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戦いのルール 戦いへの誓い

「美味しいです。お料理上手ですね」


 箸を使えないリヴが、ナイフとフォークで器用に肉野菜炒めを掬い口に運ぶ。やはり王族故か、マナーはしっかりしている、という印象を受ける。

 

 美味しいというのは果たして本心なのか、ただ気を遣わせているのか。わかるのは、リヴは俺に対して好意的に接しようとしているという事だ。


「リヴ、お前は今いくつなんだ?」


「14です」


 やはり中学生くらいの、大人になりきれないあどけない少女。異世界とこちらでは年の数え方が違う可能性も考えたが、どうやらあまり変わりはなさそうだ。


「リヴ、お前も敬語なんて使わなくていいぞ」


「え、でも……蓮さんはおいくつなんですか?」


「16だ」


「年上じゃないですか。今まで通り蓮さんって呼ばせてください」


「でも、お前は王女で」


「蓮さん。そういうのはやめてください。僕はあなたにへりくだったような態度を望んでいません。今まで通りの関係で、いさせてくれませんか」


「……わかったよ。じゃあこれまで通りで、な」


「はいっ」


 王族だというのに、尊大なところをこれっぽっちも見せない。いつもどこか影のある表情をしている彼女が、今まで通りと決まった瞬間、可愛らしい笑顔を見せた。


 食事をしながら、会話を続ける。蓮には聞きたいことがいくらでもある。


「リヴ、戦いのルールについて、確認しておきたいんだけど……」


「……それより蓮さん。いいんですか?」


「?」


「戦いが続けば、あなたはまた傷つきます。場合によっては死んでしまうかもしれないんです。僕は……あなたにそんな目にあって欲しくありません」


「……いいよ、とは言えないけどよ……」


 そもそも俺に、戦い抜く力なんてあるのか。


 ──お前はなんだったらできるんだい?


「………」


 蓮は、何かを思い出して胸が痛んだ。それでも、言葉を続ける。


「俺は、あの女が許せないと思ったんだ。お前に守るべきものがあるなら、俺もそれを守りたいと思ったんだ。だから、俺なんかにどこまでやれるかなんてわからないけど……お前が俺を必要としているなら、俺は……戦うよ」


「……ありがとうございます」


 覚悟は決まった。俺はこいつのために、戦うんだ。


「……で、改めて、戦いのルールなんだけどな……相手の杖の宝玉を砕く。これが勝利条件なんだよな?」


「はい。宝玉を砕かれれば、王女はこの戦いの参加資格を失います。仮の肉体は砕け、元の世界に帰還します」


「仮の肉体?」


「僕らの今の体は、本体ではないんです。こちらの世界で活動するための仮の肉体があり、そこに魂だけが乗り移っている状態なんです」


「魂……」


 蓮は、最初に戦った王女の最後を思い出していた。

 

 肉体が陶器のように砕け、最後は砂のようになって消えた。それを目の当たりにした時はビビったが、死んだわけではないと聞いてホッとしたものだ。


「じゃあ本体はお前らの世界に残っていて、負けたら魂がそこに還るってわけか」


「そういうことです」


 考えてみれば、次代を担う王女が死んでしまっては元も子もない。どんなに傷ついてもそういうリスクはない、都合の良いシステムということだろう。


「この肉体も、傷ついても再生できるんです。傷が深ければその分、時間はかかるんですが」


「それは騎士も同じ、だろ?」


 蓮は今までの戦いで傷を負ってきた。特に2戦目で負ったそれは重症であったはずなのだが、数時間の休息で癒えてしまった。

 

 とはいえ、まだ万全ではないとも感じている。仮に今戦いを強いられれば、本来の力は発揮できないだろう。


「さっき死ぬこともありうるって言ってたけどよ、十分に気をつければ、そのリスクは低いってことだよな」


「……」


 リヴは否定も肯定もしなかった。確かにその通りではあるのだが、下手に賛同すれば、蓮は無茶をするような気がしたからだ。


「この指輪がある限り、俺は簡単には死なない……ところでこの指輪って、外れないのか?」


「はい、それは王女との契約なので。戦いに負けない限りは取れないんです」


 蓮は、最初の戦いで、倒れた大男から指輪を回収していたことを思い出した。王女が敗北すれば、騎士もまたその力を失うのだ。


「そしてもう一つ……騎士は左胸と背中の宝玉を砕かれてもダメなんです」


「宝玉……」


 蓮は念じると、青い光に包まれ鎧を身に纏った。胸当ての左側には、確かに青く澄んだ宝玉が静かに輝いている。

 

 背中をさすると、その中央にも丸い感触がある。

 

