騎士も楽じゃない? 王女と過ごす俺たちの苦労
「明日と明後日は、決戦に向けて連携の確認を行います。今日は体を休め、お互い親睦を深めましょう」
シルエナはそう言うと、大高さんと顔を合わせる。
そして彼は俺達にカードキーを手渡してくれた。
「夕食は十九時に宴会場を使用します。それまでは自由におくつろぎください。もしホテルを出る場合は、必ず連絡をお願いします」
俺達は各々、部屋へと向かった。
リヴはアイリスと、フィアは近藤と相部屋に、そして鹿野さんは家族四人で一部屋となった。
一人溢れた俺は、ベルーナという王女の騎士と同じ部屋になった。
「青山元樹と申す。よろしく」
百八十センチほどの背丈に、黒髪は左右に分かれ耳までかかる長さ。
歳は二十くらいに見える。
性格は安住さんと似たタイプだろうか。
表情は硬いが悪意は感じない。真面目な人なのだろう。
「鷹見蓮です。よろしくお願いします」
俺達は共に移動しながら、軽く会話を交わした。
「鷹見殿は、北海道から来られたのだな」
「札幌で暮らしています。青山さんは東京の人ですか?」
「いや、私は神奈川だ。湘南大学に通っている」
やはり大学生だったか。
俺は高校生であると告げる。
「同部屋となったのも何かの縁。よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
まだ会ったばかりだが、良い人そうだと思った。
「ここですね」
カードキーをタッチして部屋のドアを開けると、そこにあったのは洗練された静寂と上質な空気に包まれた空間であった。
正面には大きな窓があり、東京の街並みが一望できる。
スタンダードな部屋ではあるが、高級感が伝わってくる。
まるで部屋が自ら一流を称しているようだ。
「いい部屋ですね」
「うむ」
俺は荷物を置いてベッドに横たわる。
優しく包み込まれるような、吸い込まれそうな感触。
長距離移動の疲れもあって、このまま寝てしまいそうだ。
「ところで……鷹見殿は、二人の王女と契約をしているそうだな」
「そうなんです」
やっぱり、そこは気になるよな。
俺が逆の立場でも、思わず聞きたくなるだろう。
「大変ではないか?」
「大変なのかも知れませんけど、もう慣れました」
「……同じ家で暮らしているのか?」
「そうですね。契約はしてないんですけど、エクレールの王女もうちにいるので、四人で暮らしてます」
「なんと!」
青山さんは驚いている。
年頃の男女が四人で暮らしているとすれば、良く思われなくても無理は無い。
「ベルーナさんは青山さんと同居してるんですか?」
「……うむ。他に構えを用意できるほどの余裕も無いのでな」
それが普通だろう。
外に放り出すわけにもいかないのだから、そうなるのが自然だ。
シルエナさんなら、大高さんに家を用意されていてもおかしくないが。
「鷹見殿は、女性と接するのが得意なのだな」
「えっ? そんなことはありませんよ」
別に女性の扱いが上手いから四人暮らしが成立しているわけではない。
「それぞれ、好きにやってますよ。俺は特に口出ししてないだけです」
「そうか……」
青山さんは何やら考え込んでいる。
王女との同居に何か悩みでも抱えているのだろうか。
ベルーナさんか……。
優しそうな雰囲気だったが、一緒に暮らさないと見えてこないものもあるだろう。
俺だって苦労がない訳じゃない。
でも、そういうものも乗り越えて今日までやってきたんだ。
そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。
開けるとそこにいたのは、リヴとアイリスだった。
「あら、あんたはこんな部屋なのね」
「ああ、綺麗な部屋だろう。大高さんには頭が上がらないよ」
「そういう意味じゃないわ。あたし達の部屋はこの比じゃないわよ。見に来る?」
「えっ」
大高さんは王女に失礼があってはいけないとは言っていたが、もっとすごい部屋を与えたってことか?
