三章9話 mess
キャラがたくさん出てきますが、二章1話・2話にみんなまとまっているので、よければ読み返してください。
力樹と乃蒼に場を任せて移動していた輝登。彼は無力感に苛まれていた。
(足手まといにしかなってない…なさけない…。帰ったら近接戦闘を教えてもらわな…)
パァン!!!
銃声が、聞こえた。
(この方角…まさか!!!)
最悪を考慮した輝登は、今まで来た道を金烏を使ってとんぼ返りする。
パァン!!
また破裂音がする。間違いない。今、輝登は行かなきゃならない。今度こそは力になるために。
「頼みますよ…金烏さん…!!」
ほどなくして先ほどの茶店付近の上空に戻ってくる。忙しなく周囲を見回すと、高瀬川の縁で、開いた場所に飛び出てきた乃蒼がいた。
安堵した瞬間、また銃声が聞こえた。乃蒼が目を見開いてある方角を見る。
(狙撃っ…!!!!)
それを理解するまでに0.1秒。加速する思考。
(どうする…!?敵の姿は視認できない。今から降りて乃蒼さんを庇うのも間に合わない!!なら…!!!)
結論を出すまでに0.5秒。
金烏の足でがっしりと両肩を掴んでもらい、輝登は急いで銃を構える。銃声が聞こえてジャスト1秒後、輝登も発砲したのだった。
◆ ◆ ◆
不注意で射線の通る場所に躍り出てしまった乃蒼。自分が狙撃された、と気づいた瞬間、両手のナイフを無意識に前でクロスさせて目を瞑った。それで防げるはずもないのに。
痛みに備えて体を縮めた瞬間。
パガン!!!
目の前で小さな爆発が起こった。
呆気に取られる乃蒼の前に、輝登が着地する。
「乃蒼さんの向いている方からすると発砲はこっちから…!!!」
そう言いながら2、3発撃つ輝登。彼が撃ち出された銃弾に自分のものをぶつけたのだと理解するまでに数瞬かかった。
「…助かったよ。ありがとう。」
「いえいえ!力になれてよかったです!!」
その時、突然空から降ってきた輝登を警戒して彼らを遠巻きにしていた3人の藩士がにじり寄ってくる。それを尻目に立ち上がりながら、乃蒼は言う。
「…ここは任せて、銃を持った男をお願い。力樹さんが追ってる。」
輝登は聞く。
「死なないでくださいね。」
「ああ。今の攻防で、勇気をもらったよ。絶対負けないさ。」
それを聞いて納得したように輝登はその場を離脱する。
「さあ、待たせてごめんね。こっから逆転するから。」
そう宣言した乃蒼は、ナイフを逆手に持ち、かけだした。
◆ ◆ ◆
力樹は、男との決着が全然つかないことで焦っていた。
(いたちごっこだ…!)
男を追いかけてはいるが、全然自分の間合いに持ち込めない。それは単純に武器の性質の違いなのだから仕方がないことである。
力樹は木屋町通りを抜け、河原町通に入る。男は基本屋根の上を移動するが、こちらが屋根に登ると即狙撃してくるというトンデモ仕様。
「せめて…陽葉さんがいてくれれば…!」
遠距離攻撃手段がない今、どうにも決め手に欠けるのだ。考えていると、後ろでザッ、と音がする。力樹が驚いて振り返ると、そこには送り出したはずの輝登がいた。力樹は訳が分からず聞くと、輝登が応答する。
「輝登さん!?どうしてここに?」
「銃声が聞こえまして…嫌な予感がしたんです。」
それで戻ってきてくれたのか。力樹は、輝登に頭を下げる。
「…。ありがとうございます。先ほどはすみませんでした。」
「!?な、なんですか急に!!」
輝登は困惑している。
「さっき、私は君が役に立たないと思って戦場を離れさせました。ですが、君は戻ってきてくれた。おそらく気分を害していただろうに。それは、尊い行いです。」
輝登はただただ圧倒されている。さらに力樹はその姿勢のまま言葉を紡ぐ。
「どうか、私に力を貸してくれませんか?」
輝登は吹き出す。
「ふふっ。気にしてませんよ。任せてください。頑張りますから。」