 左胸のそれはリヴの杖と同じくソフトボールほど、そして背中の宝玉はさらに一回り大きいようだ。


「力を失った騎士は、僕らやこの戦いに関する記憶も一緒に失くします。蓮さんも最後は、無事に日常に戻れるので安心してください」


「……」


 それはこの戦いに参加した騎士を最後に解放するための仕組みなのだろう。だが蓮は、それを手放しに歓迎する気にはなれなかった。


 記憶を失くす。それはリヴの事も忘れるということなのだから。


「……それで、相手の騎士を無力化するには、宝玉を狙えばいいんだな」


「そうなんですが……騎士を先に倒してしまうと、指輪を回収できないんです」


「回収?……最初の戦いの時にやってたよな」


「はい」


 リヴは、懐からあの時の指輪を取り出した。


「指輪を回収できれば、これを使ってさらに自分の騎士を増やすことができるんです」


「ってことは、今リヴはいつでももう1人騎士を増やせるってことか」


 クリミアも、騎士を二人従えていた。騎士が増えれば、戦いを有利に運べるのは明白だ。


 だが、指輪を無駄にしないためには、誰を騎士にするかは慎重に選ばなくてはならないだろう。


 強いのがまず条件だが、過酷な戦いに身を投じるとなると簡単に参加するとは言ってもらえないはずだ。


 強い騎士を集める。まさにクリミアが言っていた女王としての資質が問われているのだ。


 ここで蓮はあることを思い出し、心に念じて実現を試みる。だが、上手くいかない。


「あの、どうしたんですか」


「いやあの男、盾を使って呪文を防いでいたろ。でもどうしても俺は盾を出せないんだよ」


「それはおかしいですね。騎士の装備はみんな同じはずなんですが……」


 そう、最初に戦った大男も、2度目に戦った外国人も、違いと言えば鎧の色くらいで、装備は同じだった。


 あの男だけだ、盾を持っていたのは。


「そういえばお前さ、呪文はいくつ使えるんだ?」


「僕が使える呪文は一つだけです。【フィズラス】……氷柱を放つ呪文です」


 クリミアは二つの呪文を操った。違いは、能力の差なのか。


「でもあの時、でかい氷塊を生み出したじゃないか」


「あれも唱えたのはフィズラスですよ。なんであんな強力な呪文になったのか、僕にもわかりません」


 あの時、リヴの持つ杖は力強く輝いていた。そして蓮の指輪も。あれが呪文に変化をもたらしたのは間違いない。


 しかしリヴには、なぜあんな事が起ったのかはわからないようだ。


「あれは盾で防がれちまったけどよ、もう1人の男はあの呪文でぶっ飛んだ。あれが、宝玉を砕かれて力を失ったってことなのか」


「はい、だから彼からは指輪を回収できなかったんです」


 見えてきたこの戦いのルール。


 相手の王女の宝玉を砕くのが勝利条件だが、その前には騎士が立ち塞がる。


 無力化するには騎士も宝玉を砕くことだが、それをすると指輪を回収できない。

 

 指輪の回収は、自分達の戦力を増強する重要事項だ。しかしそれに気を取られ過ぎていると、隙を突かれるかもしれない。


 そして、まだ俺達が知らない何かが確かに存在している。これからの戦いも、一筋縄ではいかなさそうだ。


 * * *


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


「口にあったなら、良かったよ」


 結局リヴは全て皿の上を片付けた。それを見て蓮はほっとする。


 彼が空になった食器を片付けようとしたその時。


「後片付けは、僕にやらせてください」


「いいって。お前はそのままくつろいでいてくれよ」


「そういう訳になんていきません。蓮さんにはお世話になりっぱなしで……そっちこそ休んでいてください」


 リヴは、大人しいように見えて案外頑固だ。


「なら、2人でやるか」


「……はいっ」


 リヴはまた嬉しそうに笑った。


 リヴは手慣れた様子で食器を洗い、蓮に渡す。その姿はとても王族には見えない。


「手際がいいな」


「僕、こういうの好きなんです。」


 2人で行った皿洗いは、あっという間に終わった。


「それじゃあ、お世話になりました。僕はこれで」


「待てよ、どこに行く気だ?また野宿する気かよ」


「すでに何度も寝泊まりしているので、大丈夫ですよ」


「そんな訳にいくかよ。今日はホテルを手配する。今夜お前はそこに泊まるんだ」


 いつ戦いになるかわからない以上、リヴにそんな生活をさせる訳にはいかない。

 

 幸い蓮は金を余らせていた。


 高校に入学して一年。暇を持て余した彼は、度々バイトを行っていたのだ。加えて離れて暮らす両親からも、蓮は使い切れない額の振込を受け取っていた。


 ひとまず今夜はホテルに泊めて、明日からは手頃な部屋を借りに行けば良い。蓮は、これまで以上にバイトに取り組もうと考えた。


「……あの……」


 リヴは、気不味そうに、恥ずかしそうに何かを言おうとしている。


「どうした?」


「よろしければ、なんですけど……僕を、ここに泊めていただくことはできませんか?」

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