第29話 毒占欲
モンスターの肉を食いすぎて、俺はどうやら倒れてしまっていたみたいだった。
倒れる直前に、毒魔法を閃いたところまでは記憶があったんだがなぁ……。
モルヴェナ先生に助けてもらわなければ、ほんとうに死んでいたところだった。
モルヴェナ先生にはほんとうに感謝だなぁ……。
しかも俺の身体だけじゃなく、ドッグミートのことまで治してくれたんだもんな……。
普通の犬に戻れてよかったな、ドッグミート。
まあ、ゾンビ犬はあれはあれで可愛いんだけどな……。
けど、普通の犬に戻ったおかげで、ドッグミートは俺の屋敷で正式に飼うことになった。
それから、モルヴェナ先生にはキスもされてしまったな……。
なんで俺、キスされたんだろうか。
でも、いいのかな、あんな綺麗なお姉さんにキスされてしまって……。
はじめてのキス……唇、柔らかかったなぁ……。
もしかして、モルヴェナ先生は俺のことが好きなのだろうか?
いや、そんなわけがないよな。
俺みたいな子供、好きになるわけがない。
相手は歳の離れたお姉さんだし、それに俺の先生なんだから、そういう目で見るのはよそう。
それに、あんなに綺麗でおっぱいも大きいんだから、きっと彼氏がいるに決まってる。
俺なんか眼中にないだろう。
◇
モルヴェナ先生との毒魔法の修行に明け暮れていた、ある日。
ミレイユが突然、こんなことを言いだした。
「ゼノさま……なんだか最近、ミレイユはさみしいです……」
「お、おう……どうした……?」
「ゼノさま、最近私の料理も、あまり喜んでくれてないように思えます……」
「そうか……? よ、喜んでるぞ……?」
どうやらミレイユは最近の俺の態度に不満があるらしい。
まあ、最近はモルヴェナ先生とずっと一緒にいすぎて、ミレイユのことはあまり構ってやれてなかったかもしれないな……。
せっかく好かれたと思ったミレイユに、また嫌われるわけにはいかない。
毒殺回避のためにも、ミレイユたちメイドには好かれておかないといけないな。
「だって、以前は私の料理で気絶するほど美味しいと喜んでくださってましたが……最近ではそれもないじゃないですかー!」
「あ、ああ……まあ……そうかもな……。すまん」
だってもう俺の毒耐性は、かなり上がってしまっていて、もはやミレイユの料理では気絶することはないんだよなぁ……。逆に、食べなれてきたから、味は前よりも気に入っているんだけど……。
「あの味にはもう慣れてしまって、美味しくないってことですか?」
「いや、そういうわけではないんだが……」
なんだか拗ねているミレイユも可愛い。
けど、言われてみれば、ミレイユから見たらそう見えるよな……。
もっとミレイユに感謝を伝えられればいいんだけど……。
「じゃあこれ、食べてもらえますか?」
「これは……?」
「私なりに、考えて、味を改良してみたんです。これなら、きっとゼノさまも前みたいに喜んでくださると思って……」
「おお、そうなのか……ありがとう。さっそくいただくよ」
「はい! うれしいです!」
どうやらミレイユは新作料理にチャレンジしたみたいだ。
俺はさっそく、その新しい料理とやらに口をつける。
相変わらず、見た目ではなんの料理かまったくわからない。
「こ、これは……!?」
「美味しいですか……!?」
ま、マズい……。
めちゃくちゃ不味い。
以前にも増して、クソ不味い。
なんだこれは、なにが入ってるんだ……!?
改良したんじゃなかったのかよ……!?
そうか、ミレイユにとっての改良って、つまり俺たち普通の味覚の人間にとっては、改悪ってことなのか……!?
