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命を繋ぐ緑のゆりかご

 レールガン。

 弾丸を電磁気力によって音速の数倍で放つ技術である。


 磁力を操るマーニャは、それを撃つ呪文を切り札として温存していた。


 アイリスの顔の横を、音速の弾丸が通り抜ける。

 彼女はそれを目視できなかった。


 ただ、驚異的な何かが通り過ぎていったことだけは理解した。

 そして、それが蓮を貫いていったことも。


 彼の喉から、赤い飛沫が弧を描くように吹き出した。


「………っ!」


 蓮の膝は力なく折れ、その場に崩れ落ちる。


 誰もが、見たくはないものを見てしまった。

 あってはならないことが起こってしまった。


「……! 蓮さぁーん!」


 リヴの悲鳴が、誰よりも大きく森の中で響き渡る。

 しかし、動揺する彼女に敵は容赦しない。


「シェミドジス!」


 シルエナの影が伸び、リヴの前方に立ちはだかる壁となる。

 それがリヴに迫る剣を受け止め、何とか彼女は難を逃れた。


「リヴ! 今は目の前の敵に集中なさい!」


「うう……蓮さん……」


(酷ですが、これも試練なのですよ! リヴ・クリュスタ!)


 蓮の喉から、泡混じりの血がゴポッと音を立てる。

 ヒュー、ヒューと笛のように空気を切る音は、彼が貫かれた喉で必死に息をしている証だ。


 だが誰もが思った。

 彼はもう助からない、と。


 それを信じたくない仲間達を除いて。


「鷹見君……っ!」


 千早の声にも、蓮は反応しない。


 声を出す力さえないことは明らかだ。

 いや、もはや聞こえているのかどうかさえ定かではない。


(あの女に攻撃は届かなかったか。だが、冷静さを欠いたその状態で、新しい呪文を使いこなせるかな?)


 フィオナの笑みは冷たく、そして不敵だった。


「……あああ! 蓮! 蓮! いやあああ!」


 アイリスの慟哭が響き渡る。

 彼女は、自分の無力さを呪った。


(……あんたが、あたしに新しい力をくれたのに! あんたを守れないんじゃ、こんな呪文、何の意味も……!)


 その時、杖がアイリスに静かに語りかけてきた。


(……何よ! 今さら敵を倒せたって、そんなのっ……!)


 それでも、杖は言っている。

 新しい呪文を使えと。


(……本当に? 新しい呪文で、蓮を助けられるの?)


 涙で滲む視界の中で、アイリスは唇を噛んだ。

 ここで泣いていたって、何も変わらない。


 だったら。


「……蓮が助からなかったら、承知しないんだからぁ!」


 アイリスは杖を蓮に掲げ、力強く唱える。


「トプラシオン!」


 蓮の周囲の地面が脈動し、木の根がいくつも這い出てくる。

 それは絡み合い、やがてゆりかごのような形を作り、彼を優しく包み込んだ。


(この呪文は、何?)


 そして、柔らかな緑の光が彼を包み込む。


「……その木の根を破壊しろ!」


 フィオナの号令に応じるように、蓮と対峙していた騎士が剣を振り下ろそうとする。


「邪魔しないでっ!」


 前に出たアイリスが、杖を振り回してそれを制止した。


(お願い……帰ってきて、蓮!)


 リヴもまた、アイリスの呪文によって奇跡が起こることを祈った。


(蓮さん……お願いです。戻ってきてください……!)


 仲間達が皆、蓮の無事を願う。


 時間にして二十秒程度だっただろうか。

 彼を包んでいた光が消えると、木の根もバラバラになり、大地へと還っていった。


 蓮はそのまま、地面に横たえられる。

 その様子に、皆が視線を集める。


 そして彼は、まるで眠りから覚めたかのように起き上がった。


(……あれ、俺寝てたのか?)


「蓮! 周りを見ろ!」


 煌夜の声によって、彼の意識は現実へと引き戻される。

 周囲では仲間達が、必死に戦っている。


(そうだ、俺は戦って……)


 蓮は、無意識に自分の喉をさする。

 そこには何事もなかったかのように、傷一つ無かった。


 自分が何か敵の呪文を受けたような覚えはある。

 はっきりとはわからない。


 だが指輪から、リヴ、そしてアイリスの心が伝わってきた。


(そうか、アイリス。お前が助けてくれたのか)


 彼女は、自ら騎士と対峙していた。

 すぐにでも自分が彼女の代わりに戦わなければ。


「……さっさと立ちなさいよ、このバカ! いつまで寝てるつもりよ!」


「……ああ!」


 彼女に救われた命で、今度は彼女を救う。


(そのために俺は、剣を握らなきゃならないんだ)


(そうよ、あんたはあたしの騎士。あたしのために戦わなきゃならないの)


 だったら、こんなところで寝ている暇なんてないはずでしょ?

 あんたなら、あたしを更なる高みへ連れて行ってくれるって、信じてるから。


 蓮の両脚が光に包まれる。

 それは安住貴志と同じ、この場にいる誰よりも王女との絆を結んだ証。


 緑色に輝くグリーヴが、今、蓮の脚へと宿る。

 それは、この決戦を最終局面へと導いていくのだ──。

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