表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/68

【65話】残された者

結局、その夜は何も見つからなかった。


跡地の隅々まで兵士たちに探させ、瓦礫の一つ一つまで確認させた。


だが、どこにもリリィの体は見つからなかった。


血の跡もない。


布の切れ端も、靴の片方すらない。


まるで、彼女の体だけが、忽然と消え去ったかのようだった。


「アルトリア様。今夜は、ひとまずお戻りください」


兵士の言葉に、頷くことができなかった。


「もう少しだけ……」


「お気持ちは分かります。ですが、夜が明けてからの方が、見落としも減ります」


分かっている。


理屈では、分かっている。


けれど、この場を離れることが、何かを諦めることのように思えて、足が動かなかった。


結局、半ば強引に連れられる形で、俺は城へ戻った。


納得などできるはずがなかった。


翌日、夜が明けるとすぐに、俺は再び礎堂跡地へ向かった。


誰にも告げず、一人で。


「アルトリア様、お待ちください」


けれど、護衛がすぐに追いついてきて、結局、付き添われる形になった。


跡地を、もう一度、隅々まで歩いた。


土を掘り、瓦礫を一つずつひっくり返した。


何も見つからなかった。


その次の日も、同じだった。


「アルトリア」


城の回廊で、セリウス兄上に呼び止められたのは、三日目の朝だった。


「また行くつもりか」


「はい」


「いつまで続ける気だ」


兄上の声には、いつもの軽さがなかった。


心配と、苛立ちが、はっきりと混じっていた。


「見つかるまでです」


「アルトリア」


兄上が、俺の前に立ち、まっすぐに目を見た。


「お前の気持ちは分かる。だが、毎日同じ場所を掘り返したところで、何も変わらない。お前自身が、まず潰れてしまう」


「兄上には、分からない」


思わず、声が強くなった。


「リリィは、まだ俺の中にいるんです。声が、聞こえたんです。生きているのか、死んでいるのかも分からないまま、ただ待つことが、俺にはできない」


兄上は、しばらく黙って俺を見ていた。


それから、深く息を吐いた。


「……分かった。だが、今日だけは行くな。少し、休め」


結局、その日は折れる形になった。


自分でも、限界が近いことは分かっていた。


三日間、ほとんど眠っていない。


夜、部屋の寝台に横になっても、眠りは浅かった。


何度も目を覚まし、紋章に手を当て、その温かさだけを確かめる。


けれど、声は、もう聞こえなかった。


あの夜から、ずっとそうだった。


――もう一度だけでいい。声が聞きたい。


そう思いながら目を閉じた、その時だった。


首元が、ふっと、温かくなった。


「……っ」


体を起こす。心臓が、強く跳ねた。


『アルト』


声が、聞こえた。


三日ぶりに聞く、リリィの声だった。


「リリィ……!」


思わず、声に出して呼んでしまう。


『うん、私だよ』


「お前、今までどこに……探したんだ、何日も。城の者も、みんな……」


『ごめんね、心配かけて』


リリィの声は、変わらず穏やかだった。


けれど、どこか遠くから響いているような、不思議な隔たりも感じた。


「お前の体は、どこにあるんだ。生きているのか――」


『私の体は、もうないの』


その言葉に、頭の中が一瞬、真っ白になった。


「ない……?」


『あの時、力を全部、アルトに渡したから。私の中にあった、紋章の力――あれを使い切った時、私の体は、アルトの紋章の中に溶けたんだと思う』


「……そんな」


『でも、消えたわけじゃないよ』


リリィの声は、それでも変わらず、静かで優しかった。


『私はね、アルトの中に、ずっといるの』


「俺の、中に……」


『うん。だから、寂しがらなくていい。会えない時もあると思うけど、私はちゃんと、ここにいるから』


その言葉に、安堵と、深い悲しみが、同時に押し寄せてきた。


彼女が、確かに「いる」と言ってくれている。


けれど、もう二度と、その体を抱きしめることはできないのだという事実が、重く胸を塞いだ。


「リリィ……」


声が、震える。


『泣かないで、アルト』


「泣かずにいられるか……お前は、俺のために、自分の全部を……」


『後悔してないよ』


はっきりと、リリィは言った。


『アルトが生きていてくれるなら、それでいい。私の選択だから』


その言葉に、俺は何も返せなかった。


ただ、紋章に当てた手に、強く力を込めた。


彼女の温かさだけを、確かに感じながら。


「リリィ、もう一度、声を聞かせてくれ」


けれど、答えはなかった。


温かさだけが、静かに胸の奥に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