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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【59話】暗躍する人

地下書庫の解読は、想像以上の速さで進んでいた。


オルディンが古語に詳しい学者を数名招き入れ、破損した記録を慎重に読み解いていったのだ。


「アルトリア様、リリア様。ようやく、核となる部分が見えてきましたぞ」


オルディンの声には、興奮と同時に重さがあった。


報告のために集まった私たちの前に、彼は一冊の記録を広げる。


「紋章とは、本来、民を守るための力だったようです。歴代の王が、国と民を守るために授けられたもの。ですが、ある時代に、一人の王がその力に呑まれました」


「呑まれた……」


「記録によれば、その王は紋章の力を使い、世界そのものを自らの理想に作り変えようとした。民を守るための力を、世界を支配するための力に変えてしまったのです」


アルトの表情が、強く張りつめる。


「その王は、最終的にどうなったのですか」


「詳細は記されておりませぬ。当時の王家がその王を止めた、という一文だけが残っています」


部屋に、重い沈黙が落ちた。


「問題は、それだけではありませぬ」


オルディンが、もう一冊の記録を取り出す。


「その王の思想に賛同し、共に動いた者たちがいたようです。彼らはその後も、密かに組織として存在し続けたと考えられます」


「礎堂は……」


私の問いに、オルディンが頷いた。


「礎堂は、その組織が拠点として使っていた施設の一つだったのでしょう。地下の研究施設も、紋章の力を解明するために彼らが築いたものと思われます」


紋章の崩壊、消滅した礼拝堂、誘拐事件、洗脳――これまで起きてきたことすべてが、一つの線で繋がっていく感覚がした。


「彼らは今も存在している、ということですね」


アルトの声は静かだったが、確かな危機感が滲んでいた。


「左様。リリア様が狙われたことを考えれば……彼らはまだ、かつての王の理想を諦めていないのかもしれませぬ」


オルディンの言葉が、部屋の空気をさらに冷たくした。


民を守るための力が、世界を壊すための力に変わる――それは、紋章そのものに刻まれた矛盾なのかもしれない。


私は自分の首元に触れる。同じ紋章を宿す身として、その重さを、今まで以上に強く感じていた。


「これからどうするか、考えなければなりませんね」


アルトの言葉に、私は静かに頷いた。


まだ何も終わっていない。


むしろ、本当の脅威は、ここから始まるのだと、私は確信していた。

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