクりと肩を震わせた。


「お風呂いただきました。ありがとうございました」


 現れたのは、蓮が貸したパジャマに身を包んだリヴ。


 やはり男女の差。袖も裾も余っている。それがなんとも艶かしい。


「……悪いな。丁度いいのが無くて」


「いえ、着心地は良いです」


 寝巻きは古いものを貸したが、下着はそういう訳にはいかない。今は入浴前と同じものを身につけているのだろうか。


 蓮は深く考えないようにした。


「明日、服を買いに行こうな……」


「でも」


「いいから」


 夜は深まり、休む時間だ。蓮はリヴに部屋の案内をする。


 千早の部屋に劣らず複数のトロフィーと賞状が飾られたそこは、元の部屋の主が只者ではないことを表している。


「ここは弟の部屋だ。ベッドもある。好きに使ってくれて構わない」


「ありがとうございます。あの、蓮さんのご家族はいつまで留守にしてるんですか?」


「……弟が向こうの大学出るまでか、もしかしたら帰ってこないかもな」


 蓮が少し辛そうに話すのが、リヴには少し気になった。


「冷蔵庫も、なんでも好きに使ってくれ。足りないものがあったら用意する。遠慮せずに言ってくれ」


「何から何まで……本当にすみません。あの、この恩はちゃんとお返ししますので」


「子供がつまらないこと気にするなよ」


 蓮は、自分だって子供だろ、と思いながら自嘲気味に笑った。


「それじゃあ、おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


 そう言って弟の部屋、今はリヴのものとなったその場所を後にした。


 蓮は自分の部屋のベッドに横たわり体を休める。

 

 今日はいろいろなことがあった。リヴとの再会、許せない敵との戦い、そして彼女との同居。


 これから自分の生活はどうなってしまうのか。望んでいた平穏から遠く離れたものになることは間違いない。


 それでも蓮は、それを拒むつもりはなかった。彼は本当はずっと探していたのだ。自分が役目を負える何かを。


 誰かに必要とされる。そのことに蓮は深い満足を覚えていた。


 今夜は興奮して眠れないかもしれない。そう思いながらも間もなく、蓮は深い眠りについていった。


 * * *


 翌日、今日は学校が休みの日だ。


 朝、蓮は目覚ましをかけていなかったので寝坊をした。時計は8時を回っている。疲れていたせいもあっただろう。


 しかし昨日の戦闘以来体に残り続けていた疲労は、一晩で完全に癒えていた。ベッドの上で体を猫のように伸ばす。


 ここで蓮は、昨日からリヴを泊めていたことを思い出した。


(飯作ってやらないと。それともまだ寝てるか?)


 部屋を出ると蓮の目に入ってきたのは、どこもかしこもピカピカに磨き上げられた部屋だった。中には、まるで新品かと見紛う家具まである。


「あっ、おはようございます。今朝食を用意しますね」


 掃除婦のような格好をしたリヴは、動きを止めて台所へと向かう。


「……何やってんだお前」


「部屋の掃除をさせてもらいました。泊めてもらってるので、これくらいは」


 蓮は部屋中を見渡す。1時間やそこらでできる量ではない。


「……何時からやってたんだ?」


「3時過ぎからです。もしかしてうるさかったですか? 音には気をつけてたんですが」


「リヴ!」


 蓮はわざとやや大きな声を出す。リヴは肩をすくみあげ、緊張した面持ちでこちらを見つめている。


「……お前の気持ちもわかるけどよ、もうこんなことすんな。別に部屋散らかってなかったろ」


「……でも、僕ができるのは、これくらいで……」


「昨日お前は俺にへりくだるなって言ってたよな。俺も同じ気持ちだ。こんなことされたって嬉しくねえよ」


 リヴは、良かれと思った行動が蓮の不興を買ってしまったことに気がついた。


「もっと普通にしてくれ。掃除するなとは言わないけどよ……3時過ぎなんて明らかに異常だ。お前ちゃんと休めたのか?」


 よく見るとリヴの顔は明らかに疲れている。


「午前中は雑用禁止だ。飯は俺が作る。眠たかったら寝ろ。午後から、買い物に行こうぜ」


 リヴは黙ってそれを聞いた後、気まずそうにこくりと頷いた。


 * * *


 食事を終えた後、彼女は部屋ですぐに眠ってしまった。


 まだ一緒に過ごす時間は少ないながら、蓮にはリヴのキャラクターが見えてきた。

 

 真面目、誠実、世話焼き、そして世間知らず。自分の行動が相手にどのような印象を与えるか考えが足りないのだ。


 それは王族であるが故か。異世界でどのような生活をしていたかは知らないが、平民に混ざって生活するなどは初めての経験だろう。


 もちろん、こっちも王族と暮らすなんて考えたこともなかった。


 これから様々な価値観の違いが浮き彫りになるのかもしれない。顔も知らぬライバルたちも、今同じような苦労に直面しているのだろうか。


 ふと、クリミアの顔が思い浮かぶ。もしあんな女が自分の王女だったらとしたら……。


 そう考えるとまだリヴで良かった。蓮は一人で安堵していた。


 * * *


 結局リヴは昼まで寝ていた。


「おはようございます……」


 部屋から出て来た彼女は、とてもバツが悪そうだ。


「おはよう。丁度昼食の準備をしていたところだ。すぐできるからテーブルに座っててくれ」


「……蓮さんのお役に立てなくて、すみません……」


「そんなこと気にするな」


 リヴは俺に役目を与えてくれた。それだけで救われているんだ。

 

 でもそれは恥ずかしくて言えなかった。代わりに、何も気にしていないと大げさに笑って見せた。


「リヴは、嫌いな食べ物はないか?」


「特に何も…」


「じゃあ好きな食べ物は?」


「なんでも、食べられますよ」


 リヴはまだ俺に気を遣っているようだ。彼女の性格からして、打ち解けるにはもう少し時間がかかるのかもしれない。


「いただきます」


 昨日の夕食と同じように、リヴは祈るように両手を組み、目を瞑る。食への感謝が行き届いている。彼女の国にも宗教があるのかもしれない。


「リヴの国ってどんなところなんだ?」


「僕の国は、雪国なんです。年中雪と氷に覆われていて、正直住みやすいとは言えないと思います」


 蓮が住む北海道も雪が降るが、年中冬となると規模が違う。

 

 じゃあロシアか? ロシアの事など詳しくはないのだが、なんとなくそんなイメージを持った。


「雪国か……だから氷の呪文を使うのか?」


「関係は、あると思います」


 なら最初に戦ったあの王女の国は、石に囲まれているのか。それはまだわかる。

 

 じゃあクリミアの国は? 血まみれなのだろうか。なんとも悍ましい世界を想像してしまう。


「年中雪か……大変そうだな」


「はい、でも国民は雪に負けない逞しい人達なんです」


 生まれた時から雪国なら、自然と対応した生活になるのだろう。


「スキーとかスケートが盛んなのか?」


「そうですね」


 ここで蓮はある疑問にいきつく。スキーやスケートのようなものがリヴの国にあるとして、名称まで同じなんてことがあるだろうか。


 そもそも俺達は自然に会話ができている。昨日戦った敵も、明らかに外国人だったが、会話に違和感はなかった。


「王女と騎士は、自然と会話が通じ合うんです。流石に言語の壁があると大変ですからね」


「そういうことだったのか」


 どうやらこの先、どんな相手と会うにせよ、会話に困るということはなさそうだ。

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