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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
第二幕
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56/75

56話 報告



忙しく鳴り響く着信音に、清水は疲労感混じりの笑みを浮かべる。

割り込むように猪介が受話器の上に手をかざすと、清水はそれを遮り受話器を取った。


「はい、お電話ありがとうございます。Curtain Rise清水がお受けいたします」

Toy Boxに関する問い合わせのほとんどは、ネット上で受け付けている。

しかし、海外クライアントや中小企業からの問い合わせは未だに事務所へ直接流れていた。

以前までなら猪介もこれらの対応をしていたが、Toy Boxの人気と比例してその業務からは離れるように言い付けられている。


「谷口〜もう一人マネージャーつけないとなんねぇんじゃね?」

「そうですか?」

山本の脱力気味な問いかけに、猪介は気のない言葉を返した。

「…つーか、Societyのマネージャーが必要っすよね?」

「あ〜…でもまだメンバーも集まってねぇし」

「先輩はノルマどうすか?俺は…あと一人なんすけど」

「ノルマ?何が?」

「Societyのメンバー…」

「はあ!?」

驚愕の声を響かせると、山本は気まずそうに肩をすくめる。


「いや…!お前、あれまだ正式な業務指示じゃねぇだろ」

「…結局、いつかは集めるんすよね?」

「そー…だけど…ま、お前らしいわ!」

「…まずいっすか?」

「大丈夫じゃね?良さげなのいれば連れてこいみたいな感じだったし」

「……」

猪介はスケジュール帳を開き、先日青年から受け取った名刺を取り出した。


「明日あたりに詳細聞きに来るって話してるんすよね」

「んー?候補?」

山本は何気なしに猪介の手元を覗き込み、名刺を見つけるとぴたりと硬直した。


「豚座…?」

「珍しい名字ですよね、ローマ字表記なけりゃ読めねぇっすわ」

猪介が、背もたれに身を預け呟くと、山本は前のめり気味にデスクへ貼り付いた。

大袈裟にキーボードを叩く音が響くと、山本は睨みつけるような顔で猪介を見つめる。

「お前、この人スカウトした?」

猪介は山本が指す画面を覗き込む、ニュース記事の一部らしい。

画面いっぱいに表示された写真の中に、先日声をかけた青年がいた。

堅苦しいスーツに身を包みホテルのロビーらしき場所で、多くの年配者に囲まれている。


「…そすね、有名人すか?」

「有名もなにも…豚座って聞いたことねぇの?現代の財閥とか言われてる」

「なんすかそれ?」

「………つか、来るって言った……?明日……?」

「はい、ユニットコンセプトとか契約内容の説明で…14時予定です。ずらしたほうがいいっすか?」

「谷口、悪いこと言わないから社長に報告しろ。できれば蒼凛舎の方にも」

「え?何を…」

「豚座のご令息が来ることだよ!!なんか失礼でもあったらうちなんて一吹きだぞ!?!」

山本の怒号が響くと、猪介は困ったように眉を下げつつ静かに頷いた。


「承知しました、とりあえず町田に言います」

「あと、もう一人捕まえてることも報告しとけよ!」

「…はい」

「お前ほんと…有能なわりに危なっかしいんだよな…」

「…そすか?」

猪介は山本を一瞥もせずに固定電話へ手をかけた。

内線番号を打ち込み、受話器を持ち上げる。


「お疲れ様です、谷口です。社長、明日候補者が来るんですけど…はい?Societyの」

「もっと丁寧に説明しろよ」

「はい。二人集めてて…もう一人も、はい…当てはあるんすけど」

「いや…お前…」

山本の茶々入れを横目であしらい、猪介は静かに続ける。

「いやなんか…豚座高雅って方が明日説明聞きに来るんですけど、あ、ご存知ですか?はい。高雅さんっすね」

町田の狼狽ぶりは山本にも容易に想像がついた、聞き耳を立てなくても慌てふためく声が漏れていたからだ。


「はい…はい、14時です。あぁそうですか?わかりました」

猪介はどこか不服そうに返答すると、静かに受話器を置いた。

「…なんだって?」

「…とりあえず行ってきます」

「だろうな、しっかり怒られてこい」

山本の含み笑いに会釈すると、猪介は足早に事務室を後にした。



静かな廊下には、革靴の底が鳴らす小気味良い音が冷たく響く。


社長室のドアをノックすると中から町田が呻き声で返答した。


「入ります」

「ああ、谷口くん……やってくれたねぇ」

「申し訳ございません」

猪介が一拍も置かずに頭を下げると、町田は立ち上がった。

「うん、でも、君のそういう恐れ知らずなところって僕は好きだな〜」

「…そすか」

「そもそも真面目にスカウトし始めてるの君だけじゃない?」

「……みたいっすね」

猪介が気まずそうに視線を落とすと、町田はゆっくりと円を描くように室内を歩き始めた。


「で、なんで豚座のご令息に声をかけたの?確かに美人だけど…アイドルって感じじゃないでしょ?」

猪介は彼を目で追うことはせず、視線を社長席に固定したまま聞いていた。

「Societyってそうなんじゃないすか?」

曇りなき返答を聞いた町田は満足そうに笑い声を上げる。

「そうだね!その通りだ、じゃあ彼のなにがSocietyに向いていると??」

「……あの人、Toy Boxが嫌いなんですよ」

「……へぇ?」

町田の声は背後で止まった。


「嫌いっていうより、受け入れられない。考察した上で自分には合わないと……まぁ城の転身が嫌なだけでしょうけど」

「そんなに仲良くなったんだ?」

「うちの会議でも度々上がるアンチブログ。あれを書いてるのがあの人です。」

「…………」

猪介がぼんやりと蛍光灯を眺めていると、町田の白髪頭が視線に割り込んできた。

「なかなか、面白い試みじゃないか。僕は好きだよ。」

町田はただでさえ曲がっているネクタイを緩めると、ゆっくりと背を伸ばす。


「でも、それなら…Societyの軸は彼になるだろうね」

「そっすね」

「それ相応のメンバーを揃えないといけない。彼の機嫌を損ねないような…ね?」

「はい」

「……恐れ知らずはいいことさ、若いうちはね。さて…もう目星がついてる他のメンバーのことも聞かせてもらおうかな?」

猪介は小さくため息を吐くと、ジャケットの襟を正した。


「機嫌がどうなるかはわからないっすけど、納得はすると思います」



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