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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
幕間
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66/75

66話 対立


「はぁ〜い!Societyのみなさんはじめましてっ!」

ルミの突き抜けるような声が稽古場を満たすと、Societyメンバーは淡々と会釈を返した。

「あにまるzooのメイドうさぎっ!ルミですっ!」

テレビや広告でよく見る満面の笑み。

それでもSocietyの三人は「よろしくお願いします…」など控えめに呟く。


「えっとぉ…豚座さん、猫谷さん、山羊足さん!間違いないですか!?」

ルミが手のひらで一人一人を指すと、三人はそれぞれ静かに肯定した。

「私のことは、気軽にルミちゃんって呼んでくださいねっ」

ルミが自らを指差し、愛嬌いっぱいに首を傾けると高雅が口を開いた。

「いえ。指導していただく立場でそのようには…」

「そうっすね…」

「はい…」

高雅の意見に二人が同調すると、ルミは眉を八の字に下げる。


「でも…Curtain Riseでは私はルミ。これが正式名称ですよ?」

いまいち納得いかない様子の三人に、ルミは苦々しく笑った。

「敬称などはお任せしますが…お名前のカタカナ表記が芸名。本名に一番近い役名を演じることにこだわりがあります。私はCurtain Riseの一員として皆さんと接したいので…」

