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2/12

如月 手作りトリュフを君に Side圭

「うーん」


 俺はチョコレート催事のチラシを前にして考え込んでいた。


 色とりどりで、形も味もさまざまで美味しそうなんだけど、何かピンとこない。


 俺がチョコレートを渡したい相手は、作ろうと思えば一般的なチョコレートは作れてしまうし、そもそもチョコレート催事の出店側だ。


 去年、花ぺんぎんたちから発想を得た花言葉チョコが大ヒットしたので、今年はいつもよりさらに忙しそうに駆け回っていて、PENGの既読も当日にはつかない。


 俺の方もアーティストとしてのバレンタインライブを控えていて暇、とは言えないのだけど。



**


「君、うちの事務所にこない?」


 唐突にそう誘われたのはちょうど一年前。京都で起きたある事件がひと段落して、各位の事情により住む場所がなくなった人々を、灘さんの知り合いであるマネージャー兼社長はアイドル兼シルーディアメンバーとして雇い、衣食住を保証した。


 その際に今後のためにシルーディアとのパイプ役をリア・クロス側からも出そうということで、全員がダンスと声のオーディションを受けた結果、男性アイドル部門で選ばれたのが俺だったというわけだ。


 京都、首都とほぼ同時に起きた戦いも無事終幕した今、正直な話リア・クロスは暇だった。対マヨイゴ組織が暇ということは世界が平和だということで大いに喜ばしいことだが、流石に毎日美味しい紅茶を淹れる練習だけというのも味気ない。


 それに、昔から歌は好きだった。遠い過去、遠い異世界。雪ひよこや畑の世話をしながらなんとなく浮かんできたメロディをよく風に乗せていた。隣には金色の髪の【兄】がいて、歌い終わるといつも「ニエルドの歌、好きだなあ」と微笑んでいたものだ。


 それから何度も生まれ変わったけれど、歌はいつもすぐそばにあった。あまりに自然に歌が寄り添っていたから職業にしようという発想自体が生まれなかったのだけど――


「ぜひ、お願いします」


 歌の形で誰かに――叶うなら彼に、寄り添えるというのは素敵だと思ったのだ。


「もう、いっそ手作りしてみては?」


「らべ」


 ぴょこん、と顔を出した紫色のペンギンのような生き物がフリッパーでチラシの「手作りキット」を指す。


 このペンギンのような生き物は【花ぺんぎん】と呼ばれていて、なんでも大星樹の【瞳】である一種の精霊らしい。彼らは人間を愛し、気に入った人間に懐く。


 そして知識や加護でマスターとなった人間を守るのだ。もっとも、全員が姿を見れるわけではないらしいが。


 俺に懐いたのはらべんだーぺんぎんという花ぺんぎんで、紅茶やハーブティーに詳しい。美味しいお茶を淹れられるようになったのは、間違いなくこの花ぺんぎんのおかげだ。


「紅茶の茶葉を活かしたチョコレートなんかいいと思いますよ。まあ、彼は貴方からの贈り物ならなんでも喜ぶとは思いますし、この際告白とかもしたらいいんじゃないですかね?」


「ら、らべ。そ、それは……」


 告白なんて急に言われるとどうしたらいいのかわからない。それ以前に恋人になりたいわけでもない。恋人というより、彼はもっともっと大切というか……


「……世の中には両片思い、という言葉があるらしいですが。まあ、彼も相当鈍いですから少しずつでいいと思いますよ。それはそうとしてどうです?手作り」


「あ、うん。やってみようと思うから、らべも協力してくれたら嬉しい」


「もちろん協力しますよ、マスター」


**


「とりあえず作るチョコレートの種類はトリュフ、でいいか」


 バレンタイン前日の夜。目の前には板チョコとアールグレイの茶葉、生クリーム、トッピング用の材料がある。板チョコを適当に割り、電子レンジで溶かす。よく混ぜて濃いめに淹れた紅茶と生クリームを少しだけ加えて、一旦冷蔵庫で冷やし固める。


 冷蔵庫で冷やす間は一旦休憩。明日に迫ったライブ用の歌詞をもう一度確認する。


 PENGのメッセージはまだ既読にならない。明日に向けて最後の追い込み作業といったところか。ソファに腰を下ろすとインターホンが鳴った。


「海野 圭さんにお荷物のお届けです」


 差し出し人の欄には見慣れた彼の名前があった。クール便、ということは食べ物だろうか。梱包を外すと小さな箱とメッセージカード。


 ライブ、頑張ってね。応援の意味も込めてラベンダーとひまわりの花言葉チョコを送ります。


「……忙しい中わざわざ作ってくれたんだな……」


 明日、ライブの前に食べようと思い、冷蔵庫に入れる。ラベンダーチョコはらべにあげよう。トリュフの試作を手伝ってくれたし。


 程よく固まったら丸く整形して、ココア、抹茶、パウダーシュガーをまぶしてあとは固まるまで冷やすだけ。出来上がったらラッピング用の黄緑と緑のチェックのボックスに入れて、明日の朝開店前に手渡しするだけだ。


「喜んで、くれるかな」


「それはもう、間違いなく」


 翌朝、カバンの中にはもらったチョコ、手には自作のトリュフを持って震える指で呼び鈴を鳴らした。


「こんな早くから来るのは圭だけだよね」


「まあな。えっと、その。トリュフ作ってみたから……持ってきたんだ。休憩中にでも食べてくれ」


「えっ。て、手作りチョコ……?」


 友希の顔が心なしか赤い。戸惑うような表情はすぐに満面の笑みに変わる。


「すっごく嬉しい。大事に食べるね。これで今日のバレンタイン営業頑張れそう。圭も頑張って。お店で配信流しとくから!」


「ああ、お互い頑張ろうな」


 こつん、と拳を合わせてそれぞれの戦場へ向かう。


 甘いチョコレートを食べて気合を入れて、さあそれぞれの戦いへ。

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