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悪逆令嬢のうろ覚え救済論(旧題:輪廻転生って信じる?)  作者: Lynx097
八章_笑顔

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421話_side_Serafina_『剣の誓い』クランハウス



 ~"討伐者の少女"セラフィーナ~



 場所を移してクランハウスの応接間。

 要するにクランを訪ねてきた外部の人への対応をするための部屋なのだけど、ここみたいな大きなクランハウスだと外部の業者?みたいな人達が出入りすることも多くて、こういう部屋もそれなりに出番があるのだとかなんとか。

 外部の人間というと、例えば他クランの同業者とかギルドの人間。こういうのはシリウスパパとかクレメンスさんが対応することが多いみたい。だけど実はそれって然程多くはなくて、圧倒的多数を占めるのは討伐者とは関係ない業種の人達。食料品や雑貨の業者だったり、洗濯屋とか掃除屋とか、つまりはクランの生活・衛生環境を整えるための人員である。こういうのを統括しているのがベルママ率いる第五グループの人達なんだけど、彼女等だけではクラン全体のお世話はとても担い切れないので、どうしても外部の手に頼らざるを得ないところは出てくるらしい。小さなクランだと否応なく全部自給自足みたいだけど、それも良し悪しだ。『剣の誓い』などは大規模クランであるが故に、外部の手を頼らなければならない弊害と、大規模クランであるが故に外部の手を雇うことが出来る贅沢を併せ持っているわけだ。

 このロイエンタールの街は、国内最大規模の黒い森を擁し、またいくつもの大規模クランが活動している拠点でもあるので、それらを相手に商売する人間も集まり、業者の選定には事欠かないのが利点だとベルママは言っていた。

 わたしも英雄伯家の一員となったからには、将来的にはこの『剣の誓い』を運営する立場になるかもしれないのだ。今から少しずつでも覚えていかなければならない。尤も、わたしの場合はそれ以前にも、それ以外にも覚える事柄は山積みで、どう考えてもこの大して優秀でもないおつむの容量をオーバーしてしまっているのが現状であった。


 さて、今日唐突にスレイさんが訪ねてきた件も、そんなわたしのお勉強に関するお話であった。

 わたしが英雄伯家の子供になった理由がそもそも、わたしの特異過ぎる魔法を悪意ある輩に利用させないために庇護する意味合いが強かった。守ってもらうばかりでよいわけもなく、わたしにとっての急務とはわたし自身を守ることが出来るようにわたし自身を鍛え上げることだ。それは実力的な意味でも、知識的な意味でもだ。

 わたしがランディーと一緒に自分らしい人生を送るために必要な、最低条件がそれ。将来の展望とか、ベルママ達やクロードさん達、そしてスレイさんへの恩返しなんかはその後で考えること。

 あとは、そう、スメラギさんのことも。


 まずは自分のこと。自分のことからだ。


 しかしながら、どうやらわたしの特異な魔法というのは本当に特殊なものみたいで、余人が教えられるようなものではないのだとか。本当の意味でわたしにしか使えない唯一無二の魔法である可能性が非常に高く、これを理解し掌握するためにはわたし自身が魔法に対する基礎的な教養を身に着け、応用的な知識を深め、自ら解き明かし理論構築をしなければならない。今のわたしにとっては考えるだけで気が遠くなりそうな話であるが、泣き言は言っていられないのだ。

 そうなると、一番の選択肢は魔法を専門的に教える教育機関に通うこと。

 所謂『学校』というやつで、わたしの人生には縁のないものだと思っていた場所だ。

 魔法を教える学校というのは王国内――というかほぼ王都にいくつかあるらしい。魔法というのが元々は特権階級である貴族にのみ許されたものだったから、魔法の学校というのは必然的に貴族の子女が通うものになる。ただ昨今は平民階級の魔法使いの数も加速度的に増加し、またそれによる血の薄まりも関係しているのか、魔法使い全体の資質というのも平均化が進んでいる。一昔前の戦乱の時代のような、苛烈にして強大な魔法使いというのは徐々に現れなくなってきて、平均的な資質を持った魔法使いが広く多く生まれるようになっているということだ。

