敵の呪文は正体不明 追い込まれる剣道少女
「くっ!」
千早に、白い鎧を身につけた二人の男が襲いかかる。
得意の足捌きで、何とかかわす。
だが一瞬たりとも気は抜けない。
隙を見せれば、そのまま飲み込まれるだろう。
「女性に二人がかりとは、感心しませんね!」
大高理玖が叫ぶも、彼は目の前の緑の鎧を身につけた男の相手で手一杯。
そしてもう一人、青山元樹も同じく緑色の鎧の男と一対一を強いられていた。
ここにいる王女は四人。フィアとベルーナ。
そして敵はイリヤ・ヴィトラール、ジルフィ・タペストラと名乗った。
こちらの騎士は、千早と大高理玖、そして青山元樹。
対して敵の王女の騎士は若い男が二人ずつの計四人。
皆がサークレットを身につけており、装備の条件は互角だ。
「悪く思わないでよね。弱い相手から倒すのは戦術の基本だから」
透明感のある白いドレスを身に纏うイリヤが、千早を憐れむように語りかける。
(私がこの中で一番弱いと思われている? 女だから?)
でも、あなただって女だ。なら。
「女だって強くなれるって、わかってるでしょ!」
「おおっ!?」
一対二でも怯まず、押し込む!
(私にもわかる。サークレットが相手の動きを教えてくれてる)
千早の十年以上剣を握ってきた経験は、並の男に超えられるものではない。
加えてシルエナとの戦闘以降、訓練を重ねて自分にも備わった新たな力。
(私にだって、フィアちゃんとの絆がある。鷹見君と、リヴちゃんとアイリスちゃん。あの三人にだって負けない絆が!)
「……やるね。彼女から狙えば落とせると思ったのは甘かったかも知れない。でも」
イリヤは杖を構えて千早に狙いを定めた。
「集中攻撃をして一人ずつ倒すのに、戦術に変わりはない! ベグロス!」
微かに光る何かが放たれ、無数に千早に向かってくる。
正体はわからない。そして二人を相手にしていてはかわすことができない。
「ううっ!?」
それは、千早の鎧に覆われていない部位を鋭く切り裂いた。
頬や上腕、大腿を掠め、血が流れる。刺すような痛みが走り、思わず顔をしかめた。
(痛い……何? 今のは……)
「もらった!」
「くっ!」
正体不明の攻撃呪文に続けて、騎士も攻撃を合わせてくる。
一人目の剣は何とか受け止めるも、二人目の剣はかわすことができず、左上腕を掠めていった。
「きゃあっ!」
膝がわずかに沈む。
崩れそうになる千早を逃がすまいと、さらに剣が襲いかかる。
だが千早は踏みとどまる。
気力だけで身を捻り、追撃を何とかかわし切る。
(二対一であろうと、負けない。負けたくない)
千早は強い視線を目の前の敵に向ける。だが相手も怯まない。
「ルドミルナ!」
フィアの杖から放たれた雷光が、千早を輝かせる。
身体能力を強化する雷の祝福。
筋肉が軽くなり、羽根が備わったかのような錯覚を覚えた。
「はああっ!」
痛みを無視して、今までよりも深く踏み込む。
弱気を見せては一気に付け込まれる。勝つには、攻めるしかない。
「千早は強いのです! 相手が男だろうと、何人いようと、負けないのですぅ!」
後ろでフィアが応援してくれている。
彼女を守るために、どんな状況だろうと負けられないのだ!
千早はフィアの援護を受けて、何とか持ち直した。
だが呪文の強化は長くは続かない。
ルドミルナが切れた時、彼女は二人の騎士に蹂躙されるだろう。
(状況は、よろしくないですね……!)
理玖は目の前の騎士と互角の立ち合いを演じていた。
今ここにはシルエナがいない。
自分には戦況を大きく動かす力は無いことを、彼は冷静に分析していた。
(今私にできることは、目の前の相手をここで食い止めること。私が崩れたら、一気にそこから付け込まれる)
勇猛と無謀の違いを、彼は理解していた。
自分が今するべきは、相手を倒すことではない。
目の前の相手を食い止め、これ以上の数的不利を作らないこと。
(わかっていますね? ここで何とかできるとすれば、貴方達なのですよ!)
理玖が期待を向けるのは、青山元樹、そしてベルーナ。
そして彼らも、ここは自分達が何とかすべきであると理解していた。
青山と相手の騎士も互角。なら戦況を大きく動かすのは、呪文の力。
「ウォルスパニ!」
ベルーナが唱えると、敵の騎士の前に長方形が何重にも重なったような、不思議な壁が現れる。
「なっ!?」
相手はその出現を予想できず壁に激突すると、バネが反発するように跳ね返され、後方に吹き飛びそのまま倒れ込んだ。
「そこだ!」
その隙を逃さず、青山は敵を追撃する。
狙いは左胸。一人落として騎士の数を互角にすれば、戦況は大きく変わる。
だが──
「ウェイウィルド!」
ジルフィが唱えた呪文によって、杖から強い風が巻き起こる。
青山はそれに押し込まれ、大きく後ろへ吹き飛ばされた。
「ぬうっ!」
転倒は免れたものの、追撃は叶わない。
その間に相手の騎士も体勢を立て直してしまった。
「くっ……!」
(焦っているようだね。完全にこっちのペースだ)
数で勝り、戦況をコントロールできているのは自分達の方だ。
彼女達の狙いは、まず千早を倒すこと。
それが叶えば騎士の数は相手の倍。ますますこちらに有利になる。
警戒するとすれば、相手の呪文。
だが呪文で競うなら、それも騎士の数で勝るこちらが有利。
最も警戒すべきは、新たな呪文と装備。
それは戦況をひっくり返すほどの恐ろしい力を発揮しかねない。
そのためにも、有利だからと言って時間をかけるつもりはない。
女の騎士を確実に倒す!
「今度はもっと強い呪文で行くよ。イグベグロス!」
杖から、また何かが放たれた。
キラキラと輝き、何かが存在していることはわかるが、その正体は掴めない。
(何? 何が飛んで来てるの?)
それはまたも千早の肉を切り裂く。しかも先ほどより数が多い。
まるでマシンガンのような連射。その集中砲火を、千早はまともに浴びてしまう。
「ううっ!」
「もらった!」
呪文の後は、敵の騎士の剣が迫る。
一人目の攻撃は避けたが、二人目の剣は千早の脇腹を切り裂いた。
「きゃああっ!」
「千早っ!」
千早とフィアの、悲鳴にも似た叫びが響いた。




