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総力戦 一進一退の激しき戦場

「俺様のデートの相手がいなくなっちまった。今度はあんたに相手をしてもらうか」


 狙うは、二体の影が戦うイリヤとジルフィの騎士。

 影が互角に戦線を維持していたところへ、煌夜が参戦。

 たちまちバランスは大きく傾いた。


「くっ……このっ……」


「悪いな、オメーじゃ俺様の相手にならねぇ」


 彼の剣によって、相手は騎士としての力を失う。

 これによって、イリヤとジルフィの騎士はそれぞれ一人ずつとなった。


「僕も負けてられないな」


「私もです」


 雅臣と理玖が、呼応するように相手を攻め立てる。


「何だこいつら! 急に元気になりやがって……」


 もちろん、二人の実力が急に上がった訳ではない。

 だが集った仲間の存在は、彼らの剣に勇気を与えた。


(勝てる。この勝負、勝てるぞ!)


 雅臣の胸に一瞬、勝利の像が浮かぶ。

 しかし次の瞬間。


「シルイプリト!」


 雅臣の剣を振るう腕が、急に重くなった。

 まるで、何かの強い力で引っ張られているように。


(これは……糸の呪文!?)


 無防備となった彼の懐に、フィオナの騎士が迫る。


「くっ……!」


「ベススパニ!」


 ベルーナの呪文によって、青山の足元に複数の正方形が重なった紋様が現れる。

 それを踏みつけると、脚はバネのように沈んだ。

 その反動で彼の動きは加速し、鋭い一閃が雅臣に迫る騎士の剣を防いだ。


「シルエナの騎士ばかりに、良い格好はさせられん」


 そう言って青山が雅臣の腕の周囲を払うように剣を動かすと、彼は糸の制限から解き放たれた。


「まずは鬱陶しい影から消えろ! バドベグロス!」


 イリヤの杖から、ガラスの欠片がマシンガンのように放たれる。


 狙われたのは、残り二体となった影。

 盾を使えば防げる。


 そのはずだった。


「オル・シルウィルド」


 ジルフィの呪文で、戦場に大きな風が巻き起こる。

 それ自体に殺傷力は無い──


 だが次の瞬間。


「おわっ!」


 ガラスを巻き込んだ風は、無数の刃となって周囲を切り刻む。

 影は二体ともそれを防ぎきれず、呪文に裂かれて消滅した。


 そして煌夜も、いや、煌夜と対峙していたイリヤとジルフィの騎士も巻き込まれ、身体中に無数の傷を負った。


(あいつ、仲間ごと巻き込みやがった!)


「くそっ、いてーんだよ、イリヤぁ!」


「だが影は倒した。この方がマシだろう?」


「ああ……そうだなっ!」


 影を失ったことで、一転、煌夜は一対二の劣勢に追い込まれた。


「チッ、やってくれるじゃねーか」


 今、彼はシルエナから最も近い位置にいる。

 自分が倒れれば、彼女が狙われることは明白だ。


(何とかここは、踏ん張らねーと)


 左右から迫る騎士。

 次の瞬間、彼の視界で黒いポニーテールが揺れ、千早が一方の騎士の剣を受け止めた。


「この人はあたしが相手をします! 煌夜さんはそっちを!」


 集った仲間の存在は、傷だらけの彼女に今一度、戦場に立つ闘志を与えた。


「休んでろって言ったのに……かっこ悪いとこ見せちまったな」


 至る所で金属が噛み合い、風が舞い、砂が走り、呪文の残光が視界を染める。


 繰り広げられているのは、まさに総力戦。

 互いに一歩も引かない、一進一退の激しい戦いが繰り広げられる。


「ずいぶん時間がかかったではないか。マーニャ」


「待たせたな」


 フィオナの隣に現れたのは、崖の上でアイラ達と対峙した、青い髪の王女。

 彼女は二人の騎士を引き連れている。


「げっ。まだ敵がいるのかよ」


 煌夜が悪態をついても、事態は変わらない。


 現状は互角。

 だが新たな敵が加わるとなると、一気に戦況が変わりかねない。


「バスの残骸は全て片づけておいた。一部はここにあるがな」


 彼女の杖の先端に、直径一メートルほどの球体が浮いている。

 それはバスの残骸で形成されており、杖を下ろすと、ガシャンと音を立てて辺りに散らばった。


「ご苦労。だが、まだ働いてもらうぞ」


「わかっている。お前達、かかれ!」


「はっ!」


 マーニャが引き連れた二人の騎士がフィオナの騎士と並び立ち、理玖、雅臣、元樹に対して五対三となった。

 容赦のない攻撃が、三人に襲いかかる。


(ここに来て、増援!)


 不安定ながらも互角であった戦線は、一気に押し切られそうになる。


「ファムシェミド!」


 シルエナの呪文によって安住の影がまたも人の形となって分離し、理玖達の下へと駆けつける。


「オル・ファムシェミドは使えぬようだな。だが安住の影。油断するな」


 彼の脅威を知っているフィオナが、仲間に檄を飛ばす。


「この影、強いぞ!」


 グリーヴを身につけた影は、数で劣る戦線を何とか押し上げた。

 だがフィオナは、その影の限界を看破していた。


(いかに身体能力に優れようと、影にそこまで高度な思考はできん。あの影に本体程の脅威は無い)


 影は、目の前の脅威に対し反射的に対応をしているだけ。

 安住や阿部のように周囲の木を利用するような考えを持たず、彼らほど戦況に大きな影響を与える力を持たなかった。


(どこかが崩れれば、一気にそこから押し切られる。退いてはなりません)


 大局を見据えるシルエナをよそに、拮抗が崩れようとしている盤面があった。


「はあっ……はあっ……」


 度重なる攻撃に晒され、もはや千早は気力だけで立っている。

 だが彼女の体は、ついに限界を迎えようとしていた。


「シルミルナ!」


「ぐあっ!」


 フィアの呪文が敵に直撃し、感電させて動きを止めた。


(今だ──!)


 その隙を逃すまいと、千早は剣を向ける。

 だが次の瞬間、彼女の膝は折れ、地面に手をついて崩れた。


「はあっ……はあっ……」


「嬢ちゃん!」


 煌夜の言葉に応えることもできず、もはや千早に、敵を前にして立ち上がる力は残されてはいない。

 フィアが動きを止めた敵も、その間に立ち直ってしまった。


「もう限界だな。よく戦ったよ」


 刃が頭上から、千早に迫る。

 それを防ぐ力など、もう残ってはいない。


(ごめん、フィアちゃん……)


 千早は静かに目を閉じる。

 自分の世界から、音が無くなったような気がした。


 だが次の瞬間──


 キィンッ!


 頭上で、激しく金属が弾ける音が聞こえた。

 目を開けると、そこにいたのは見知った背中。


「鷹見……君……」


「間に合ってよかった。あとは俺に任せてくれ」

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