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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【56話】お見舞い

王城に戻ってから、私はすぐに自室のベッドに寝かされた。


暴走した時の記憶は、所々が霞んでいる。


誰かを傷つけてしまった感覚だけが、ずっと胸の奥に重く残っていた。


「リリア様、お加減はいかがですか」


侍女が心配そうに私の腕を取る。


包帯を巻かれていたはずの場所には、もう傷痕すら見当たらなかった。


「……治ってる」


暴走の最中、私は何かに体を強く打ちつけたはずだ。


なのに、痣も切り傷も綺麗に消えている。


まるで最初から何もなかったように。


「まあ、よかったですね。思っていたより軽い怪我だったのかもしれません」


侍女は不思議そうにしながらも、それ以上深くは追及せず、安堵した様子で笑った。


彼女には、紋章がどんな力を持っているのかなど知る術もない。


私自身も、この治りの早さに何の実感もないまま、ただ戸惑うばかりだった。


不思議に思う余裕もないまま、私はセリウスのお見舞いへ向かうことにした。


あの方を傷つけてしまったのは、紛れもなく私自身なのだから。


病室の扉をそっと開けると、ベッドに横たわるセリウスの隣に、アルトが座っていた。


「リリィ」


私を見つけたアルトの声に、少しだけ安堵が混じる。


けれど、その目には未だ拭えない緊張があった。


「セリウス様……」


私はベッドのそばに膝をつき、震える声で名前を呼ぶ。


彼の身体には包帯が巻かれていて、それを見るだけで胸が締めつけられた。


「ああ、リリア。心配しなくていいよ」


セリウスは目を開け、いつもの軽い調子で笑った。


けれど声には、わずかに疲労が滲んでいる。


「私のせいで、こんな……」


「君のせいじゃない。利用されただけだ」


セリウス様はきっぱりと言った。


からかうような口調ではなく、珍しく真剣な声だった。


「それに、僕は弟の婚約者にやられたって考えると、ちょっと面白いけどね」


「セリウス様」


「冗談だよ。そんな顔しないで」


軽く笑いながらも、彼の目は私を気遣っていた。


観察眼の鋭いこの人には、私がどれほど自分を責めているか、見透かされているのだろう。


「アルトリアが君を止めてくれたんだ。それでいい。結果は、悪いものじゃなかった」


セリウスの言葉に、隣に座るアルトが小さく目を伏せた。


「私が、もっと早く気づいていれば……」


「アルト」


私が呼ぶと、アルトはゆっくり顔を上げた。


紫がかった瞳に、後悔と、それでも私を見ようとする強さが混じっていた。


「リリィが無事で良かった。それだけでいい」


ぽつりと零れたその言葉に、胸の奥が締めつけられる。


怪我をしていないことより、まだ私を案じてくれていることの方が、ずっと痛かった。


「私……ちゃんと、強くならないと」


「無理はしなくていい」


「でも」


「リリィ」


アルトが静かに私の名を呼ぶ。


それだけで、言葉に詰まってしまう。


病室には、しばらく沈黙が落ちた。


けれどそれは、気まずさではなく、互いの想いを確かめ合うような、不思議な静けさだった。


「……二人とも、僕の前でそういうのやめてくれない? 怪我人なんだけど」


セリウスの呆れたような声に、私とアルトは同時に顔を赤くする。


「兄上」


「はいはい。ごめんごめん」


笑いながらも、セリウスの目はどこか優しかった。


礎のような静寂の中で、私は確かに、消滅した礼拝堂跡地の謎と、誰かの意図がまだこの先に潜んでいることを思い出す。


けれど今は、この時間が守られていることに、ただ感謝したかった。

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