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9/13

葉月 原点 Side 圭

※結市は架空の地名ですが明確にモデルにしている地域があります。対岸で焼きカレー出したので多分すぐわかると思います。

「まもなく新結。新結でございます。お降りの方は車内に忘れ物などございませんよう、ご注意ください……」


 八月十五日。俺の誕生日。


「やっと着いた。リニアができて少しは早くなったかなって思ってたけど」


「……遠いな」


 俺は友希と一緒に結市の――生まれ故郷の駅に降り立った。


「……うん、首都からは……遠いね」


 旅行カバンを背負い直して、改札を抜けた。


 結市は日本の本州の最西端にある地方都市だ。海峡を越えればすぐに九州となる。市内にはふく(ふぐのことをこう呼ぶのだ)を目玉にした水族館がある。


「数十年ぶりか」


「もう、当時の面影はあんまりないかなあ。水族館はまだやってて、ペンギンも増えたみたい」


 駅からバスに乗って水族館に向かった。時間が早いからか、館内の混雑はそれほどでもない。


 前来た時にはなかった展示が増えていて、思った以上に楽しめた。帰りにお土産コーナーでピンクと緑の小さなペンギンのぬいぐるみを買った。


 昼食は対岸にある街で焼きカレーをということで船に乗って海峡を渡る。時間にして十数分。レトロな建物が残る街にはふんわりとカレーの匂いが漂っている。


 焼きカレーは、本当に店によって味も形状も様々。気になった店に適当に入り、焼きカレーを注文した。冷房の効いた店内では、むしろこの熱さがありがたい。


 そもそも焼きカレーとは何か。結市の対岸、門司港地区の名物料理。カレーの上にこんがり焼いたチーズととろとろの半熟卵が乗ったものを焼きカレーと呼ぶ。


 俺は根本的に辛いものが好きなので辛めだが、友希のように辛いものが苦手でもチーズと卵でまろやかになって食べやすいのもまた魅力。


 おしゃれな街並みには喫茶店やハンドメイドの店も多く、友希は生き生きしていた。


 実は対岸にありながら俺たちは結市にいたころに海峡を渡ったことはなかった。


 今日は海峡花火で混み合うので、早めにホテルにチェックインする。ついでにスーパーで食材も買い込んでいるので今日の夜は多分友希の手作りだ。そのために自室でキッチンが使えるホテルを選んだのだから。ホテルの窓は海に向いていて、高層階なので花火もよく見えるだろう。


「お待たせ」


 陽が落ちて、友希の作った夕食が運ばれてくる。


 新鮮な地元海鮮のシーフードパスタだ。皮肉なことだが、日本各地の海にマレモノが出て漁が困難になった結果として、海産物の量と質は劇的に回復した。


 マレモノの海からの発生が確認されていない今、漁業は無事に再開され、各店舗の営業時間も伸びてきている。そして、花火大会も各地で再開されるようになった。


 シーフードパスタを食べ終えたところで、はじまりの花が空に咲く。


「おお」


「始まったね。じゃあ食後のデザートにしようか」


 友希が運んできたのは夜空を閉じ込めたような丸いゼリー。なるほど花火を見ながら食べるにはぴったりだ。


「実はこれ、蛍光するんだよ。青いスイーツって夏に需要が高いけど、できたら着色は天然のものがいいかなあって星楽堂に行った時にミオソティスさんに教えてもらったんだ」


 友希に渡されたブラックライトを当てると、確かに夜空の色が変わった。面白い。


「これは面白いし、喫茶店で出したら映えるって話題になりそうだよな」


「面白いでしょ。青いゼリーに金箔、アラザンの星。味は夏らしくミントソーダだから甘いもの苦手でも食べられるよ。誕生日、おめでとう」


 空の器を片付けて、夜空に咲く色とりどりの花を見る。


 空調の音。花火の音。それ以外は何もしない。電気を消した薄暗い部屋を花がただ様々な色に照らす。無意識に距離が近づいて、最後の花が空に咲いた時――


触れるだけのキスをした。


 花火大会の終わりはいつもなぜか物悲しい。


 今日という日は終わっていくし、夏も少しずつ終わっていく。


「……誕生日だから、思い出というか、記念というか」


「……うん。素敵な思い出は宝物になる。俺にとっても」


 照れたような顔で笑い合って、温かい紅茶を淹れた。


**


 早朝、帰省ラッシュを避けるように電車を乗り継ぎ首都へ向かう。思えばお盆とは死者を迎える祭り。そしてお盆の夜が明ければ、死者は本来あるべき場所へ帰るのだ。


「……全部終わったら今度はもう少しゆっくり里帰りするかな。結市の北の方には綺麗な橋があったりするみたいだし」


「そうだね。それもいい。連泊していろんな焼きカレーの食べ比べするのもいい。隣の市まで足を伸ばして夏みかんスイーツの食べ歩きもいいなあ」


 友希の手をぎゅっと握る。


「必ず、その未来を見せてやるから」


「うん。二年後の今日も、こうして……とな、りに……」


 すやすやと寝息を立て始めた友希にブランケットをかける。首都まではまだ、遠い。


「……言質とったのですよ」「頑張ってください、マスター。とはいえ、今年はまずはしっかり体を休めてください。ライブ活動で大変とは思いますが。帰ったら喉に効くハーブや料理も教えますよ。カモミールママンに聞いておいたので」


「それは楽しみだ」


 旅行先で買った塩バターペンギンクッキーは、どこか懐かしい味がした。

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