 ちなみに自覚は全然ないけれど、わたしというのはどちらかというと前者で、突然変異のバケモノ的な魔法使いの分類らしい。勿論スレイさんもこのタイプ。お揃い。やった。

 ……じゃなくて、何が言いたいかというと学校の数はそれなりにあるけど、実質的な選択肢としては一択。王国最大の魔法教育機関である『王立エンディミオン魔法学院』しかないと言っていい。ここが一番高度な教育を受けられるという事情は勿論のこと、ダンクーガ家の家格的にもエンディミオン以外は難しいのだとか。要するに貴族的な事情であるわけだけど、今はピンとこないそういう話にも、いずれは順応していかなければならないと思う。


 エンディミオン魔法学院はベルママやシリウスパパの母校でもあるし、現在進行形でルークやリタが通っている場所でもある。ダンクーガ家の人達にとっては勝手知ったる学校と言っても過言ではないくらいなのだろうけど、しかしわたしがそこに編入するとなると少々難しい。

 問題点は大きく二つ。わたしが無学な平民であったことと、女であることだ。

 貴族社会の暗黙のマナーなんて全く知らないし、なんなら爵位の上下関係すらあやふや。五つしかない爵位の序列なんてすぐに覚えられる馬鹿にすんな、と気炎を揚げていたわたしを嘲笑うように、現実は厳しい。

 曰く、同じ爵位の中でも明確な上下関係が存在するらしい。まあわかる。一言に男爵家といっても、家柄に歴史があるところと、ぽっと出の新興だと対等とは言えないよね。それくらいはわたしでもイメージ出来る。ところがどっこい、同じ爵位だとしても派生形が存在するらしい。顕著なのが伯爵位で、まさしくダンクーガ家の『英雄伯』とか、フレンネル伯爵家の『辺境伯』とか、あとは『宮中伯』なんてのも居るらしい。つまりなんか普通の伯爵よりも強い系の伯爵ってことか……え? 場合によっては侯爵よりも強いの? なんで? しかも爵位って一人でいくつも持てるものらしい。これも例を挙げればフレンネル伯爵はバッヘル男爵でもある、という感じ。持ってる爵位のうちから適当なのを子供に与える場合があるから、子爵家の学生は伯爵家のわたしよりも家格的には下の立場だと思ったら、その父親である子爵の更に父親は侯爵でした。なんてことが現実的にある。所詮は子爵家と思って横暴を働くと、裏に控えた侯爵家が出てきて捻り潰されるわけだ。

 ……む、無理だ。わたしには無理だ。とても覚えきれない。時間を掛ければまだしも、と言いたいところだが時間を掛けても無理かもしれない。わりとそういうのに疎そうなルークやリタでも最低限の機微っていうのは身に着けてて、それってつまりわたしが自然と平民社会でのルールを身に着けて育ってきたように、貴族の家に生まれた子供が常識として自然と身に着けていることなのだ。わたしにはそれがない。

 そしてもう一つ、何故わたしが女であることが問題なのかというと、こういう家柄を笠に着たパワーゲームってのが、基本的に女の戦場であるからだ。シリウスパパやルークも言ってたけど、男子学生はそこまで神経質にならなくてもわりとやっていけるらしい。逆にベルママやリタはわたしの編入にわりと難色を示しているので、つまりそういうことだ。

 リタのお友達グループ、平民の子も居るしミリティアっていう伯爵令嬢も居るのに皆すっごく仲良しだ。ベルママや彼女等を見てると身分差ってそんなにシビアに考えなくてもいいんじゃないかなって思えて仕方ないのだけど、そのベルママ当人が言うには、むしろミリティアという女の子が例外的にいい子過ぎるだけなのだとか。普通の貴族令嬢はもっと露骨に差別をしてくるぞと。必ずしも悪意ではなく、身分を区別するという意味でも。


 今のわたしがエンディミオンに通うのがどれだけ無謀かなんとなくわかってきただろうか。

 わたしの無礼がわたしに返ってくるだけならば全然構わないのだけど、わたしが下手なことをすればそれはダンクーガ家の問題になってしまうのだ。シリウスパパは『いくらでも迷惑かけてくれていい』と笑ってくれるけど、現実的な問題はダンクーガ家を以てしても対抗出来ないような大貴族に睨まれてしまったら、ということだ。

