美少女との幸せな未来と本当の想い
時間が、止まった気がした。
夢の中に、飛び込んだような気がした。
今生きている瞬間が、現実では無いような気がした。
それくらい、衝撃的な言葉だったから。
(好きって……友達としてってことか……?)
いや……前に俺のことを好きな奴がいるって、そういう意味じゃなかったろ?
じゃあやっぱり……。
思考がぐるぐる回る。脳が混乱している。
こいつ、俺をからかってるんじゃないか?
俺が本気になったら、笑いものにする気なんじゃ……。
……違う。南條はそんなことする子じゃ無いって、知ってるじゃないか。
こいつは、人を悪戯に傷つける子じゃない。
だからみんな、こいつのことが好きなんじゃないか。
じゃあ、本当に……?
南條は、顔を赤くして俯いたまま黙り込んでしまった。
よく見ると、震えているようだ。
寒いからじゃない、緊張しているんだ。
──それだけ、本気だと言うこと。
「……何で、俺のことが……?」
心臓がかつて無いほど強く高鳴る。
南條に聞こえてしまいそうな程に。
「……あたしの兄妹を助けてくれたから。あと、鷹見といると楽しいなって思った」
俺も、南條といると楽しいって思っていた。
「いつの間にか、鷹見の顔も声も、好きになってた。あんたが近くにいると、あたしは幸せな気持ちになれるの」
彼女の言葉が、俺の心を幸せな気持ちで満たしていく。
「あたしは、鷹見に彼氏になって欲しいの。こんな気持ち、初めてなんだよ」
心臓の鼓動が、止まらない。
南條の声と、それ以外聞こえない。
興奮と、幸せが体の奥から湧き上がってきた。
ホルモンか何かが、過剰に体を駆け巡っている気がする。
嬉しい。南條が俺のことをそんな風に思ってくれていたなんて。
「……鷹見の返事を、聞かせて」
俺の返事。
ああ、ここでYESと答えれば、俺の学生生活は薔薇色が約束されたようなものじゃないか。
学校中、いや、日本中の誰もが羨むような美少女が、俺を好きだと言っている。
付き合うことができるんだ。
学校で、いつも一緒にいられるようになるんだよな。
今日みたいにくだらない話をして、でもそれだけで楽しいんだ。
登下校も待ち合わせをして、一緒に行こう。もちろん、手を繋いで。
テストの前には一緒に勉強しようか。
でも、かえって集中できなくなっちゃうかも知れないな。
もうすぐバレンタインだな。
南條のくれるチョコは手作り? いや、彼女がくれるものだったらどっちだって良いよ。
クラスが変わっても、休み時間には互いに行き来をしよう。
学校が終われば、一緒にいろんなところに遊びに行こう。
大学はどこに行く? もしかしたら遠距離になるのだろうか。
でも、好き合っていたら関係ない。
毎日LINEして、連休は毎回会いに行くんだ。
社会に出ても関係は続いて、最後は、一緒に……。
南條は、勇気を出してくれた。
今度は俺が、勇気を出す番だ。
言え、俺も好きだって。南條もそれを望んでいる。
何も難しいことは無い。それだけで俺たちは幸せになれるんだ。
「南條……俺は……」
言え、好きだって!
「俺は……!」
「──ごめん……!」
空気が重く、冷たくなったのを感じた。
直前まで感じていた甘酸っぱい感覚なんて、一瞬で消え失せた。
──南條の告白を、断った。
何故だ?
俺には勿体無いくらいの、魅力的な女の子じゃないか。
ビビったのか?
この後に及んで……怖気ついたのか?
……違う。自分に嘘は付けなかったんだ。
俺が好きな子は、南條じゃないって。
空気だけじゃない。口も重い。
でも、このまま黙っているわけにはいけない。
「……南條、あのな……」
「あーあ」
俯いていた南條は、丸くなった姿勢を伸ばすように背を反らした。
「ダメ元だったけど、やっぱりダメかぁ」
開き直るような南條の声。
重い空気を吹き飛ばすように、その態度は明るい。
「……鷹見、あたし以外に好きな子がいるんでしょ」
「えっ?」
京都でそれは、否定したはずだ。
「……いないって言っただろ」
「わかるよ。だって好きな人のことだもん」
南條の表情は優しい。
そして、俺のことを見透かしているような目をしている。
南條の詮索に俺は……答えられない。
「本当に良いの? あたしと付き合ったら、いろいろしてあげられるのに」
「いろいろって……?」
「いろいろ」
何だよ、いろいろって……。
はっきりしないから、想像しちゃうだろ!
「あ、エロいこと考えてるでしょ」
「か、考えてない!」
「あはは、絶対考えてた」
あれ、振ったのは俺だよな。
なのに、気がつけば主導権を握っているのは南條だった。
「……いろいろ、してあげたかったな」
「……ごめんな」
俺は、南條を振ってしまった。
じゃあ俺達の関係は終わりなのか。
嫌だ。俺はもっと南條と一緒にいたい。
でもそれを望むのは、彼女からすれば残酷なのだろうか。
「……これで気まずくなっちゃうのは嫌だな。これからも仲良くしてよ」
「……いいのか?」
「もちろん。あたしのこと無視したら許さないぞ」
……南條の態度に、救われる。
でも彼女に気を使わせてしまっている。
これでいいのか?
だけど、じゃあどうすれば良いのか、俺にはわからなかった。
「……ほら、暗いのやめ! クリスマスだぞ。楽しそうな顔しよ!」
「……お前、良い女だな」
こいつと付き合えたら、毎日が楽しくて幸せなんだろうな。
「ん? じゃあやっぱり付き合っちゃう?」
「……それは難しいな」
「残念。でも気が変わったら声かけてよ」
正直、今すぐでも前言を撤回したいくらいだ。
「でも、いつまでもフリーだとは思わないでね。ほら、あたしって可愛いから」
「……自分で言うなよ」
「あははー」
でも、実際そうだろうな。
南條と付き合いたい男なんて、掃いて捨てるほどいるに決まっている。
俺は……なんて贅沢な事をしたんだろう。
「……鷹見も、好きな子がいるなら勇気出しなよ。あんたならきっと上手くいくよ」
「………」
南條の言葉は有り難い。でも、俺には……。
「……告白なんて、できないよ」
「……何で?」
「……とても、遠くにいるから」
「………」
時計は19時に近づいた。今から帰ってももう遅刻だ。
急がなくてはならない。
「……今日は……ありがとう」
「……こっちこそ。また学校で仲良くしようね」
「……ああ」
ある意味、夢のような時間だった。
でも、それももう終わりだ。
帰ろう……あいつらの待っている家へ。
美咲も帰路に着く。
今夜は母も日勤。そして弟と妹が、家族が待っている。
……でも本音を言えば、このまま蓮と一緒に過ごしたかった。
──告白なんて、できないよ。とても遠くにいるから。
(あんたが好きな人は、どこにいるの?)
あんたは、実らない恋をしているの?
だったら……
「あんたが誰かのものにならないなら……あたしだって……諦め切れないじゃん……」




