【57話】見守る
セリウスのお見舞いを終えた数日後、オルディンから「礼拝堂跡地に動きがあった」という知らせが届いた。
「リリア様、アルトリア様! 大変なことになりましたぞ!」
王城の応接室に駆け込んできたオルディンは、いつもの好奇心に加えて、隠しきれない興奮を顔に浮かべていた。
「跡地の瓦礫を調べておったのですが、地下へ続く入り口を見つけましてな」
「地下……」
アルトと顔を見合わせる。
礼拝堂は建物ごと消滅していたはずだ。
その下に何かが残っていたとは、想像していなかった。
「これは見ていただいた方が早い。すぐにご案内します」
私たちは護衛を伴い、跡地へ向かった。
かつて礎堂があった場所には、もう瓦礫すら残っておらず、ただ不自然に陥没した地面が広がっていた。
その中心に、石造りの階段が口を開けている。
「ここを下りると、思いがけぬものが出てきましたぞ」
オルディンに続いて階段を下りると、空気が一変した。
冷たく、埃と古い紙の匂いが混じる、長らく人の出入りがなかった場所特有の静寂が広がっていた。
「……これは」
アルトが息を呑む。
そこは、書庫だった。
けれど、オルディンの研究室よりも遥かに広く、壁一面に古びた書架が並んでいる。
崩れかけた机の上には、紙とも布とも分からない古い記録の束が積まれていた。
「紋章についての研究施設、ですね」
「左様。儂の見立てでは、おそらく数百年は人の手が入っておらぬ。礼拝堂の地下に、これほどのものが隠されていようとは……儂も初めて知りましたぞ」
オルディンの声には、研究者としての興奮と、同時に畏れのようなものが滲んでいた。
棚の記録の多くは、文字が掠れ、虫食いも激しく、読み取ることすら難しい。
それでも、いくつかの断片は解読できたという。
「いくつか、お伝えせねばならぬことがあります」
オルディンは一冊の古い記録を手に、表情を改めた。
「過去の紋章の発現者についての記録です。詳しい経緯までは、この破損では読み取れませぬが……ただ一文だけ、はっきりと読める箇所がありました。『その者は末永く王家を見守り続けた』と」
「末永く、見守った……」
その言葉の意味を、私はすぐには掴めなかった。
見守るとは、どういう形で。どうしてそんな言い方をするのか。
「アルト」
名前を呼ぶと、彼もまた同じ場所に視線を落としていた。
何かを感じ取ったような、複雑な表情だった。
「……もっと読み解く必要がありますね」
アルトの呟きに、オルディンが大きく頷く。
「儂もそう思います。この施設には、まだ多くの記録が眠っております。少しずつでも、解読を進めましょう」
古い書庫の静寂の中、私はもう一度、紋章に触れる。
この記録の主が誰だったのか、何があったのか――まだ何も分からない。
けれど、その答えの欠片が、確かにこの場所に眠っているのだと、私は強く感じていた。




