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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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58/61

【58話】優しさ

地下書庫の調査結果を、私たちは国王陛下と女王陛下、そしてセリウスに報告した。


「礎堂の地下に、紋章についての研究施設が……」


国王陛下の声には驚きが滲んでいた。


紋章について、誰も知らなかった場所がまだ残っていたという事実は、王家の人間にとっても重いものらしい。


「過去に紋章を発現した者についての記録もありました。詳細はまだ分かりませんが、『末永く王家を見守り続けた』という記述があります」


アルトの説明に、女王陛下が静かに目を伏せた。


「……そんな話、聞いたこともありませんでした」


セリウスは包帯の巻かれた腕を軽く動かしながら、考え込むように言った。


「随分と昔の話なんだろうね。記録が地下に隠されていたくらいだ。誰かが意図的に伏せたのかもしれない」


その言葉に、部屋の空気が少し冷えた気がした。


報告を終え、解読を続けることを約束して、私たちはその場を辞した。


廊下を歩きながら、アルトはどこか言葉を選ぶような様子だった。


「リリィ、少し話せるか」


……あの様子だと、何か言いたいことがあるのだろう。


私は素直に頷き、彼の後について部屋の隅、人気のない回廊へと向かった。


けれど、ふと足が止まる。


先に部屋を出ていたはずのセリウスが、少し離れた柱の陰で、アルトに小さく目配せをしていた。


何か、二人だけで話したいことがあるのかもしれない。


私は気づかれないよう、回廊の角に身を隠した。


盗み聞きをするつもりはなかった。けれど、何故か足が動かなかった。


「アルトリア」


セリウスの声が、いつもより低く、硬い。


「さっきの記録のこと、少し気になっている」


「兄上も、ですか」


「リリアが狙われていることを考えると、嫌でも繋げて考えてしまうんだ。あの子の力は、自己犠牲の上に成り立っている。それを利用しようとする誰かがいるなら……何が起きてもおかしくない」


アルトが、息を呑む音が聞こえた。


「だから、アルトリア。もしリリアが力を使おうとしたら、止めてほしい。簡単には使わせない方がいい」


「……兄上」


「君が一番、あの子の隣にいる。だから、君にしか頼めない」


セリウスの声には、いつもの軽さがなかった。


それだけに、その言葉の重さがよく伝わってきた。


「分かりました。私が、リリィを止めます」


アルトの声は静かで、迷いがなかった。


けれど、その強さの裏に、隠しきれない恐れが滲んでいるのが分かった。


「……アルトリアらしいね」


セリウスの声は柔らかく、けれど少し寂しげだった。


「でも、リリアがそれを聞いたら、何て言うだろうね」


その言葉に、アルトは何も答えなかった。


私は、柱に背を預けたまま、声を出すことができなかった。


私を守るために、私自身の力を封じようとしている――それは、紛れもなく優しさだった。


けれど同時に、私の中で、小さな反発のような感情が生まれていた。


守られるだけの存在でいたくない。


私は、ただ守られるためにここにいるわけじゃない。


そう思う自分と、アルトを失いたくないと願う自分が、胸の中で静かにせめぎ合っていた。


気づかれないように、私はそっとその場を離れた。


けれど、今聞いた言葉は、もう私の中から消えてくれそうになかった。

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