けど、それにしても、ひどすぎる……。
前の味にようやく慣れてきたってのに、今後はこれなのか……。
俺が料理を飲み込んだ、そのときだった。
腹に、あの懐かしい激痛が奔る――。
「うごおおおお。ぐぎゃあああああああ!!!!」
「ゼノさま!? 美味しいんですね!」
「あ、ああ……うん……とっても美味しいよ……」
俺はそのまま気絶して、四日間目覚めなかった。
◇
まったく……ミレイユの料理には驚かされる。
すっかり味にも毒素にも慣れたものだと思ってたけど、また四日も寝込んでしまった。
味だけでなく、どうやら毒素もパワーアップしてるみたいだな。
これだけ毒耐性を鍛えた俺が、四日も寝込むことになるとは思いもしなかった。
だがこれはいい。またミレイユの料理で鍛えられそうだ。
ていうか、ミレイユはいったい料理になにを入れているんだ……?
まあ、怖いから知りたくないけど……。
ミレイユって、あの料理を食べても気絶しないんだよな……?
だったら、もしかしたら俺よりも強い毒耐性を持っているのかもしれないな。
ミレイユの地元って、いったいどんなところなんだろうな……?
ミレイユだけが特殊なのか、それとも一家や周りの人々までそうなのか。
気になるところだ……。
◇
料理で俺をノックアウトできて、機嫌をとり戻したミレイユだったが、今度は風呂場で口を尖らせて、言ってきた。
「ゼノさま……。私のマッサージはもうお嫌いですか?」
「いや、そんなことはないが……」
ミレイユのような可愛い女の子にマッサージしてもらうのが嫌な男なんていない。
「だって、最近ではもう私のマッサージで喜びの絶叫をすることもないじゃないですか……」
「ああ、うん……」
なるほど、ミレイユは俺の断末魔を、喜びの声だと思っていたのか……。
まったく、おもしれー女だぜ……。
でも、料理のときと同じで、俺の今の毒耐性だと、もはやあの毒オイルでは痛くもかゆくもないのだ。
だから絶叫しないのは仕方ないだろう……。
「私、また特製の新作オイルを作ってきました! 以前のは伝統的な、代々うちに伝わるものでしたが……。今回のは、私がいちから特別に調合したものですよ!」
「お、おう……そうか……。それは期待できそうだな……」
そうか、代々伝わるオイルがアレってことは、ミレイユの一家全員おかしいんだろうな……。
けど、どうやらミレイユはその中でもかなり特殊らしい。
ミレイユの新作オイルを俺の皮膚に塗った瞬間。
「ぎゃぴ……!」
俺はそんな間抜けな声を上げて気絶した。
正直、これはマッサージどころではない……。
そして俺はまた五日間目覚めなかった。
◇
ミレイユのご要望は、それだけじゃなかった。
ある夜、寝るときになって、ミレイユが俺のベッドルームへとやってきた。
こんな時間になんの用だ……?
「私、見てしまったんです……」
「な、なにを……?」
まさか、モンスターの肉を食っているところをか……!?
いや、そんなはずはない。あれからしばらくは食ってないはずだ。
モルヴェナ先生に止められているからな。
「モルヴェナ先生と、ゼノさまがキスをしているところを、です!」
「ああ……あれか……」
「そ、その……私にもキスをしてください!」
「なんでそうなる!?」
モルヴェナ先生との関係を問い詰められるのかと思ったが、どうやらそこはどうでもいいらしい。
「できないんですか!? 私とは……嫌ですか……?」
「いや、嫌じゃないけど……」
「なら……お願いします。キスしてもらえないと、私……」
「わ、わかった。じゃあ、目を閉じてくれ」
「はい……♡」
ここでキスを断ったら、二度と許してもらえないくらい、ミレイユから嫌われる気がする。
ミレイユからの好感度を得られるのなら、キスくらい、安いものだ。
それに、正直……俺もキスはしてみたい……!
でも、自分からキスするなんて初めてだ……。
これであってるのかな……?
俺はそっと、ミレイユの柔らかい唇にキスをした。
「ん…………」
ミレイユはそんな可愛らしい吐息をもらす。
そして、キスが終り、目を開けると、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「えへへ……やっぱり私は、世界一幸せな女の子ですね」
「満足したか?」
「はい。ありがとうございます」
その後、すっかり発情してしまったミレイユを部屋まで追い返すのにかなり苦労した。
正直、この先はまだ俺には刺激が強すぎる……!




