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7/11

水無月 空の向こうの夏を待つ Side圭

 雨が降り続いている。それも穏やかで落ち着くような雨ではなく土砂降りだ。


 十分に日光を浴びれていないからかみんともらべもいつもより元気がない。


 おさかなくっきーもこの時期は湿気ってしまいやすいので一度オーブントースターで軽く焼いて、冷めてから与えるようにしてはいるけれど。


「もうそろそろ、止んで欲しいもんだな」


 食べ物も傷みやすくなってしまい、茶葉の保存も気をつけているがいつも以上に神経を使う。その上、肌寒い。


 最近では五月に三十度近くまで上がることもあるから、その反動で余計に寒く感じるのだ。


「じゃあ、今日はラーメンでも作るか。冷蔵庫の使いかけの野菜使ってしまおう」


 鍋にたっぷりお湯を沸かせてインスタントラーメンを投げ入れて、その間に冷蔵庫にあった野菜を適当に醤油で炒めておく。ラーメンが茹で上がったら野菜を乗せてバターも追加し、仕上げに醤油をひと垂らし。辛いのが好きだからちょっと七味も。


「いただきます」


 ラーメンの味はとんこつベース。というのも俺が昔住んでいた結市ではとんこつスープが一般的だったからだ。ずるずるとすすって麺がなくなる頃にはすっかり体が温まっていた。寒い日は汁のある食べ物がいいなと改めて思う。


「ごちそうさま」


 食器を片付けてぼーっとしているとPENGの通知音が鳴った。


 友希からで、「明後日の予報が晴れだから紫陽花でも見に行かない?」というもの。


 「了解」と打って笑顔のスタンプを添え、送信。すぐに感謝のスタンプが送られてきた。


「紫陽花ですか。あじさいぺんぎんに会えるとしあわせになるそうですよ」


「みんとも、いく」


 久しぶりの晴れ予報で嬉しそうな花ぺんぎんたちの頭をそっと撫でた。


**


「晴れた!」


「こすもすのうちゅうぱわーが通じたのです!雨続きで少し弱まって時間がかかったのです……」


「よかったな、晴れて。中庭の植物は?」


「ああ、植物は花ぺんぎんたちが守ってくれたみたいだよ。だから今のところ根腐れしてるようなものはなさそう」


 駅で友希と待ち合わせて、近くの紫陽花園へ。平日の午前中だからかラッシュを過ぎた列車は空いていた。数駅ほど電車に揺られ、目的地に着く。


 この紫陽花園にはカフェが併設されているようで、友希は紫陽花を見た後に寄ろうね!と目を輝かせていた。甘いもの、好きだもんな。


 色とりどりの紫陽花を見ながらゆっくりとふたりで歩く。


「そういえば陽が言ってたけど京都には水無月って和菓子があるんだって」


 なんでも六月三〇日の夏越の祓えに食べる習慣があるらしい。今年は陽に送ってもらう予定があるので楽しみだと友希は笑う。


「圭は?アイドル活動、順調?」


「そうだな。夏休みに大きなイベントに出ることが決まったから、少しずつ体力作りとかボイストレーニングとかやってるとこ。ただ、まだ曲もできてないからノルマこなしたら料理の練習とかしてる」


「えっ」


 友希は目を丸くする。当然だろう。何せ料理の練習を始めてからまだ一週間ぐらいしか経っていない。


「料理、楽しいから圭が料理を始めてくれるのは嬉しいしそれなら初心者向けの本とか今度送るけど……びっくりしたなあ。ずっとらべぺんと紅茶を淹れてたから……」


「とはいえまだ慣れないから、おにぎりとかチャーハンとか目玉焼きとか……昨日の昼はインスタントラーメンだったし、三食自炊とかはまだ……」


 目の前に料理上手がいるので、なんだか恥ずかしい。


「三食自炊とか俺でも無理だよ。コンビニの惣菜をうまく組み合わせて料理したりもするし。作ってて楽しかったらそれが一番。……辛いものはほどほどにして欲しいけどね」


 友希は数歩先に進んでくるっと俺を振り返る。


「そのうち食べさせてね。圭の手料理。オムライスとかがいいなあ」


**


 カフェに入ったところで雨になった。


 落ち着いた店内に静かに響く雨の音は心地よい。


「濡れなくてよかった。俺は紫陽花と虹のゼリーと、アールグレイのホットを」


「じゃあ俺はレモンティーのホットと水無月サンドをひとつ」


 しばらくして香ばしい匂いのサンドウィッチが運ばれてくる。


 照り焼きにしたハンバーグにチーズに水菜、レタスに玉ねぎ。ひとくちかじるとシャキシャキ食感のあとであつあつの肉汁がじゅわっと染み出す。美味しい。


「紫陽花と虹のゼリー、すごく綺麗」


 白いムースの上に水たまりを模した水色のソーダゼリー。その上に紫陽花の花を模した青と紫のゼリーと、虹のチョコレートが乗せてある。友希の表情を見るに、味も美味しかったようだ。


 食べ終わって会計を済ませ、店を出ると――


「わあ」


「大きな虹だな」


 すっかり雨が上がった空には虹がかかっていた。


「そういえば。ネジバナって花があるんですが、花が頂点まで咲いたら梅雨が明けるそうですよ」


「梅雨が明けたらいよいよ夏だね!」


「ああ」


 実際、夏は暑い。エアコンをつけずに済む日などないけれどそれでも夏という言葉には抗いがたいある種の魅力がある。


「今年は海に行けたらいいなあ。あとは花火と……それから圭の誕生日。楽しみだね!」


 今はただ晴れ渡った空の向こう。


 君と過ごす夏を待つ。

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