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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
第二幕
55/55

55話 高雅の話



壁一面を覆うスクリーンには、先日放送されたバラエティ番組が映し出されていた。


「本日のゲストの皆さんです〜!」

売り出し中の読者モデル、若手お笑い芸人、若年層受けのいいタレントが画面に映し出される。

その中でToy Boxの面々は雛壇の前列に腰掛け、アイドルらしく愛嬌を振りまいている。

Curtain RiseのこだわりなのかToy Boxというユニット名ではなく、個々の名前とCurtain Rise所属とだけテロップで説明された。


番組は趣旨通り、話題の食べ物や音楽などを取り上げタレントたちはそれに対して各々の反応を示す。

「羊太郎くんはこういうの好きそうだよね?」

「だぁいすき!!実は配信してたときご紹介させてもらったことがあって〜!」

Toy Boxのバラエティでの立ち回りは大体固定化されている。

司会は返答の得やすい羊太郎に振り、良磨がそれに反応する。


そして、酉脇城は緩やかに微笑み…ただそこに居る。


余裕を孕んだ笑みはなんとも言えぬ存在感を放つ。

酉脇城はただ居るだけで価値がある。

………これが都心のビルボード広告であれば…


彼が一言も発さないまま、番組は次のコーナーへ移った。

司会の誘導で運び込まれたパネルには、近頃SNSで話題になった単語がいくつか並んでいる。


「じゃ〜今日は〜」

司会はわざとらしく指示棒を左右させ、散々溜めた後『縦社会』を指した。


「やたらバズってたやつ!」

女性タレントが声を上げると司会は微笑み手元の資料を読み上げる。


「一般の方の投稿で盛り上がった話題みたいですね、元の投稿はこちら」

背後のモニターにSNSの投稿が映し出されると、タレント陣は頷いた。

「この縦社会への不満や戸惑いが議論を呼んだようですね〜鴨志田さんどう思う?」


話を振られた若手芸人は前のめり気味に返答した。

「いやぁ、他人事じゃないですね!」

「やっぱり芸人さんは厳しい?」

「厳しいですよ!今日も楽屋回りましたし…面識なくても失礼あったらいけないんで、わざわざ芸歴調べたり…」


彼の発言に他のタレント陣が各々反応を見せる中、羊太郎の放った「そうなんだぁ〜…」の一言がカメラに抜かれた。

おそらく、好奇心と嫌悪感の入り混じった苦笑いが若者らしさの象徴とされたのだろう。


「いや引いてるし!!」

「引いてない!引いてないです!ちょっとびっくりっていうか〜」

「良磨くんはどう思う?」

「まぁ、体育会系?部活とかは似たようなもんですからね〜」

「あ〜そうだよね、僕も野球部だったからさぁ!」

良磨の発言に司会は学生時代の思い出を語る。

今ではコンプライアンスで規制されかねないエピソードの数々にタレントたちはリアクションを示す。


話を終えると、司会は若手芸人に話を戻した。

「やっぱり最近は多少無くなりつつあるのかな?」

「どうでしょうねぇ〜業界によりますかね」

「まだまだ芸人さんは残っていきそうだね、城くんどう思う?」

急に話題を振られた酉脇城は柔らかい笑みを浮かべたまま、独特の間を挟んだ。


「……でも、鴨志田さん…僕のところには来てくれなかったんですよ」

あっけらかんと言い放つと、場が静まり返る。


すると、司会が破裂したように笑い出した。

何故か困惑の表情を浮かべる酉脇城を映した画面に『※芸歴20年』のテロップが映し出される。


遅れて理解した芸人はわざとらしくひな壇から崩れ落ち、酉脇城の前で「すみませんでしたぁあ!」と膝をついた。


…そう、酉脇城は産まれ出て僅か六ヶ月で蒼凛舎に入所している。

おそらくこの中の誰よりもキャリアを積んでいる。


しかし…酉脇城にあるのは、ただの年数の積み重ねではない。

彼がランウェイで着た服は、三日以内に市場から姿を消す。

たった一枚の広告で無名の商品を定番商品に押し上げる。

それだけでない、最年少でパリコレモデルに選出され、その後も毎年選出された。

十五の時には企業とのアンバサダー契約数が世界一となり……


……それでも、そんな彼の功績も…今はこんな平場でシュールな笑い話として踏み荒らされている。



——やはり、こんなことは間違っている。



「父母のスケジュールを確認してください」

私の呼びかけに家人は短く返答し、タブレットを操作した。

「現在空きのある方で結構です、着信を入れてください」

「…一紗様に架電いたします、ご用件は?」

「直接話します、渡してください」

「承知いたしました」

家人からスマートフォンを受け取り、耳に押し当てる。

数秒の電子音の後、母の声が聞こえた。


「はい」

「母様、突然すみません。今お時間よろしいですか?」

「…どうかしましたか?」

「ご報告とご相談が」

「何ですか?」

「アイドルになります」

母からの応答はなく、静かな呼吸音が数度繰り返される。


「…アイドルになります。もちろん大学を出た後にするつもりですが」

「…はい?」

「つきましては家業を継ぐのは少し先になりそうです、元より学芸員になる予定でしたので…あまり変わりありませんね」

「……それが報告?じゃあ…相談というのは?」

「アイドルになるためのレッスンを受けます。以前取引のあったシナダレコードの伝手を頼ろうかと考えているのですが…よろしいでしょうか?」


沈黙の間、母は短く息を吐く。

少しの間耳障りな雑音が響いていた。


「……………高雅さん」

「はい」

「今夜は久しぶりに親子三人で夕食を摂りましょう。いつものリストランテで」

「わかりました」

「時間は家人に申しつけますから…また後で」

「はい、ありがとうございます」


通話を終え、家人にスマートフォンを手渡す。

「父母と約束ができました。今夜は夕飯の準備は要りません。昨年五月の会食の際に着たスーツを出して、風を通して置いてください」

「かしこまりました」

「それと……直前まで自室へ篭りますので、時間になったら声をかけてください。それまでは一人にしてください」

「はい、承知いたしました」


宣言通り自室へ戻り、デスクトップPCの電源を立ち上げる。


…もちろん、あんな電話一つで納得させようとは考えていない。

私が…豚座家の嫡子である私がアイドルにならなくてはならない理由を説明する必要がある。


全てはファッション界の至宝酉脇城を正しく、あるべき場所に戻すため。

芸能においては全くの素人である私がアイドルとして彼に勝つこと。それこそが近道であると——



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