「じゃあ見せてもらおうかな。青山さんも一緒に行きませんか?」
「……うむ、交友は深めるべきだからな。同行しよう」
俺達はリヴ達の部屋へと案内された。
「……うわっ……すげー……」
上品な木目を基調にしたリビングが、訪問者を優しく迎える。
部屋の中央に置かれたガラステーブルとモダンなデザインのチェアが、落ち着いた高級感を演出していた。
正面の大きな窓は、壁一面をガラスで切り取ったかのように広がり、その向こうには都心の喧騒とは無縁の緑と、遠く霞む高層ビルの輪郭が重なっていた。
右手の奥には、黒と金を基調としたダイニングテーブルと椅子が並び、まるで貴族の会食を思わせる品格を漂わせる。
「部屋っていうより、高級なモデルハウスみたいだな」
まるで豪邸の一部を切り取ったみたいだ。
「城を思い出すわ。あの大高っていう男、わかってるわね」
「なんだか悪いです、大高さんにも。蓮さんを差し置いて僕だけこんな部屋に泊まってしまうのも」
確かに羨ましくもあるのだが、自分がこんな部屋を与えられても落ち着かないだろう、とも思った。
「大高さんには後日お礼をしよう。今回はせっかくだから、楽しませてもらおうぜ」
「今、お茶を淹れます。青山さんもゆっくりしていってください」
「うむ……」
リヴが淹れてくれたお茶も、普段口にするものより良いものだ、と思った。
そんな風に寛いでいると入口がノックされ、今度は近藤が入ってきた。
「うわー、ここもいい部屋だねー」
近藤も、自分とフィアにはスイートルームが与えられたと言った。
フィアは移動に疲れて眠ってしまったそうだ。
「えっと……青山さんでしたよね。改めまして、近藤千早です。よろしくお願いします」
「うむ……」
五人集まったが、俺達は普段から一緒にいる。
自然と話題は、青山さんに集まった。
「へえ、大学生をしているんですか」
「うむ……」
「出身はどちらなんですか?」
「うむ……」
「………」
この人、さっきから「うむ……」しか言ってないぞ。
顔は俯いているし、気分でも悪いのか?
「あんたさっきからつまんないわね」
アイリスが遠慮なく切り込んだ。
いくらなんでも、酷い言い草だ。
「……あの、もしかして気分でも悪いんですか?」
「ち、違うのだ……私は……その……」
一呼吸置いてから、青山さんは静かに口にした。
「……女性が、苦手なのだ」
……あー、気持ちはわかる。
女を前にすると、何を話していいかわかんないことってあるよな。
「青山さん、こいつらはいい奴ですよ。リヴも近藤も、取って食ったりしません」
「なんでそこにあたしを含めないわけ?」
「今さっき人をつまらないと切り捨てたやつを入れられるわけないだろ」
これじゃあぶりっ子モードの方が、まだマシだったかも知れないな。
「これから一緒に戦うっていうのに取り繕ってられないわよ。あんたも慣れなさい!」
「うむ……」
「だからそれ!」
まあ、うちの女性陣にもおいおい慣れてもらうしかない。
「青山さんもベルーナさんと同居なんですよね。そっちは問題ないんですか?」
ベルーナさんはアイリスと違って、きついことを言わなさそうではあるけれど。
「うむ……大変というか……」
「……何か悩みでもあるんですか?」
「……いや、とても気立ての良い女性なのだが……時々話が合わないことがあってな」
「価値観が合わないってことですか?」
「そうとも言えるかも知れんな」
ふーむ。
お互いの信頼が重要となる俺たちにとって、それは軽くない問題かも知れない。
だがここまで生き残ってきた人なんだから、青山さんとベルーナさんにはきっと固い絆があるはずだ。
しばらく雑談を続けた後、フィアも起きてきて合流し、俺たちはホテルを探検することにした。
まだ明るいうちに外に出ると、水の音が胸に響く。
そこにあるのは石造りの壁と流れる壮大な滝。
そして池には大きな錦鯉が数匹、ゆっくりと優雅に泳いでいた。
「可愛い……」
「リヴは生き物が好きだな」
密に生い茂った木々の間からは木漏れ日が差し込み、淡く照らされた道には手入れされた美しい植え込みが一面に広がっている。
中に戻ると、目の前に広がるのは華やかでありながら落ち着いた雰囲気のショッピングアーケード。
煌びやかなショーケースが並び、高級ジュエリーや和雑貨、アートギャラリーに至るまで、目に映る全てが上質だった。
「本当にすごいホテルだね」
「なかなか楽しませてくれるわ」
大高さんはホテル内の買い物やサービスも自由に利用するように言ってくれているのだが、流石にそこまで甘える気にはなれず、ウインドウショッピングとなった。
そんなこんなで時間はあっという間に過ぎ、夕食の時間となった。




