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弥生 ひな祭りは花ぺんぎん祭り Side友希

「ますたー。その飾りってなんなのです?」


 ニ月はあっという間に過ぎ去り、最終日。俺は三月に備えて店の飾り付けをしていた。


「ああ、これはひな祭りの雛壇だよ」


「ひな、祭り?花ぺんぎんのひなは確かにこの時期孵ることが多いのです」


 こすもすはそう言って窓辺にちらっと目をやる。


 まだ朝の冷え込みも厳しいけれど、陽射しはやはり少しずつ春めいてきている。


 昨日中庭でいくつか花ぺんぎんの種を見つけ、とりあえず踏まれないように土を入れたバスケットに埋めて、水をやった。こすもすぺんぎんによればあと数日で孵るものがいるとのことだ。


「花ぺんぎんのひなって何を食べるんだっけ」


「とりあえずは水だけで大丈夫なのです。孵った直後はまだどの花ぺんぎんかもわかりづらいです。みんな緑のひななのです」


「そっか。じゃあミネラルウォーターを少し買ってこよう」


 会話しながら雛壇にペンギンのお雛様とお内裏様を置き、五人囃子と三人官女のペンギンも置いて飾り付けは完了。羊毛フェルトで作られたぬいぐるみは、ふわっと柔らかい雰囲気だ。


「あとはひな祭りメニューかな」


 ピエトラは基本的に季節イベントを大事にしている。季節限定メニューが人気なのももちろんだけど、花ぺんぎんと過ごしていると季節を意識する場面は自然と多くなる。


「デザートはとりあえず桃を使ったスイーツかな。ひな祭りと結びつけられる花だし、花言葉も天下無敵。魔除けパワーもあって女の子の味方みたいな花だよね」


 そうと決まればとりあえず白桃を買ってきてシロップ漬けを作っておくか。


「あとはパスタ。はまぐりのお吸い物をアレンジして、水菜や菜の花と合わせて和風パスタにしてみようかな。ちょっと桃っぽく桜でんぶを振ってみたり……菱餅みたいにハムとたまごとチーズにほうれん草ペーストを固めて積み重ねるとか……それだと菱形のクラッカーで挟むのも食べやすくていいかも……量は少なめも選べるようにして……」


 頭の中に浮かんできたアイデアをメモしつつ試作に必要な材料をリストアップしていく。ひと通り思いついたところで、こすもすぺんぎんにぺちぺちと肩を叩かれた。


「ますたー。一羽、孵りそうなのです」


 窓辺に置いたバスケットから、ぱき、ぱきと何かが割れるような音がする。


 やがて音がおさまると、今度は土の中から緑色のぺんぎんのひなのようなものがぴょこっと顔を出す。見た目は緑色のコウテイビナ。


「孵ったのです。ますたーお水を」


 こすもすぺんぎんの指示で、ミネラルウォーターを花ぺんぎんのひなにかける。


 ひなはぷるぷると首を震わせてぴぃ、と鳴いた。


 小皿にミネラルウォーターを注いでひなの前に置くと、数分で空になった。


「ひなはたくさん水を飲むのです。多分大きめのお皿で大丈夫なのですよ」


 大きめの皿にたっぷりと水を注いでから、戸締りをして買い出しに出かけた。


**


「ますたー、このカラフルなのはなんなのです?」


 スーパーでこすもすぺんぎんが目を止めたのはひなあられ。ピンクや緑や白のあられがひな祭り用のパッケージに入っている。思えば食べる機会がなかったなと思い買い物カゴに入れた。


「ひなあられっていうんだ。色も味も色々あるみたいだね。ひな祭りの日にこすもすにあげるから一緒に食べよう」


「ピンクがあるのがいいのです。こすもすと同じ色。親近感なのです」


 必要なものを買い終えて会計を済ませて店に戻る。すると中庭のテーブルに見慣れた顔が座っていた。そういえば、今日ハーブを摘みに来るとPENGにメッセージが来ていたような。


「帰ってきたか。天気もいいし中庭のハーブも摘み終えたとこだ」


「圭。ひな祭りフェアのメニューを考えて試作用の買い出しに行ってて……」


 ぐう、とお腹が鳴る。そういえばそろそろお昼だ。


「一緒に食べようと思って来る途中に買ってきたんだよ」


 圭はそう言うと紙袋から包みをひとつ取り出して手渡した。


「水菜とチーズのコロッケサンドらしい。俺はささみと菜の花のマスタードソースにした。お手拭きとかも入ってるし、包みから出さなくても食べられるぞ。あと、冷蔵庫にもお土産入れといたから後で食べろよ」


「ありがとう。じゃあ冷蔵庫に買ってきたもの入れたら中庭で食べよっか」


 用事を済ませて、いただきます、とコロッケサンドに齧り付く。


 水菜のシャキシャキ感ととろっとしたチーズ、さくさくで中がふわっとした甘めの揚げたてのコロッケ。文句なしに美味しい。


「美味しい。圭って美味しい食べ物をピンポイントに見つけて来るよね」


「まあ、なんとなくわかるんだよな。これは絶対美味しいってやつ。遠い昔に農家とかやってたからかもな。卵もなんとなくわかる」


「それは思うかも。あの村の野菜も卵も品質管理は徹底してたし。雪ひよこの卵も高原野菜も高級品だったからね……その中でも俺たちの出荷物って高評価だったらしいから目は肥えてるよね、多分」


 おかげで美味しいものが食べられるし、作れるからいいよねと笑いあって、圭に孵ったばかりの花ぺんぎんのひなを見せようとバスケットに向かうと、気づかないうちにもう一羽孵っていた。空になったお皿に水を汲みに行く間、圭にミネラルウォーターを渡して世話を頼む。


「お」


 水をかけられた二羽目のひなはじっと圭を見つめて、ぴぃと鳴いた。


「おや、この子はマスターを親と認識したようですよ」


「じゃあ譲り受けた方がいいのか?植木鉢で大丈夫なら……」


「大丈夫ですよ。とりあえずミネラルウォーターを飲ませてあげてください」


 食器棚から皿を取り出してきてひなの前に置く。懸命に飲む姿は、可愛い。


「お待たせ。あれ、その子」


「らべいわく俺を親と認識したらしいから連れて帰るよ。大丈夫、世話はちゃんとする」


「大丈夫、そこは全く心配してないから。よろしくね」


 植木鉢に入ったひなとともに圭が帰って行った後、ひな祭りメニューを試作してとりあえずは完成した。日付が変われば三月、そしてすぐにひな祭りだ。


 ひな祭りフェアは大盛況で終わり、飾っていたペンギン雛壇は買い手が付いてお迎えされて行った。こすもすぺんぎんは毎日少しずつひなあられを食べている。桃色がお気に入りらしい。


 花ぺんぎんの種はあれから毎日ひとつは見つかるようになり、バスケットのニ個目を増やすかを考えているところだ。


 春の足音は、確実に。

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