言い終えて、輝登は銃を構える。チャキッという軽快な音と同時にリロードが完了する。
「帰ったら、近接戦闘教えてもらえますか?あの入団試験で僕たちを圧倒したような。」
その頼みに、力樹はふっ、と相好を崩す。
「ええ。お安いご用ですよ。」
2人は男を追い詰めるため、計画を練り出したのだった。
◆ ◆ ◆
貴船神社にて。真名が、入口の鳥居の下に倒れている。おまけに右手が千切れとんでいる。目に入ってきた衝撃の光景に呆然としていた澪とつばさは、はっと我に帰った。
「真名さん…!?なんでこんな…」
つばさが駆け寄り声をかけても、反応はない。意識がないようだ。つばさに澪が話しかける。
「京都水族館付近の本部まで運ばなきゃ…!」
「そこまで辿り着けるかな…」
つばさが不安そうにすると、澪が言う。
「絶対大丈夫。ゆっくりでいいから、確実に助けて。」
その言葉が、なぜか自分は行かないかのような響きを含んでいて。
「…澪ちゃん??」
「私は、こうなった原因を探りたい。」
即座につばさは目を剥く。
「危ないよ!?」
「大丈夫だって。ちょっとでも危なそうだったらすぐ引き返すから。」
つばさは食い下がる。
「…!!いや、ダメ。私が行く。澪ちゃんが真名さんを運んで。」
「無理だよ。体格が違いすぎるもん。大丈夫。信じて。」
そこまで言われて、つばさは渋々頷く。
「…。……。わかった。絶対すぐに戻ってくるから。」
それを聞いて澪は安心したように微笑み、振り返って進んでいった。つばさは、真名をお姫様抱っこして、駆け出す。
「ぜったい…助ける!!!!」
つばさの足音が遠ざかるのを確認した。澪は目を鋭くする。
(この気配…相当ヤバいやつがいる。これで片道徒歩数時間のところに避難させられた。万一のことでもあると朔も泣くだろうし、これでよかったんだ。)
「おーちゃん。一緒に頑張ろう。」
横からスルッと生えてきたおーちゃんがぶんぶんと揺れる。成長期なのだろうか、すでにもう長さと太さが成人男性の倍ほどである。
2人(1人と1手?)は、周囲を警戒しながら進む。時折木々がざわめき、澪を不安な気持ちにさせる。
「わぁ…すごい…。」
有名な、左右に赤い灯籠がある石段に差し掛かった。人一人っ子いない中のこの風景は、澪を厳粛な気持ちにさせる。
澪は、階段を登り始める。その姿を見つめる『ナニカ』がいることには気づかないまま。
▲ ▲ ▲
白髪にツインテールの万里亜と赤髪のセンター分けの伐、そして黒髪のソフトモヒカンの一仁は、崇徳上皇の霊廟のある白峯神社にいた。
「わあ…入った瞬間、ものすごく良くない雰囲気を感じるね⭐︎」
「うるせぇぞそこ。いつどこから出るかわかんねぇぞ…!」
「集中しなきゃな。」
何故かはしゃぐ万里亜に一仁が注意を促し、伐が気を新たにする。
住宅が建ち並ぶ街並みであるのに、あたりはしんとしている。櫻田姉弟や美羽、『光耀』のメンツによる避難誘導がうまくいっているのだろう。これで思う存分戦える。
その時、周囲に黒い靄が溢れ出す。
「!?」
「なんだ…!?」
一番門の近くにいた伐に、その靄が集約される。伐は崩れ落ちる。万里亜が駆け寄ろうとして、すぐに飛びすさり距離を取る。
「おい?どーしたよ?」
一仁が当惑すると、万里亜が真剣な顔で答える。
「今…変な揺れが…。微弱だけど…。」
そして、伐が立ち上がった。しかし彼は自身の武器である槍を何処からか取り出し、こちらへ向かってくる。目を見ると、赤黒く光っている。
「正気を失ってやがんな…」
「崇徳上皇の呪い…ってことかなあ?」
「ハッ!自分は姿見せずに、いいご身分だぜぇ!!」
一仁はそう言って2丁小銃を構えるが、万里亜が即座に制止する。
「当たったら死んじゃうでしょお?ここは任せて、なんかこう言うの得意そうな人呼んできて。」
「時間稼ぎか。わかった。やられんじゃねえぞ。」
