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キミイロごはん 睦月 はじまりと終わりは君とともに Side友希


 ――俺は昔からずっと、君のそばにいられたらそれだけでよかったんだ。


 ――俺は昔からずっと、君がそばにいてくれたらそれだけでよかったんだ。


 これは、本当にささやかで、ありふれたお話。君と美味しい料理とぺんぎんに満ちたある一年の記録。



睦月 はじまりと終わりは君とともに Side友希


 キッチンでは加熱された鍋から白い湯気が立ち昇っていた。


 時刻は二十三時。もうすぐで新しい年がやってくる。


 こぽこぽ、という音を聞いて、蕎麦の袋を開け、ふたり分を鍋に放り込んだ。


 そう、俺は閉店後の喫茶店ピエトラで年越し蕎麦を作っているんだ。


 とはいえ年を越せば初詣帰りの人のために数時間の特別営業を予定しているんだけどね。特別営業用の温かいおしるこは既に仕込んであるから、温め直せば大丈夫だ。今年は雪が降る様子はなさそうだけど、夜は冷えるから。


 茹で上がった蕎麦につゆを注ぎ、その上にオーブントースターで温め直した海老天とかまぼこを乗せる。


「よ、よかった。まだ日付変わってないよな?」


 焦ったように呼び鈴が鳴る。入り口のドアが開いて、君が店に入ってきた。


「変わってないよ。じゃあ年越しそば食べよっか」


「ありがとう、友希」


 いただきます、と手を合わせてほかほかの蕎麦をすする。


 暖房が効いていても温かい蕎麦は胃に染みた。外から帰ってきた彼にはなおさらだろう。海老天は海老はぷりっと、衣はさくさく。ふたりだけで食べるからにはと少しだけ奮発したのは内緒だ。一年の終わりに食べるのなら、やっぱり美味しいものがいい。


「どうだった?圭」


「毎年のことだけど本当に美味しい。なんというかほっとするんだよな」


「うん、俺も。外はいつもより静かで、部屋の中は暖かくて、そばには大切な人がいて。本当にほっとするんだ……」


 お腹が満たされたのと安心感でふわっと眠気がやってくる。参ったな。このあと特別営業があるのに……


「いいから少し寝てろ。お前どうせあんまり寝てないんだろうから……」


「……そう、する……」


 圭は眠ってしまった友希に毛布をかけて、窓の外を見た。


 ごーん、ごーん……


 除夜の鐘。煩悩を祓う百八つ。


 今年が終わる。新しい年が来る。


 針は進む。止まることなく。


「……ん」


「あと一分で年明けだ。カウントダウンするか?」


「するのです!」


 元気よくピンク色のペンギンのような生き物がフリッパーを挙げた。


 この子はこすもすぺんぎん。花ぺんぎんという不思議な生き物の一種。


「こすもすはこういうの好きだよね。じゃ、しようか」


 さん、に、いち――


「明けましておめでとうございます」


 ぺこり、とお互い頭を下げて新しい年が始まった。


**


 無事に特別営業を終えて、私服に着替えてコートを羽織り、圭からもらったチェックのマフラーを首に巻きつけた。


 前に使っていたマフラーは今は隼陽が使っている。なるべく似たものを探してくれたらしい。


「それじゃ、行こうか」


「うん」


 手を引かれて喫茶店ピエトラの鍵をかけ、静かな夜の街へ繰り出した。


 初詣帰りの人波は落ち着き、いつもよりも静かな道に靴音が響く。手袋越しに繋いだ手は、温かい。こぼれた白い吐息が煙のように夜に融けた。


 少し歩いて、石段を登り切り、行きつけの神社に初詣。いつからか毎年の恒例行事となったそれを、正直にいえば俺は毎年楽しみにしている。


「あ、大吉」


「俺は……うん、言わない。悪くてもくくれば大丈夫なんだよな」


 圭はそう言って手早くおみくじをくくり終えて戻ってきた。


 俺の記憶が確かなら毎年彼はおみくじをくくっているような気がする。


 お店に飾るための破魔矢と熊手、そしてお守りを買い終えて神社を後にする。


 初日の出まではまだ数時間。凍てついた空に星が光る。


「すっかり冷えたな」


「帰ったらおしるこ食べようか?大丈夫。甘さ控えめなのをひとつ作っておいたんだ」


「そりゃいい。はー、本当に俺は幸せ者だよな」


「いきなりどうしたの」


 繋いでいる手にぎゅっと力が込められる。


「だってさ。一年のはじめと終わりに大切な人が自分のためだけに料理を作ってくれて、それがめちゃくちゃ美味しいんだぜ?幸せ者だろ」


「……あ、ありがとう……な、なんか照れるけど、うん」


 俺は実を言うとあんまりストレートな褒め言葉には慣れていない。耳が、熱い。


 これは、絶対に寒さのせいじゃない。


「その言葉、そのまま返すよ」


 帰りついて口にしたおしるこは、甘さ控えめのはずなのに、何故だかとても甘かった。

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