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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
第一幕
40/46

40話 再演



月が変わり、約束通り私は公演を観に来ていた。

会場は相変わらずの悪条件だが、それなりに評判が良かったのだろう…前より客入りがいい。


(この日のために…今までの公演全ての情報を遮断してきた…)


谷口氏からは公演映像が送られてきたが、あえて観ずにいることを伝えると「USBにためておきます。」と、なんとも彼らしい返答をもらった。


普通、再演を繰り返すと役者そのものの癖が見え始めるはず…

「……町田氏に来てもらえば良かった…」


苦々しく視線を落とすと、ふと視界に革靴の先が差し込まれた。


「先輩」

「谷口氏、本番前ですよ?」

「わかってますよ。これがプレデビュー最後の公演になるらしいので俺はここで観ます。」

「え?」

理解が追いつかずフリーズしていると、谷口氏はスマートフォンを差し出した。


グループチャットでToy Boxメンバーの『最後にする』『デビューするぞー!』などなど意気込みが語られていた。


「昨日からずっとこんなんっすよ、裏いるとうるせぇんで…」

「そ、そうですか…助かります」

「はあ?」

「いや、一人だと自分がどうなるかわからないので…」

「…マジそれどうにかならないんすか?直ったら練習とか普通に観に来られますよね??」

「それは無理な相談ですね」

不服そうに口元を歪める谷口氏から目を逸らし、ステージを眺める。


谷口氏は隣に腰を下ろすと、いよいよ開演の時間が迫る。


すると公演前のアナウンスを省略し、BGMが流れ始めた。

「あれ?」

困惑していると、ヨウタロウが登場し深々とお辞儀をする。


「こんにちはー!」

元気な声かけに前列の子供が返答し、ヨウタロウが笑顔で手を振った。

「公演が始まる前に!守ってもらいたいお約束が——」


「…前説?って言うんですか?あいつらがやりたいって言い出したんで…角田先輩に許可は取りました。」

「…いいアプローチですね、観客との距離感は保ちつつ親しみは増しますから」

「そすか」

彼はさして興味がないらしく、ぼんやりと眺めている。


「緊張しませんか?担当ユニットの本番って」

「は?俺がすか?」

淡々とした物言いから察するに、考えたことすらないようだ。


「…では!開演まで今しばらくお待ちくださいっ!」

ヨウタロウの前説が終わると、観客は拍手で見送った。


「この会場…客層がいいですよね。」

「そすね。」

「まだターゲット層決めてないですけど、ルミたそより幼児層を狙ってもいいのかも…」

「……そうですか?」

谷口氏は何が引っかかったのか眉を顰める。

「何か…?」


「うわ!!ここもかよ!!」

私の問いをかき消すように、リョウマの第一声が響く。


(前回より語調が強い…)


「え〜!せっかくかわいかったのに!!」

後に続いたヨウタロウが腰に手を当て、頬を膨らませた。


さらにキズキが続き、会場を一望し顔を歪める。

「きたないー…」


テンション感が大きく変わっている…

再演を繰り返すと役者の癖が出るものだが、それにしてもなんとなく…反応が鈍い…?


キズキは顔を歪めたまま観客に向き合った。


「なんか、また汚くされちゃった…ごめんね」

ガクッと肩を落とした彼の背中を、ヨウタロウとリョウマが摩る。

すると客席から励ましの言葉が飛んだ。


(なるほど…知った顔がいるからこその変化か…?)


皆の声援を受けたキズキは、握った両手を胸の前に引き寄せ深く呼吸した。


「うんっ、またきれいにしよう!ようこそおもちゃの国へ!」

キズキの一声で演者たちは、活気を取り戻す。


オーバー気味なパントマイムで瓦礫を退かし、一つ目のピースを見つけ、パネルを運び入れる。


うん。流れは前回と変わらない…

ただ、役割が変わっている。

前回はキズキがピースを見つけ、パネルを運び出した。

今回はヨウタロウがピースを見つけ、リョウマがパネルを運ぶ。

その間キズキは観客や二人に笑いかけ、パネルやピースの位置をそれとなく指し示すのみだ。


「…ただの置き物になっていませんか」

私の問いに谷口氏は首を捻る。

「さぁ?」


「まぁた探さなきゃなんないの!」

ヨウタロウが地団駄を踏むと、リョウマがまあまあと諭した。

二人の間にキズキが割って入り、私たち観客へ向き合う。


「一緒に見つけてくれる?」

キズキの呼びかけに子供達が集まり、ヨウタロウはやれやれと言った様子で瓦礫を摘み上げた。


「きっと、遊びたいんだよ!」

キズキは拗ねるヨウタロウに声をかける。

すると、彼は口を尖らせた。

「もっとかわいい遊びがいいけどね!」

「仕方ないだろ〜」


遊びたい…?誰が?キズキはなんの話をしている?


