皐月 黄金週間 Side友希
五月五日こどもの日。
この日に向けて喫茶店ピエトラは柏餅を作る。
ピエトラには洋菓子を売るための別店舗もあって基本的には洋菓子が多いけれど、今日だけは特別。つきたてのお餅にあんこを入れて、かしわの葉っぱで包んでいき、販売用にパック詰めをすると、終わったはずなのにひとつ多いことに気づく。
「あれ?間違いなく数はあってるのに?」
まあいいかと掴んでパック詰めしようとすると、柏餅が、くえと鳴いた。
「え?花ぺんぎん?」
「かしわぺんぎんなのです。この日に柏餅の群れに紛れ込むのです」
かしわぺんぎんはぱたぱたと羽を震わせて、じっと柏餅を見ている。
食べたいのだろうか。見た目が完全に共食いになりそうなんだけど。
試作用の餅に余ったあんこを入れて差し出すと、かしわぺんぎんは美味しそうに食べ始めた。
「害はないし、見かけると縁起が良いのです。花ぺんぎんが集まる場所は人間が集まり、居心地のいい場所なのです。ますたーのお店は宇宙一です」
こすもすは誉めながらも柏餅を食べたそうに見ているので、食紅で桃色にしたかしわもちを差し出した。
ゴールデンウィークだけあって喫茶店ピエトラの方も忙しいと定時連絡が来た。
すっかり立派なスタッフに成長した隼陽、鳥束、ヒメ、桜耶の存在がありがたい。休日ボーナスは弾むことにしよう。
圭はゴールデンウィークのライブで忙しいようだ。配信などでじわじわと人気が拡大中らしい。
「友希。頼んでたやつを受け取りに来たぜ」
昼過ぎに、珍しい来客があった。
「雫、陽」
彼らは普段は京都に住んでいる新婚ほやほやの同性カップル。昨年、身内だけの結婚パーティーの際には料理の腕を振るったものだ。
「オオサンショウウオケーキできてるよ」
このふたりはオオサンショウウオが好きだ。なんでも雫が昔京都の「ことあくありうむ」で見て、一目惚れした結果、芋づる式に陽もはまっていった、らしい。
彼らの暮らすアパートの部屋の写真を見るとオオサンショウウオのぬいぐるみに埋め尽くされている。本当に、幸せそうで何よりだ。
「ありがとう。代金は前払いしたから問題ないな。さっきピエトラの方で昼を食べてきたが、【鶏の目覚め】が美味しかった。俺たちはホテルに戻ってこのケーキを大切にいただこう」
陽はそういうとオオサンショウウオケーキを大事そうに抱えた。
「あ、これは友希と圭にお土産。伏見稲荷の商売繁盛御守り。圭に会うときに渡しといて」
ふたりは足早に去って行く。去って行くふたりの肩にはひまわりぺんぎんともみじぺんぎんが乗っていて、ぺこっと頭を下げた。
「お守りか。ありがたく飾っておこう」
雫はあんまりお守りとか神さまとかは信じなさそうに見えるけれど、陽の影響なのか。それとも泉 神社に居候していたというからその影響なのか。
休憩時間になったのでPENGで圭に雫と陽の事を伝えておく。そしてお守りを渡したいから、店に来れる日を教えて欲しいとも。
圭からの返事は「花ぺんぎんびなが多分みんとになったら行く」とのことだった。
添付されているライブの配信URLを見ると、たくさんのコメントがついている。
頑張ってるんだなあ、と思うと同時に、少し胸の奥がちくり、としたような。
残りの休憩時間でお昼を食べ終えて再び店番。閉店時間まで客足が途切れず、closedのプレートを出して店を閉めた後は肩がバキバキになっていた。とはいえ、これから喫茶店ピエトラの方に戻ってあと数時間の営業が待っている。
「お疲れ様です、店長」
ピエトラに戻ると、隼陽がぺこっと頭を下げる。
「鶏の目覚めが好評みたいだね」
「ええ。驚いていますけど、嬉しいですね。自分のアイデアが形になり、それを誰かが美味しいと言って食べてくれるのは」
【鶏の目覚め】は、俺と隼陽が共同で開発したメニューだ。唐辛子の入ったトマトソース味のパスタにパリパリの鶏皮が香ばしい鶏肉目玉焼きが乗っている。お好みで粉チーズやミントやレモンを加えてどうぞ。
「鳥束や桜耶はフロアに出てます。ヒメは厨房。ヒメと鳥束のデザインしたぺんぎんふわふわぷりんも売れ行き順調ですね」
「ぺんぎんふわふわぷりんは見た目も可愛いくて映えるし、マシュマロや台座のシフォンケーキが本当にふわふわで美味しいんだよね。ぺんぎんを、崩して食べることには……なるけど」
「柏餅もいくつか。こどもの日――端午の節句だからでしょうね。かぶとぺんぎん人形もお迎えありました」
「お疲れ様、隼陽。休憩入って。鳥束は桜耶と厨房とフロア交代。ヒメはレジを。俺は厨房に入るね」
「わかりました」
隼陽は休憩室へ向かっていった。俺はそのまま厨房へ。数時間後、営業は無事に終わった。ゴールデンウィークの客のピークも今日で一旦は落ち着くはずだ。
「みんなお疲れ様。菖蒲を少し持ってきたから袋ごとお風呂に入れて菖蒲湯にして。魔除けと健康を祈る風習。しょうぶぺんぎんの加護付きだよ」
店を閉めて、住居スペースに戻る。
流石に疲れていたらしく、その日はいつもより早く眠ってしまった。
翌朝、PENGの着信音で目が覚める。
添付されている写真にはみんとぺんぎんが映っていた。
「お守り、渡さなきゃな」
手早く着替えて呼び鈴の音を待つ。
――圭に会いたい。
なぜかこの日はいつもより強くそう思ったのだった。




