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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
第一幕
42/47

42話 思案



猪介はToy Boxメンバーを目の前にし、言うか言わざるかを繰り返し思案していた。


「な、なんすか?」

「……いえ。」

「猪介って本当秘密主義だよねー」

羊太郎が口を尖らせると、城は肩をすくめて笑った。

「お仕事だから…」


空気の停滞を感じた猪介は、視線を落とし静かに話始めた。

「…あまり…おすすめはできないのですが」

「え、なんかやばい話っすか?」

「…振付師から、羊太郎さんの意見を取り入れたいと…言われていまして。」

猪介が言い切らないうちに、羊太郎は立ち上がる。

「やる!!絶対やるー!!」


城は「いいね」と柔らかく綻ぶ。

しかし猪介は眉を顰め、目を逸らしていた。

「おすすめはできません。四曲ありますし、これから歌撮りやイメージ写真の撮影なども…やることは山ほど。羊太郎さんは学生ですし」

「やだ!やる!!勉強なんて余裕だし!振付参加できれば振り入れの時間は省けるでしょ!」

羊太郎が詰め寄ると、猪介はぎゅっと目を閉じ苦しげに唸った。


「いや……その……」

「なに!!」

「心配なんですよ。余計な負担は減らした方が…」

「余計!?余計じゃないし!負担じゃない!」

グイグイ迫る羊太郎を、良磨が宥めようと優しく引き離す。

猪介は気まずそうに視線を伏せたまま、口元を手で覆っていた。


「羊太郎さんのキャパシティの心配をしているわけでは……」

「じゃあーなに!クオリティ??」

「いえ、そこは疑っていません。」

「じゃあなにー!」

良磨の腕の中でぴょんぴょんと跳ねる羊太郎を、城は困ったように眉を下げて見守っていた。


「確かに心配…かな、羊太郎くんばっかりやること増えちゃう……から」

「でも超楽しそうだよ!?」

「楽しみだけでは許容できません、本当に心配なんです…ご理解ください。」

猪介が苦々しく羊太郎を見つめると、彼はべっと舌を出す。


「まだ『羊太郎さん』なんて呼んでる人に言われても納得しない!僕やるから!!」

「…」

猪介は頭を抑え、しばらく悩んでいた。

そして、心配気に見守る良磨と城に視線を移し、息を吐く。


「…わかりました、しかし…無理はせずに…」

「わぁい!やったー!!」

飛び上がる羊太郎に反して、猪介は頻繁に腕を組み替え居心地が悪そうだ。

良磨はそんな二人を見比べ、羊太郎をそっと撫でる。

「まぁ、トレーナーもすげぇ褒めてましたもんね。羊太郎勉強もできるし…大丈夫なんじゃないすか?」

「そー!僕そういうとこ抜かりないよ?」

「……そう、ですね」

猪介は煮え切らない態度だが、喜ぶ羊太郎を前に言葉を飲み込んだ。


気まずさを引きずったまま、猪介はパソコンにUSBを差し込む。

「とりあえず…曲を聴いてもらいますね。」

三人は静かに注目し、歌詞カードを眺めた。

パソコンのスピーカーから楽曲が再生される。

シンセサイザーやパーカッションの軽やかな音にギターと金管楽器が合わさり、楽しげな曲調だ。


「わ、すごい。」

「リズムいい〜!ロックとかワックも合いそうだし…楽しみ〜!」

「なんか、イメージ通りっすね」

仮歌を聴きながら、城は顔を歪め両手を握り胸の前に添えた。

「こ、こんな上手に歌えるかな…」

「こういうデモの歌声ってなんか…ド正解って感じっすよね。カラオケとか」

「カラオケ…行ったことないや…」

不安の色が消えない城の顔を、羊太郎はぐっと覗き込む。

「この曲もいつか入るんだから!」

「えっ」

「目標〜!楽しみ〜!!」


一人興奮気味な羊太郎に、猪介は頭を抱えながらも淡々と楽曲の説明を始めた。


「これはグループ全体のイメージということで、城さんの爽やかさ、良磨さんの安定感、羊太郎さんの陽気な印象が強く組み込まれています。」

「俺、爽やか…?」

「歌詞も仮組み扱いですので、レコーディングまでに変更案をいただければプロデューサーに相談します。」

「そんなとこまでいじれるんすね…」

良磨が困惑すると、羊太郎はにこにこと両肘をついた。


「それだけ世界観重視ってことだよね!ルミちゃんもそうだもんね〜!」

「…確かに、キズキが歌わなさそうな歌詞は変えないとだよね…うん…」

「これらの楽曲は全て後ほど送信いたしますので、ご検討ください。」

猪介は一礼し、スケジュール帳を開く。

三人は少々の雑談も交えながら楽曲に聴き入っていた。


「……」

振付制作期間とレコーディング期間は確実に被っている。

さらにToy Boxメンバーの演技指導は続いており、そこに加わる写真や動画の撮影。

どう考えても過密だ。


羊太郎の振付への参加に対し、猪介は平井と育美に相談を持ちかけていた。

しかし二人とも「本人の意思に任せろ」と返答していた。


(…つってもな、どう考えても危ねぇだろこれは…)


乱雑にスケジュール帳を閉じ、羊太郎を見つめる。

二曲めの再生が始まると、一音一音に笑みを浮かべ、今すぐにでも踊り出しそうなほど身を跳ねさせている。


「これは城さん…キズキイメージの曲ですね。基本的には柔らかく、しかし芯の強さが立つように設計されています。」


短く説明を終えると、再び三人はざわざわと話し合う。

これがToy Box…Curtain Riseのやり方なのは猪介にもわかっているが、未だに受け入れきれていない。


(本人がいくら大丈夫つっても、それをこっちがそうですかって流すのはちげぇよな。)


猪介は無意識に乱していた前髪を静かに撫で付ける。

設計はプロデューサーの仕事、運用は企画担当、マネージャーは演者のスケジュール管理。

これは育美に何度も言い聞かされていることだ、しかしそれだけではない。


育美は元あにまるzooでルミと肩を並べた仲間。

あの二人はマネージャーとタレント以上の関係値がある。

それを自分がどこまで引き継げば良いのか、猪介はそれを決めかねている。


(でも…俺は……)


前髪を整えると、ネクタイを締め直す。

三人は楽しげに楽曲について語り合い、笑っている。


三曲目の再生が始まる。

シンセサイザーなどのポップさを抑え、金管楽器やベースが前に出た楽曲だ。

「リョウマイメージですね…安定感と騎士の精悍さを際立てたものです。」

「ピッタリ!」

「統一感はあるのにしっかり個性があって…作曲家さんってすごいなぁ…」


感心する三人を目の前に、猪介は冷静にコンセプトの共有を行う。

これは彼に今できる最善であり、自己逃避であった。



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