第28話 ちゅ、多毒性。【side:モルヴェナ】
「ゼノ、これからモンスターの肉を食う時は、私の目の前で食え。そうすれば、治療できるだろう?」
「え……!? これからも食っていいんですか……!?」
「どうせ止めても、お前、私のいないところで勝手に食うだろう。だったら、目の前で倒れられたほうがましだ」
「あ、ありがとうございます。モルヴェナ先生も食べますか? 先生の毒耐性なら、たぶん大丈夫だと思いますよ」
たしかに、私ほどの毒耐性であれば、それも可能だろう。
だけど、モンスターの肉を食うなど、考えられない。
そんなことをするくらいなら、感染症にかかった猿のくしゃみでうがいをするほうが、まだマシだ。
「誰が食うか! 食うわけないだろ、そんなもの……!」
「えぇ……けっこうイケるのに」
「えぇ…………」
まったく……おかしな奴だ。
あのミレイユの料理を食っているせいなのか?
それとも、こいつはもともと味覚と胃袋がおかしいのか?
とにかく、私はゼノのそんな狂気的で常識外れなところも、好きだ。
「とにかく……もう無茶はするな」
「はい。あ、でも……毒魔法は覚えましたよ!」
「え……? い、今なんと……?」
「だから、毒魔法を覚えました。みていてください」
そう言って、ゼノは毒魔法を唱えた。
「毒牙乱舞――!!!!」
すると、ゼノの目の前に毒の牙が現れ、辺りにあった木を斬り裂いた。
――ズドドドドドド。
「な……!? ほんとうに……!? どうやって覚えたんだ……!? あれほど修行しても使えなかったのに……」
この世界に、私より優れた毒魔法の師匠がいるとは思えないが……。
まさか独学で……?
「ポイズンスカルデーモンの肉を食ったからです」
「は……?」
「それが……気づいたんです。モンスターの肉を食うと、どうやらそのモンスターの使うスキルを閃くことがあるって」
「なんだって……!? そんな話……きいたこともない……」
「ですよね……。俺もびっくりしました」
だが、可能性としては、ありえなくもない……のか……?
たしかに、閃きの仕組みを考えると、そういうことも不可能ではない……。
それにしても、まさかそんなことが可能だとはな……。
まあ、もし他の人間がそれを知ったとしても、真似できるやつはいないだろうが……。
「このことは、私たちだけの秘密だぞ」
「もちろんです」
なんだか二人だけの秘密って、いい響きだ。
二人しか知らないことがあるなんて、恋人みたい♡
「お前はもう毒魔法を使えるようになった。つまり、今後は私が毒魔法を教えることができるというわけだな」
「ええまあ、でもまだ毒牙乱舞しか使えないですよ? ポイズンスカルデーモンから得られたのはそれだけなので」
「構わん。毒牙乱舞のもっと効率のいい使い方を教えてやる。威力の上げ方もな」
「やった! ありがとうございます!」
ゼノの発見した理屈では、他の毒魔法を使うモンスターを食べれば、他の毒魔法も奪うことができるというわけだ。
「これで自分に毒魔法を撃って、毒耐性を自分で鍛えることができますね」
「まあ、推奨はしないがな……。そんなアホなことするやつ、お前しかいないだろう」
「えぇ……? 効率的だと思うんだけどな……」
あのな、ゼノ……。普通はいくら効率的だと思っても、自分で自分を攻撃したりはしないのよ……?
だって、めちゃくちゃ危険だし。
でも、どうせ私が止めてもやるんだろうな……この子……。
「さあ、みんな心配している。帰るぞ」
「はい」
その日のことを、ゼノの父にも詳しく話せときかれたが、私はうまく口裏を合わせ、誤魔化しておいた。
だって、他の人間に、ゼノがモンスターの肉を食ったなんて知られるわけにはいかないからな。
このことは、私が墓場まで持っていこう……。
◇
数週間寝込んで、ゼノの足は回復した。
ゼノのことを知らせてくれたあの犬は、どうやらドッグミートという名前らしい。
ドッグミートは完全なゾンビ犬だと思っていたが、どうやら右耳だけはまだ普通の状態が残っていた。
そこで、私が解呪の魔法を使ったところ、ドッグミートは元の綺麗な犬の姿に戻ることができた。
損傷していた骨も回復薬と回復魔法の治療により、もうすっかりよくなった。
ドッグミートはやはりしっぽを振って喜んでいたし、私にももっと懐いて、ペロペロ顔を舐めてくれた。
ゼノも、ドッグミートが元気になって嬉しそうだった。
ゼノはしきりに「ありがとうございました」とお礼を言ってきた。
私もうれしいよ……。
それからしばらくは、ゼノの毒魔法の修行がはじまった。
ゼノはどんどん毒魔法を上達させていった。
やっぱりこの子は筋がいい……天才だ。
そしてゼノは毒魔法を頭上に向けて放ち、それを浴びることで、どんどんと毒耐性も鍛えていった。
モンスターの肉を食うことは、いまのところはやめさせている。
瘴気が身体に与える影響は、思っている以上に大きいからだ。それに、研究でもまだ未知数な部分がある。
本当に必要なスキルがあるという場合のみ、食っていいという約束にした。
とはいえ、ゼノのことだから、またいつ私のみていないところで無茶をするかわからん……。
もっとゼノを私に依存させ、好きにさせ、首輪をつないでおかないとだな……。
もしゼノが死んだら、私だってこんな世界に生きている意味がなくなる。
ゼノにだけは健康でいてもらわないと。
「ゼノ、かなり毒耐性が上がってきたな。もう私よりもすごいんじゃないか?」
「わかるんですか……?」
「ああ、見ればだいたいわかる。それに……ちょっとこっちへこい」
「はい……?」
私はゼノを呼び、近くにこさせると、彼の唇に、そっとキスをした。
「な、なんですか……!?」
「私とキスをすると、普通なら気絶する。そうならないのが証拠だろう?」
「だからって……実際にキスする必要がどこにあるんですか……!? いや、俺も男なので、悪い気はしませんけども……」
「普段修行を頑張っているご褒美だ。受け取っておけ」
よし、だんだんとゼノは私のことを好きになっていってくれている。
キスをそれほど嫌がっていないのがその証拠だ。
まったく、男というのは……身体は正直だな。
私たちが結ばれるのも時間の問題だ。
だが、ゼノの毒耐性は実際、かなりのものになったな。
あいつを依存させ、私にぞっこんにするための媚薬を作るとしたら……今度はもっと強力なものが必要になるな……。
私は超強力な媚薬を作り、それを屋敷の調理場にこっそり隠しておくことにした――。
媚薬は紫色の瓶に入っており、桃色の液体が入っている。ゼノの好きなジュースと同じ特徴だ。これなら、これを見つけたゼノは真っ先に飲むだろう。
これで準備はばっちりだ。




