迫る決戦 王女たちは東京へと降り立つ
「雲が下に見えるですぅ」
「この前乗ったばかりでしょ。はしゃがない!」
騒ぐフィアをアイリスが嗜める。
俺達は、今飛行機の中にいる。
シルエナ達と合流し、本州で始まる決戦に参加するために。
「飛行機なんてランク戦以来だな」
修学旅行の時と違うのは、鹿野さんが同乗していること。
「ランク戦って東京でやるんですか?」
「大体はそうだね」
この飛行機もまた、東京へ向かっている。
「鷹見くんは東京で生まれたんだよね」
「四歳か五歳の時に札幌に移ったから、ほとんど覚えてないけどな」
近藤に、そう言葉を返す。
母は北海道北見市の出身だが、父は東京生まれの人間だ。
上京した母と出会い、俺達が生まれた。
経済的に成功した父は、札幌に生活の場所を移した。
都会は疲れるから、と言っていた。
だが今は弟の教育のために、アメリカに移り住むことを選んだ。
それだけ、弟の才能が規格外だったのだ。
「東京に行ったらディズニーランドに行くのですぅ」
「ディズニーは東京じゃないけどな」
俺たちの渡航や宿泊費は、シルエナの騎士の一人、大高理玖という人が出してくれた。
なんでも社長をやっており、経済的には全く問題がないのだと言う。
フィアがディズニーランドに行きたいと言うと、戦いが終わった後にはその費用も持ってくれると言うことだ。
「まさかうちの家族まで招待してくれるとはね」
「ディズニー楽しみ~」
鹿野さんの家族も共に着いてきた。
戦うことを考えなければ、年末の旅行といった感じだ。
「負けたらあんたはディズニーに行けないわよ。その時はあたしが代わりに楽しんであげるから安心しなさい」
「ムキー! フィアが負けるはずないのですぅ!」
……勝てるだろうか。
戦いは、おそらく今まででも最も苛烈な物になるだろう。
あれだけ強いシルエナが、同志を求めている。
一体どれほどの強敵が待ち構えているのだろうか。
「……蓮さん、大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ」
心配してもしょうがない。
俺がリヴを、みんなを守る。ただ、できることをやるだけだ。
───
飛行機が東京の地に着陸した。
機体が地上を滑るように移動し、ブレーキの振動が身体に伝わってくる。
シートベルトの着用サインが消え、乗客達が次々と立ち上がり荷物を取り出し始める。
俺達もその流れに乗り、順番を待って機体と空港を繋ぐ可動通路を渡った。
それを抜けると、そこは吹き抜けの天井と白い壁。英語と日本語が並ぶ案内板。
北海道とは違う、いかにも都会に来たのだと実感が湧いてきた。
「凄い。人が多いですね」
リヴが驚嘆する。札幌ではここまでの人の多さはあるものではない。
「皆様、お待ちしていました」
羽田空港では、シルエナが出迎えてくれた。
横には俺が戦った赤い長髪の男と、近藤が戦った黒髪の男が並ぶ。
名前は煌夜と、緑川雅臣と言うらしい。
「お久しぶりです、シルエナさん」
「長距離の移動で疲れてるでしょう。ホテルをとってありますから、今日は休んでください」
「ありがとうございます。そこに他の人も集まってるんですか?」
「その通りです。東京にいる間、あなた方にもそこを拠点にしてもらいます」
大高さんもそこにいるのだろう。会ったらお礼を言わなくては。
「久しぶりだな、かわい子ちゃん達。今回は味方だ。仲良くしようぜ」
煌夜さんが軟派な態度で近づいてくる。
あの時は強敵だった。だが今回は頼りになる存在となるだろう。
「なーんか軽いわねあんた。女の勘があんたに近づくなと言っているわ」
アイリスは警戒心を隠さない。
「そりゃねーぜお嬢ちゃん。ところで今いくつなんだ?」
「年齢? 十六だけど」
「歳じゃねえ。胸のサイズだ」
「……!? 変態っ!」
アイリスは力一杯罵倒する。だが煌夜さんは悪びれない。
「ちなみに俺様は百二センチだぜ」