 普通の貴族であれば『喧嘩を売っちゃあいけない』とどんな馬鹿でもわかるような相手にも、わたしは普通に無礼な真似をしちゃいそうで怖い。だって知らないから。


 エンディミオンは入学出来る年齢が厳密に決まっている。ルークと同い年のわたしが今年編入出来るのは一年生だけだ。一年間は外で勉強して、来年から一年生として入学するというのは出来ない。年代を厳密に管理するのはまた貴族的な事情が絡んでいるそうだけど、それはさておき、基礎中の基礎から魔法を学ばねばならないわたしは、編入するならば一年生から通わなくては意味がない。既に一年生は半分終わっているわけだけど、カリキュラム的に今ならまだ追い付ける程度みたい。

 で、そしたら後どれだけの準備期間があるのかというと、実はもう半月もない。

 そんなどう考えても無理っぽい状況に救いの手を差し伸べてくれたのは、やっぱりというかスレイさんであった。



「んでー? 自信ありげなスレイさん、その後どーなのですかー?」



 応接間で席に着くなり、ふてくされた様子のベルママが口火を切る。

 ベルママの隣にはわたし、対面にはスレイさんだ。



「もう、拗ねないでよベルさん」


「すねてないよー」



 誰がどう見てもご機嫌斜めなベルママの子供っぽい態度に、スレイさんは苦笑を滲ませる。しょうがないなぁとでも言わんばかりの暖かい表情で、どちらが年上かわかったもんじゃない。

 なんでベルママが拗ねてしまったのかというと、これがもうわたしのせいだ。なんでも、わたしがスレイさんにばかり構うから面白くなかったらしい。母親である自分を差し置いて、と。本当に子供みたいな理由なんだけど、ベルママがそういう人であるのはわたしもよくわかってるし、そんな彼女が好きだ。たぶんスレイさんも同じだから、あんなに優しい顔をするのだろうな。

 一頻りぶーたれた後で、気を取り直したベルママが言う。



「なんか、セラちゃんに教えてくれる先生を手配してくれるって話だったけど」


「ええ。もう打診はしてて、本当は先方から返事があってから詳しいこと話そうと思ってたんだけど」



 困った顔のスレイさん曰く、どこかで行き違いがあったのか未だに返事がないらしい。

 それって断られたってことなんじゃないかとわたしは少し思ったのだが、スレイさんの様子を見る限りはそうでもなさそう。



「ベルさんはシュヴァルツ伯爵家ってわかる?」


「ええと、名前くらいは。絡んだことはないなぁ」


「そう。そこのお嬢さんなんだけど、ちょっと変わった魔法を使うのよね」



 そもそも何故その人がわたしの先生になり得るのかという話だ。



「『死霊術(ネクロマンシー)』という魔法体系。ベルさんは勿論知ってるだろうけど、セラフィーナちゃんはご存じ?」


「はい。知ってます」



 概要くらいは、という理解度だが。

 ちなみに教えてくれたのはクロードさんだ。あのバッヘルでの戦いで、スメラギさんが見せた魔法がまさしくその『死霊術』であったらしい。わたしは死霊術そのものを知りたがったわけではなく、スメラギさんの使っていた魔法はなんなのだろうとクロードさんに訊いてみた結果ということだ。



「ほら、死霊術の第一人者って言ったら学院長でしょ? だからあの人、色々と特殊な発現の仕方をした死霊術士について知ってるとかで、シュヴァルツ家のヘルガー嬢もその一人」


「うんまあ、それはわかる。学院長先生とスレイさんの関係性については考えないことにするよ」


「ただの知り合いよ。たまに喋る」



 空笑いを浮かべるベルママの様子が気になって訊いてみると、学院長というのは文字通りエンディミオン魔法学院のトップに立っている人で、貴族的にも相当上のほうの立場の人らしい。前述通りわたしはその辺に疎いのでよくわからないのだが、そんなわたしにもわかるようにベルママが例えてくれた。



「ほぼほぼ、今の国王陛下のおばあちゃんみたいな人。つまりある意味王様よりも強い」


「ひぇ……」



 スレイさんは「ほんとにただの知り合いってだけよ」と肩を竦めているが、ベルママの顔には『ありえん』と書いてある。その学院長ってベルママが在学生だった頃から学院長だったらしいけど、だからベルママにしてみればそんな気軽に会話出来る相手じゃないと実感としてわかっているのだと思う。よく知らないわたしであっても、そんな凄い人が相手となれば、ベルママの反応のほうが正しいであろうことは流石にわかる。