その言葉に万里亜はサムズアップ。一仁は駆け出す。万里亜は鉤爪付き鉄甲を取り出し、両手に装着。
「これで槍ぐらいは…捌けるよね?」
伐が踏み込んでくる。槍の穂先に手の甲を合わせて流す。そのまま距離が縮まったので、伐の腹部を蹴り上げ、遠ざける。
「私はキミなら本気で殴れるよ。覚悟しな⭐︎」
そこから神社の中では、鋼の饗宴が行われたのだった。
▲ ▲ ▲
真名を抱えたまま走ってきたつばさだったが、息が完全に上がってしまった。
「早くしなきゃ…っ!!澪ちゃんが…死んじゃう…!!」
つばさはまた無力感に苛まれかける。いや。
「まだ…諦めちゃダメだ!!結果なんて誰も分からない!!!がんばれ、挫けるな私!!」
肩から近くの電柱にぶつかる。痛い。でも、思考はクリアだ。行くしかない。
「行こう…!!」
かくして、つばさはついに大通りまで出ることができた。その時。
「おい、アンタ!!なんか大変そうだけど、助けてくれねぇか!!」
横から声をかけられる。見ると、おじいさんがシャッターに挟まれかけており、それがおじいさんを押しつぶす寸前で40代くらいの男性がシャッターを持ち上げている。しかしおじいさんは足が不自由らしく、出てこれない。
「俺だけじゃ…持ち上げるだけで…限界だ!!頼む!!!」
「!!!わかりました!!もう少し頑張ってください!!!」
つばさは真名を近くの壁にもたれかけさせ、男性のところへ。
(ごめん真名さん。すぐ戻るから。)
しかし、引きずるのは流石にダメである。
(そうだ!!)
つばさは自分の武器、薙刀の柄を、器用に3等分に折る。
「おじいさん!!私が言う部分だけ力入れて、数センチ持ち上げてください!!」
おじいさんが頷くのを見て、指示を始める。男性はつばさのしようとしていることがわかったのか、もう少しシャッターを持ち上げてつばさがギリギリ入れる隙間をかろうじて開ける。つばさはそこから奥に手を伸ばす。
「1、腰!!」
おじいさんはなんとか尺取り虫のように上げる。つばさはなぎなたの柄をその隙間へ。
「2、お腹!!」 「3、胸!!」
同様にして差し込む。
「これで…!!」
なぎなたの柄が車輪の役目を果たす。つばさはおじいさんの手を引く。ころころころ…とスムーズにおじいさんが出てくる。と同時に男性も限界を迎えたのかシャッターを手放す。彼は荒い息でつばさを誉める。
「すごいなアンタ!!賢いんだな!!!」
つばさは照れるが、すぐに我に帰る。
「じゃあ、私はこれで!!怪我人がいるので!!お気をつけて!!!」
つばさは去ろうとするが、男性が呼び止める。
「あ、待って待って。なら、俺の車使おう。」
つばさは虚をつかれた顔をする。車という手段があったなんて。男性にお礼を言い、おじいさんと真名を後部座席に乗せる。つばさは助手席に、男性は運転席に座る。車が発進する。
(よ…よかった…!)
安堵するつばさに、男性が話を振る。
「なんかこの辺というか京都全体に避難勧告が出てるらしい。ガス漏れ事故なんだってさ。」
「そ…そうなんですね…!」
そんなふうにぼかしているのか。
「で、俺も逃げようと思ったんだけど、外出たら向かいの店のシャッターが誤作動してたのかで閉まりかけててさ。」
「なるほど…。でも、そういうのって人力で上げられるんじゃ…」
「いや…俺もそうだと思ったんだけど、セキュリティの問題なのかすんごい重くてさ。」
「ああ…。それはそうと、助けていただいて本当にありがとうございました。」
「なんてことないさ。こちらこそ、だしね。それよりドライブ仲間ができたことの方が大きいね。…後ろの女性、すごい怪我だね。なんかの事故?」
「…。そんなところです。」
「そっか。ごめんな、あんまり突っ込むつもりはなかったんだけど。さっき普通になぎなた取り出してたからびっくりしてね。」
(…軽率だった…!!)
