集う四騎士 互いのエースは実力伯仲
「イプリトピア!」
フィオナが杖を前方に掲げると、影の一体が揺らめき、消滅する。
弾丸のように飛ばされる無数の糸を、目で見極めることができた者はこの場にはいなかった。
(あの距離から糸で影を貫きましたか。まるで見えない。厄介ですね)
彼女の糸は、刃のように切り裂き、槍のように貫く。
だが正体を知っていても、それをかわすことは困難である。
これで残る影は二体。
数の有利を広げた敵は、四人がかりで残りの影を仕留めにかかる。
「シルシェミド!」
シルエナが影を援護するように黒い光球を放つと、それを受けたジルフィの騎士の影から黒い腕が伸び、彼を縛り上げた。
「何だこれ……うわっ!」
その隙を逃さず、影は相手の左胸を突く。
宝玉を砕かれた敵は、力を失いその場に崩れ落ちた。
「シルエナも、やるじゃない」
負けじと応酬した彼女に、阿部は感心する。
「他の事を気にしている余裕があるのかよ?」
「あるわよ?」
煌夜は、装備で勝る相手を一対一で引きつけている。
相手は間違いなく敵の中で最強の騎士。
いつもの軽口が言えないほどに、今の煌夜には余裕が無かった。
「あんたは強いわ。だから見せてあげる。あたしの本気をね」
そう言うと、阿部は下がって煌夜から距離を取る。
(踏み込んで攻撃してくる気か? 盾があれば防げねえ攻撃じゃねえ)
だが次の瞬間、阿部は煌夜の懐ではなく、横へと跳んだ。
そして、そこにあった木を蹴り、また別の木へ移動する。
「これならどう!?」
そのまま三階建ての建物ほどの高さまで駆け上がった彼は、勢いよく跳び降り、煌夜に向かって剣を振り下ろした!
(これは……やべえ!)
ガキイイィンッ!
煌夜は盾で防御するが、とてつもない衝撃が彼の全身に伝わる。
異変を感じて盾を覗き込むと、そこから大きく亀裂が広がっていた。
「おいおい、マジか!」
「続けるわよ」
阿部は再び距離を取り、またも木を利用して周囲を飛び跳ねる。
その動きを、煌夜は捉えきれない。
「行くわよ!」
「くっ!」
バキィイイッ!
再度の高所からの強襲。
煌夜の盾は、役目を果たせない程粉々に砕け散った。
(ヤベェ。速すぎる。剣じゃ受け止めきれねえ)
「次は防げるかしら」
そして阿部は、三度木を使って激しい跳躍を始めた。
盾を失った煌夜に、今度こそこの攻撃をかわす術は無い。
「遊ぶなと言ったはずだ、孝宏! さっさと終わりにしろ!」
フィオナの檄が、戦場に響く。
(遊んでるつもりは無いんだけど……? ああ、そういうことね)
今、自分の攻撃をかわせないのは煌夜だけではない。
その気になれば、この場にいる誰でも狙うことができるのだ。
その中には当然、相手の王女も含まれる。
(シルエナちゃんを直接狙えってことね。はいはい、わかったわよ)
阿部は木から木へと飛び移り、シルエナへと接近していく。
狙いを察知した煌夜が必死に追うが、追いつけない。
「やべえ。シルエナ、逃げろ!」
理玖も雅臣も、シルエナの危機を察するが、目の前の相手から離れることができない。
(指輪をいただいたら、あんたの騎士は全部あたしの仲間にしてもらおうかしら。そのためにも)
阿部が、シルエナの頭上から大きく剣を振りかぶる。
「あんたの首、もらうわ!」
その刃が自らに迫ろうとも、シルエナの瞳は怯まず、彼を逃さず捉えていた。
「ルラシェミド!」
シルエナの呪文に応じて、彼女の影から一人の男が現れる。
キイィンッ!
彼女の四人目の騎士、安住貴志が迫り来る阿部の剣を受け止めた。
「あら、貴志。遅かったわね」
「今日こそお前と決着をつけよう、孝宏」
煌夜、緑川雅臣、大高理玖、そして安住貴志。
シルエナの四騎士が、ここに集った。
「皆、任せましたよ」
「お前は危険の無い位置まで下がっていろ」
シルエナは阿部の相手を安住に任せ、その場から後退する。
「もうちょっとでシルエナを消して、あんたをあたしの側に置けたのに」
「私はシルエナ以外に、この剣を捧げるつもりはない」
「記憶が消えたら、そうも言えなくなるわ、よっ!」
貴志と阿部の間で、激しい剣の応酬が繰り広げられる。
二人のグリーヴの踏み込みが地面を抉り、土煙が弾けた。
刃が擦れ合い、火花が森の中で散っていく。
阿部が木を駆け上がり、安住はそれを逃すまいと追いかけた。
戦士達の頭上で、剣戟による金属音が響き渡る。
どちらも引かない。
二人の実力は互角だった。