(男で自分の胸のサイズ把握してる人初めて見た)
煌夜さんは会話を続ける。
「おっさんは初めて見るな。名前はなんて言うんだ?」
「鹿野です。こっちは家内とうちの子です」
「初めまして~」
鹿野さんの二人の子が礼儀正しく頭を下げる。
「いい子じゃねーか。東京は初めてか? お兄ちゃんに何でも聞きな」
アイリスへの冗談は度が過ぎていると思ったが、ただの女好きと言うわけではないようだ。
良くも悪くも、気さくな人なのだろう。
「お久しぶりです、煌夜さん」
「久しぶりだな少年。少しマシな顔になったみてーだな」
「そうですか?」
自分ではそんなのよくわからない。そもそもそんなに酷い顔だったのか俺。
「煌夜さんの苗字はなんて言うんですか?」
「煌夜ってのは源氏名だからな。俺様はホストをやってる。本名は秘密だ」
「そうだったんですか」
ホストと言われれば、頷ける容姿と態度をしている。
「歌舞伎町の煌夜と言えば、ちょっとした顔だぜ。今度うちの店に来いよ」
「未成年をいかがわしいところに誘うんじゃない」
煌夜さんを静止したのは、シルエナのもう一人の騎士である緑川雅臣さんだ。
「相変わらず硬いな~。冗談に決まってるだろ」
「お前は子供には悪影響だ。変な道に引き摺り込むなよ」
煌夜さんとは対照に、とても真面目な人だというのがひしひしと伝わってくる。
「では行きましょう。着いてきてください」
緑川さんが丁寧に先導して俺達を導いてくれる。
羽田空港は広い。
慣れていなければ、一人で目的の場所へ移動するのは難しいだろう。
「美味そうなものが売ってるですぅ」
「お土産なら帰る時にしろよ」
そう言いながら、俺の脳内でフィアが札幌に帰れない可能性が頭をよぎる。
こいつが無事にお土産を買って帰る。そうなるようにするのが、俺の仕事だ。
長い通路を抜け、エスカレーターを利用し、また歩く。
ようやく出口の文字が記載された自動ドアを見つけ、外に出るとそこには大型バスが待っていた。
「これも大高さんが?」
「そうです。ホテルに向かいますよ」
乗り込んだバスから見えるのは、倉庫や物流センターが立ち並ぶ湾岸の景色。
巨大なコンテナやクレーンが東京の裏側を主張している。
やがて風景は華やかさを帯び始めた。
建物の高さが増し、窓ガラスの反射が強くなる。
中でも目に付いたのは、天を突くように高くそびえる塔。
「あれがスカイツリーか」
幼少の頃東京にいた俺も、見るのは初めてである。
「すごい、大きいですね」
「この世界で二番目に高いらしいからな。あれ、三番目だったか?」
リヴもその高さに驚くしかないようだ。
しばらく進むと、今度は反対側に東京タワーのシルエットが浮かぶ。
そのどちらも通り過ぎた頃、バスは東京の中心へと近づいているのがわかる。
車の数も増え、看板は英語や中国語と交えて観光地の様相を呈していく。
「すげー都会って感じですぅ。これが東京ですか」
(東京の中でも中心って感じだ。俺達が泊まるホテルってどんなんだよ?)
やがて紀尾井町の坂を上がり、木々に囲まれた広大な敷地の中に堂々たる巨大な建物が姿を見せる。
「着きましたよ」
「……ここに泊まるんですか!?」
そこはホテルニューオータニ。
一九六四年に行われた一度目の東京オリンピックに合わせ、国の要請で誕生したという老舗ホテル。
ここまでのグレードのホテルになど、俺は今迄泊まった事はなかった。
「ここも大高さんが……?」
「そうです。中で待っているはずです。行きましょう」
ロビーに足を踏み入れると、華やかなシャンデリアと大理石の床、格式ある調度品が迎えてくれる。
東京という巨大都市の真ん中に存在しながら、都会の喧騒とは一線を画した、静謐で重厚な空間だった。
「お待ちしていました、シルエナ様」
中で出迎えてくれたのは、かつて近藤が剣を交えた相手。
百八十センチを超える長身に眼鏡をかけた男性、今回のスポンサーであるという大高理玖であった。