「じゃあ…先生ですかね?」

「ルミ先生〜?」

「いやしかし…」 

三人が言い淀むと、ルミは姿勢を正し真っ直ぐと三人を見つめた。


「うーん、難しいですねぇ」

蛍光灯の青白い光に照らされたルミの顔は、口角こそ上がっているが独特の圧があった。

「まあ!少しずつわかってもらえればいいです!よろしくお願いします!」

問題は未解決のまま、三人はルミの気迫に押されて静かに頷いた。


「さてさて?みなさんは演技の経験はないと聞いてますよっ!」

「ないです〜」

「はい」

「そすね」

ちらほらと呟かれる返事に、ルミは僅かに顔を曇らせると「んー」と苦しそうに唸りを上げた。

「心配だなぁ…」

「心配ですか?」

豹一があっけらかんと呟くと、ルミは緩く微笑む。


「私は…そんなにですね、教えようって教えられるタイプじゃないです!」

「…えっと?」

「だから、みなさんが学ぼうって思ってくれないと、たぶん…意味がなくなっちゃう…」

高雅はどこか引っかかるようで首を傾げた。

「我々が礼儀を欠いていましたか」

「ああ、ううん!そこはね、全然です!」

ルミは再び唸りながら、三人の周りをゆっくりと歩いた。

そんなルミを視線で追いつつも、三人は彼女の言葉を静かに待っている。


「私達の舞台上に、プロンプターはいない。だから…うん、頑張りましょう〜!」

ルミは微動だにしない三人をゆっくりと見回すと、パンッと手を叩いた。


「ところでみなさん!自己紹介はお済みですか??」

「自己紹介?」

「終わってますよ〜軽くですけど〜」

陽登の間延びした返事に、ルミは大きく首を振った。

「それ!自己紹介じゃないです!」

ルミはぴょんと一歩後ろへ飛ぶと、むっと口を尖らせる。

「みなさんをまだ舞台には立たせられない!自己開示と他者理解!それから始めましょう!」

「…なんか就活みたいっすね」

豹一が呟くと、高雅は指先を口元に添えた。

「ジョハリの窓ですか」

「なんですか〜?それ」

「開放、秘密、盲目、未知…四つの窓に自らの特性を当てはめていく、心理学モデルの一つです。自己と他者の認識の差を見ることで自己理解が深まると言われています。」

「なんですか…?それ」

ぽかんと口を開く豹一と陽登を目の前に、高雅は困ったように口を結ぶ。


「そんな難しく考えないでいいですよ!」

ルミはぺちゃっとその場に座り込むと、促すように手のひらを押し下げるジャスチャーをした。

「は〜い」

「俺、あんま考えんの得意じゃないっすよ」

陽登と豹一は躊躇いもなくその場に腰を下ろした。

しかし、高雅は気まずそうにルミと床を交互に見つめている。


「豚座さん〜こっちくる〜?」

陽登が軽く手招きすると、高雅は目を細め顔を伏せた。

「ご令息が地べたなんて座れねぇっすよね!」

豹一がへらへらと笑う横で、ルミは静かに耳に髪をかけた。

「でも、こういうものですよ」

穏やかなトーンを保ったままの彼女の声に、高雅はその場にぺたんと座り込むと静かに腰を折る。

「すみません…」

いよいよ頭を抱えたルミは、キッと三人を睨みつけた。


「あ〜!もう!お客さま意識はやめてください!みんなCurtain Riseの一員なんですから!」

「…申し訳ございません、具体的にはどのようにしたら?」

「だから!うう〜!!」

ルミはたまらない様子で両手を回し、身を上下に揺らした。

疑問符を浮かべる高雅の横で、豹一は縄跳びをしているようだと考えていた。

「と!とにかく自己紹介から始めますね!皆さんの考え方を知るために…質問をします!」

「わかりました〜」

やけにのんびりとした陽登の返事に、ルミはガクッと肩を落とした。


「……もう、始めますね…」

一段声のトーンを落とすと、ルミはどこを見るでもなく語り出した。

「SocietyはToy Boxとは対立関係にあります。わかっていますよね?」

三人は軽く頷く。

「じゃあ、なんで対立してるんですか?」

「え?そりゃ向こうは童心とか夢とかそういうキラキラしたやつで…」

豹一が言い淀むと陽登は身を乗り出した。

「Societyは現実とか…そもそもが違いますよね?裏と表みたいな〜?」

ルミはそれらにわざとらしく頷く。


「でも、裏表なら別に対立ではないですよね?」

「……これが自己紹介なのですか?」

高雅が問いかけるとルミはふぅと息を吐いた。


「じゃあ、なんでSocietyは Toy Box…おもちゃの国を半壊させたんだろうね?」

「…??それはシナリオ上…」

豹一が呟くとルミはグッと拳を握り込む。

「それじゃあダメって言ってるの。物語を与えられるんじゃない、それを作っていくんです。」

「…あ〜…そういうこと…」

陽登は姿勢を崩し、床に手をついた。


「それなら俺、わかりますよ〜」

「え?マジすか?」

「うん、だって〜俺夢とかないし、現実を大事にしようとしたら…邪魔だし」

「邪魔、ですか?」

高雅が首を傾げると、陽登は「んー」と少し間を置いた。


「夢を追う人を別にどうも思わないけど、俺にはそういう生き方無理だし。社会で生きてくなら無垢すぎる人って怖いっていうか〜?そういうのってなくなってくと思ってるから〜」

「…確かに。そういうことでしたらわかります。童心なんてものは成長と共に具体的な目的や思考に置き換わっていくものです」

ルミは満足げに何度も首を振り、その横で豹一は眉を顰める。


「理想を掲げるのなら、それに応じた計画。目標を立てて現実的に組み立てるものです、そうでなければただの絵空事にしかなり得ません。」

「や、でも…でもっすよ?そういうのもこうしたいな〜とかそういう願望から始まりますよね?だから夢自体は持ってても良くないすか?」

「発端はそうでも、見切り発車で進めることは無責任だと考えます」

「っは〜そっすねぇ…」

豹一は腕を組み、しばらく自分の膝を眺めていた。


「でも、邪魔とかそんなんで「滅ぼそう」まで行ったんすね?」

「そもそも相容れないってことかな〜」

「それならそれで、無視で終わりじゃないすか?」

床に並んだ三人はそれを最後に黙り込み、穏やかな呼吸音だけが響く。


「滅ぼそうと思ったわけじゃないかもしれないよ?」

ルミはふふっと口元を手で覆い、少女のように笑った。


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