私が考え込んでいると、背後のドアが開いた。

数名の人の気配とキャッキャとはしゃぐ声。


「でね〜!」

「あ、まってなんかやってる」

「やば、大丈夫?」

中〜高校生らしき三人組が立っていた。

ウィンドウショッピングに疲れて、ふらっと立ち寄ったのだろう。


彼女たちは恐る恐る端の席に座り、声を抑えつつ雑談を始めた。

「あの時言ったじゃん?あれが…」

「それな!つかだからダメってわかってんのに…」

学校か誰かの愚痴らしく、学生特有の賑やかさが嫌に目立っていた。


「まずいですね…」

「何がですか?」

「人の集中力って結構簡単に削がれるんですよ…」

「…大丈夫じゃないっすか?」

谷口氏のそっけない物言いに思わず表情を確認する。

彼はただ真っ直ぐとステージを見つめていた。

「黙らせるんで。」

「黙らせる…?」


返答がなく、仕方がないのでステージに視線を戻す。

Toy Boxは子供達の指示でピースを集めているが…なんとなく前回とは違う。


なんだ…動線?いや…


「えっ!!?」

突然の大声に目をやると、先ほどの学生の一人がステージを指差していた。


「え、あの人めっちゃかっこよくない?」

「どれ?」

「つか全員かっこよくね?有名な人?」

ヒソヒソと色めき立つのがなんとも若人らしい…


確かにToy Boxの顔面偏差値は高い。

なんせ天下の大モデル酉脇城がいるのだから…


ふと、ある考えが過る。


『黙らせるんで』

それは…前回の公演で酉脇氏が見せた、あの独特の圧のことではないか?

だとすると彼は意図的にあれをコントロールしていることになる…

使い方は調整してほしいが、もしそうならかなり都合がいい。


件のキズキへ目をやると、彼はパネルへピースをはめ込んでいた。

子供に礼を述べ、会場を見回す。

その視線は学生達へ向けられ、彼女らは小さく黄色い声を上げた。


その瞬間、キズキの目がぱっと輝いた。

それに気づいたヨウタロウとリョウマも彼女達を見つめ、驚いたように口を開け三人で目を見合わせる。


キズキはステージのギリギリに立ち、彼女達を見据えた。


「おかえりなさい!!!」


——おかえりなさい……??


後頭部を殴られたような衝撃が走る。

思考が止まり、理解しようという気持ちだけが先行する。

(なんだ?何が起きている?)


「おかえり!」

「まってたよー!」

リョウマは大きく手を振り、ヨウタロウもぴょんぴょんと飛び跳ね歓迎モードだ。

学生達は混乱したが、Toy Boxは再びピースを捜索し始めた。


「……先輩。」

「っ!」

谷口氏に呼ばれ、初めて自分が呼吸を止めていたことに気がつく。

一気に膨らんだ肺が若干の痛みを訴えていた。


「や、やぐちし…これは…」

「なんか、大人?子連れ以外にはああ言おうって決めたんすよね。」

「…な………なぜ…」


「おもちゃの国はおもちゃ箱の中の話だろうって。」

彼の淡々とした言葉が、一文字ずつ自らの中に落ちていくのを感じた。

ユニット名と設定から察することは簡単だろう。

しかし、今の演技は…察しただけじゃない。


「だから…大人にはおかえりを…彼らはおもちゃ箱を手放しているから……」

「はい、恐らく。約束通り、俺は何も伝えてませんよ。」

「……今日の流れ…」


キズキはずっと大きな動きをしていない。

中心に立ち、周囲を観察する、そして流れを操作する。


「…意図的に…作っていますね。」

「王子の体裁整えようってことらしいっす」

なんとも彼ららしい発想だ。


「どうすか、先輩。今日はたぶん、世界観重視に演じてるんすけど…」

「あっ」

私がずっと感じていた違和感はそれだ。


前回のToy Boxはその場の反応を重視して流れを作っていた。

今回は世界観…Toy Boxはどういうものかを重視している。


「……や、谷口氏、データを!今までの公演のデータ!」

私が催促すると、目の前にスッとUSBメモリが差し出される。

「今までの公演と練習中に出た解釈の録音、全部入ってます。」

「さっすが仕事が早い!」

慌てて受け取ると、谷口氏は笑みを浮かべる。


「デビュー…できそうすかね?」


ステージでは何かが起きたらしく歓声が上がっていた。

先ほどの学生達も今は雑談そっちのけでステージに釘付けになっていた。


「はい!」

私の返答は学生達の声に掻き消されたが、谷口氏は満足そうに頷いた。


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