↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
111/145

命を懸ける理由はあるか 臆す少女と怯まぬ少年

「だいぶ傷が増えたね。致命傷には至っていないようだけど、いつまで続くかな? そのまま出血が続けば、君の命の火が消える事も決して有り得ない話じゃないだろう」


「……っ!」


 千早は、少しずつ自分の力が失われていくことがわかった。

 あちこちから流れていく血は、まるで命が少しずつ漏れていくようだ。


「君も元はただの一般人。命を懸けてまでこの戦いに参加する理由があるのかな? ここで剣を置いても恥じる事は無いよ。君と契約した王女だって、責めることは無いはずだ」


 相手は、言葉でこちらを惑わせようとしている。

 だが、ここまでの傷を負わされる事が初めてであることも事実。


 いまだ敵の呪文の正体は掴めない。

 命の危機と得体の知れない恐怖が、十代の少女を迷わせていた。


「千早……」


 フィアも、千早に命を懸けて戦えなどと言えるはずも無い。

 彼女にかける言葉を、見失ってしまっていた。


(いけませんね……数の不利に加え、精神的にも優位を取られている。このままでは……)


 理玖の剣には、現状を打破する力などない。


 できるのは、これ以上相手のペースに飲み込まれないようにすること。

 彼は言葉でこの戦況の打破を図る。


「……あなたの呪文の正体。おそらくそれはガラスですね。先ほど放たれたのは、ガラスの破片のようなもの」


 イリヤの顔がピクリと反応する。


「……それがわかったからと言って、何だって言うんだい?」


「ガラスであれば、鎧を通すほどの力は無いでしょう。それがわかれば、防げぬものではないということですよ」


 理玖は千早の顔をチラリと見る。

 先ほどより迷いの晴れた顔をしている。まだ闘志は尽きていない。


「近藤さん、盾を使いなさい! 無理に攻める必要はありません。防御に徹するのです!」


 理玖の指示を受けて、千早は背後に背負った盾を構えた。

 傷だらけの左腕が痛む。だが握る手はまだ力強い。


「守りを固めて何になる? 決め手を欠いたまま、じわじわ追い込まれていくだけだ」


「いえいえ、守りに徹することで見えてくる勝機もあるということですよ」


(こいつ、何を考えている?)


 ただのハッタリか。

 いや、こちらが無理に攻めるのを待って、その隙を狙うつもりか。


「その手には乗らないよ。時間をかけて不利になるのはそっちさ」


 ペースは完全にこちらが握っている。

 危険を冒さなければ、こちらの有利は動かないはず。そのはずなのに。


「そうですか。ではお好きにどうぞ」


 理玖は、不敵な笑みを浮かべることをやめなかった。


(何を狙っている? 新しい呪文や装備が発現する事を期待しているのか?)


───


「はあっ、はあっ……」


「……もう諦めたらどう? 本当に死んじゃうよ?」


 すでに蓮は満身創痍だった。


 二対四の数で不利を強いられる戦い。

 しかも鹿野は装備で劣っている。


 一人で皆を庇いながら戦っていた蓮は、腕から、胴から、脚から鮮血を流している。


「蓮さん……」


 リヴはもう蓮の限界が近いことを理解していた。

 彼が死ぬくらいなら、今すぐ自分がこの世界から消えたって良い。


 それでも蓮の鋭い眼差しは、相手の動きを一切逃さず射抜いていた。


(戦いは、やめねえよ。たとえ死ぬことになったとしても)


 リヴ、お前がくれたんだ。生きる意味ってやつを。


 何をしてもつまらなかった。

 何のために生きているのかと毎日を疑っていた。


 あんな日々に戻るくらいなら、命を懸ける。

 俺の戦う理由なんて、それで十分だ。


「リヴ! あいつが諦めてないのよ! あたし達が諦めてどうするの!?」


「……はいっ!」


 もう彼に傷ついて欲しく無いと、何度願っただろう。

 それでも彼は戦うことをやめない。


 彼の無事を願うのと同時に、彼の覚悟を否定することもできない。

 だからせめて、自分の祈りが彼の力になる事を願う。


(僕の思いがあなたの力になるなら……信じます。あなたが勝つんだって)


(そうだリヴ。お前が見ていてくれるから、俺は戦えるんだ)


 刃を振る腕に、まだ力は残っている。

 前へと踏み込む足の力強さも確かだ。


 何より、心はまだ前を向いている。


「来いよ! 勝負はまだこれからだぜ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。