つばさは軽く反省する。だとはいえ、ここまでしてくれる男性を騙し続けるのは心苦しい。つばさは声をひそめる。
「あの…!今からすごい荒唐無稽なこと言うんですけど、茶化さないで聞いてくださいね。」
その勢いに若干引いている男性だが、話を続ける。
「京都って歴史ゆかりの地が多いじゃないですか。実は、それでなんか幽霊がいっぱい出てるんです。それが人に危害をなすから、討伐しないといけないんです。」
「……!そうなんだ。それで神主みたいな格好なのか。…人知れず人の役に立っている人がいるんだな。ありがとな。」
つばさは男性の優しさに感動する。
「俺のじいちゃんがなんかそんな人たちがいるって言ってたの、今思い出した。本当に、いたんだな。それはそうと、その脅威はまだ残ってるのか?」
「ええ。まだ、いかなきゃいけないんです。」
その答えを聞いた男性は、ふっと微笑み、前を向く。ハンドルを強く握り、アクセルを吹かせる。すごい振動が走る。
「そうか。それなら…急がなきゃなあ!!!」
周りに人が皆無なので、赤信号もなんのその。男性はどんどん車を加速させる。つばさはビビりながらも、目的地だけ伝える。
「…京都水族館までお願いしますぅ…!!」
「ハハハ!!!任せろ!!全開全速だ!!!」
目が血走っていてすごく怖いが、これならば予定より早く着けそうだ。
「運転にはなぁ…自信があるんだよ…!!!」
言いながら彼はドリフトを決める。確かにすごい。
「見えてきたぞ!!!あれだな!?」
つばさが左手を見ると、確かに小さく見えてきた。
「降りる準備始めます!!」
「あいよー!!」
そして間も無く、京都水族館に着く。男性は車を乗り捨て、おじいちゃんをおんぶする。
つばさは真名をお姫様抱っこし、準備は万端。2人は走り、退霊師団特設本部にたどり着いた。ドクターの郁が出迎えてくれる。
「おーつばっち。どしたん?…ってうわ!!真名タンがえらいことに!!!」
つばさは説明する。
「なんか腕がえぐり取られてるんです。周囲には腕は落ちてなくて。」
「そーか…ならくっつけるのは無理そうだねつばさしゃん。」
明らかに今する質問ではないと思いつつも聞く。
「…なんでいちいち呼び方変わるんですか?」
それに郁が答える。
「ああ、私ノリとフィーリングで生きてっから。おっけー、真名ちゃんは預かるわ。いってらっしゃい!!」
「ありがとうございます!!…それと、避難所って何処ですか?このおじいさんと男性を送らなきゃ…」
そこで郁は初めて男性の方を向く。そして少し驚いた顔をしながら、場所を教える。男性は場所さえわかれば行けるといい、おじいさんを連れて行った。
「…ねえ、あの人と知り合いなの??」
残された郁がつばさに聞く。
「?いや、行きずりですけど。」
「えー!!あの人有名なプロレスラーの御厨久遠だよ!!!」
「え!!」
確かにつばさも名前は聞いたことがあった。顔はわからなかったが。
「サインもらっときゃよかったーー!!」
叫ぶ郁をよそに、微かな違和感を残したまま、つばさは本部を後にする。そこでつばさは思い出す。
「…!!!澪ちゃん!!」
そうである。あまりモタモタしていると澪が危険だ。しかしつばさ1人では情けないことに戻っても大して変わらない。誰かいないのか。強力な助っ人は。しかし、誰もいない。本当に、誰も。
「…ッ!!」
涙が出てきた。しゃがみ込んでしまう。流すまいとすればするほど溢れてくる。その時だ。肩に手が置かれる。声がした。
「大丈夫?お姉さんが助けてあげようか?」
つばさが顔を上げると、まず目に飛び込んできたのは薄桃色の華やかな白衣。右袖だけ少し破れている。紺色の髪をバレッタでまとめたその人物は。
「陽葉…ざん…。」
「おうよ。助けにきたよ。」
つばさは、今すぐ抱きついて泣きたい気持ちを抑え込み、言う。
「…助けてください。」
陽葉は金烏を呼び出す。
「さあ行こう。助けを待つ人がいるんでしょ?」
つばさも金烏を呼び出す。
「はい。お願いします!!!」
2人は、空へ舞い上がった。つばさが聞く。
「どうしてあそこにいたんですか?」
「ああ、ちょっと怪我しちゃってね。治療してもらったの。あなたたちにメッセージ送った隙にやられちゃった。」
「…!!そういえばあれってどうやってるんですか?」
陽葉は、自分の武器『不射ノ射』について解説した。
「…!じゃあ、私が位置を指定するので、そこに撃ってもらえますか?私今武器ないので。」
「…おっけーわかった。頼むね。」
その陽葉の言葉を聞き、つばさは自分の肩を金烏に掴んでもらう。そして、右の手のひらで右の顔半分を覆う。そして唱える。
「『座標次元視』。」




