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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
第二幕
51/55

51話 発見



Toy Boxの人気に火がついて以来、谷口猪介(やぐちいすけ)は居場所を失っていた。

楽屋ではメンバーをスタイリストたちが取り囲み、ステージ付近では設営スタッフや演出家が走り回っている。


世間に名前が知られた今でも、Toy Boxは幼児向けの公演を行っている。

これは彼ら本来の観客を意識した演技を生かすためでもあり、本物の童心に触れるためでもある。


「武者修行は続いている。」


これは平井が断言していたことだ。


「中バミに蓄光貼って!!」

「そこ吊るよー!!」

「音合わせまーす!!」


猪介には未だ呪文のように聞こえる言葉達が飛び交い、人が入れ替わり立ち替わり出入りする。


以前の彼ならこの時間は営業のための電話をかけ、監督と最終打ち合わせをしていた。

しかし、今のToy Boxは営業電話などかけるまでもなく仕事が舞い込み、彼ら専属のチームが組まれ演出等もチームへ一任されている。


猪介の仕事はスケジュール管理とメンバーとのコミュニケーション、それをこなせば本番直前や本番中は手が空いてしまうのだ。


忙しく動き回るチームを茫然と眺めながら、猪介は次の予定を確認した。

今日だけで五度目、もう暗記した記録をずっと眺めている。


「はぁ…」


準備の邪魔にならないよう、客席の隅へ移動する。

視界の端で淡色のつなぎを着た清掃員達が集まっているのが見えた。


野外ステージは清掃が本番直前まで入ってることが多い。

これは主には施設側の方針だが、Curtain Riseからも可能な限りは実施するようにお願いしている。


猪介は何気なくそちらへ目をやった。

各々掃除用具を手にした年配女性達、その中に一人思わず興味をそそられる青年が居た。


少し癖かかった髪に大きく丸い目が人懐っこい犬を思わせる、二十歳過ぎくらいであろう青年。

年配女性の中に一人若者、それだけではない。

彼の容姿は人の目を惹きつけるものがあった。

彼は優しげな笑みを浮かべつつも何かを忙しく指示し、それに合わせて女性達は動き出す。

箒や布巾などを手に、比較的身軽な女性達に対し、彼は重たそうな台車を押し、周囲から声がかかれば客席中を駆けつけて女性達のサポートに徹している。


『確かな社会経験があり、アイドルを職業として受け止められる人。』


先日の会議で打ち出された新規ユニット『Society』その条件として平井が掲げた表向きの文言。

それが、猪介の脳裏を微かに掠めた。


「はるくん!こっち終わり〜」

「は〜い、そろそろお客さん入るんで片しましょ〜」


青年はやけに間延びした口調で返答したが、体は忙しく動き続ける。

彼が言った通りに、ちらほらと客入れが始まると、彼らは波が引くように静かに、そして一斉に通路側へはけた。


青年はスタッフ通路の扉を押さえ、他清掃員に労いの言葉をかけている。

観客が自らの席を探し、ぞろぞろと集い始めると彼はそちらへも笑顔を投げかけ、それでも自らの撤収準備も忘れない。


(顔が良くて、社会人経験がある…)

会議で平井が掲げたスカウト目標は『一社員、三人』


この機を逃す手はないだろう。


猪介が青年へ近寄ると、彼も猪介に気がつき不思議そうに首を傾げた。


「すみません、私こういうものです」

猪介が一切の迷いなく名刺を差し出すと、青年はきょとんとその名刺を覗き込んだ。

「ああ、Curtain Riseの…もう1分もいただければ撤収できますよ〜閉演後もアナウンス後すぐに清掃に入ります〜」

間延びした話し方はそのままだが、どこか機械的…猪介は、準備していたようだとすら感じていた。


「いえ、あなた個人にお話をさせていただきたく。ご就業後などにお時間いただけますか?」

「ああ〜」

青年の人当たりの良い笑顔はそのままだった、しかし、声色が一気に冷える。

彼は猪介が差し出した名刺を受け取ると、ちょうど通りかかった女性清掃員の半開きになったゴミ袋を流れるように受け取った。


「すみません。興味ないんです〜」

にこにこと笑顔を向けながら、淡々とゴミ袋の口を縛る。

そのゴミ袋の中には先ほど猪介から受け取った名刺がシワ一つない状態で収まっていた。


「じゃあ、また公演後に。よろしくお願いします〜」

間延びした語尾と、好意的な笑みを残し、彼はスタッフ通路の扉の中へと消えた。


客席はもう半分以上が埋まっていた。


猪介の脳内では、先日の会議後平井が独り言のように呟いた真のSocietyの条件が反芻していた。


『アイドルを職業として受け止められる人…というよりは、アイドルを仕事にしようなんて一度も思ったことがない人』


平井がこれをどこか申し訳なさそうにぶつぶつと呟いたそれが、猪介の中で繰り返し繰り返し再生される。


(……あいつ以外…いねぇよな…)


そう思い立った瞬間、施設管理者へ電話を入れていた。


施設清掃員の退勤時間、退勤通路、そしてあの青年の詳細を聞き出すために。


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