「いやいや、別に人脈イキリしたいわけじゃなくてね、つまり学院長ならセラフィーナちゃんの魔法にもそれなりに理解があるだろうってことよ」


「え? わたしの魔法って死霊術なんですか?」


「たぶん似て非なるなにかだけど、今のところ『魂』を取り扱う魔法体系って死霊術しかないから、必然的に学院長が一番詳しいことになると思う」



 わたしの魔法は繋がる力。他者と手を繋ぐことで想いや技能を共有出来る、っぽい。

 なにを以てして他者と繋がっているのかという問いの答えが、魂であるということだ。



「ヘルガー嬢は『ソウルジャック』という特殊な魔法を行使できるの。これは視線を媒介にして他者の魂の中身を観測できる魔法と言われているわ」


「あ……わたしと逆?」


「そうね。セラフィーナちゃんの場合は他者を自分の魂の中に招く。ヘルガー嬢の場合は自分が他者の魂の中に赴く」



 スレイさんの表現にわたしはすんなりと納得していたが、ベルママは首を傾げていた。



「魂を観測するのが『赴く』っていうことになるの?」


「ええ。私もセラフィーナちゃんの魔法で呼ばれて初めて見たんだけど、魂って部屋の形をしてるのよ。ヘルガー嬢はそのまま『魂の部屋』って呼んでたけど、要はその魂の持ち主を象徴する景観やオブジェクトが形成する疑似空間ってところね」


「わたしの魂の部屋は、生まれ育った孤児院と、長く活動していたバッヘル支部の景色が混ざったような感じでした」


「ああ……前にちょっと話してたやつだね」



 今のところ、わたしの魂の部屋に入ったことがあるのはスレイさんとスメラギさんだけだ。手を繋いだ人は他にも居て、ランディーを始めとしてベルママ、クロードさん、レベッカさん、マクダレーナさんもであるが、彼等とは魂の部屋で会ったことはないし、ベルママ側の認識もそうだった。何故スレイさんとスメラギさんだけが例外だったのかはわからない。死霊術士としての素養の有無ではないかとも考えたが、スメラギさんはともかく、スレイさんは死霊術士の素養を持っていないと言うし。



「魂の部屋では現実と時間の流れ方が違う。魂の中でどれだけ過ごそうとも、現実では一瞬の出来事よ」


「つまり、そのヘルガー嬢を先生として魂の中で教えてもらえば、時間的な問題は解決できるわけだね」


「そういうこと。ついでに言えば、ヘルガー嬢本人はなんというか、あんまり他人にモノを教えることに向いている感じの女性じゃないのだけど、魂の中でならそれも解決できる。上位法則である魔法モデルすらも正しく伝達できる場所だからね」


「でもさ、だったらスレイさんが教えてくれればいいんじゃないの?」



 だって入れるんでしょ、とベルママは疑問顔だ。

 確かにわたしもそれを考えた。少なくともスレイさんがわたしの魂の部屋の中に入れるのは実績があることなのだから、わざわざ別の先生を呼ばなくとも彼女に教えを乞えばよいのでは、と。

 残念ながらそれを断念せざるを得なかったのは、偏にわたしの事情であった。



「あの、できないんです」


「あれ?」



 おそらくだけど、バッヘル領の時は皆の命が掛かった極限状態だったので、火事場のなんとやらで色々上手くいっただけだったのだ。

 本来、魂を以てして繋がるというのは簡単なことではない。裸を晒すことよりもなお、お互いの本質を晒し合う行為なのだから。言い方はあれだけど、バッヘル領の時は皆命懸けで、形振り構っていられる状況じゃなかったから、むしろこれ以上なく素直に繋がることが出来たのだと思う。

 勿論、あの時手を繋いでくれた彼等との絆は今もちゃんとここにある。だけれど絆を確かに感じても、それを手繰ることが出来ないのはわたしの技量と理解度の問題なのだとわかっている。精々が、こうして近くに居れば簡単な魔法を借りることが出来る、という程度。


 あと、これは余談だけど、先程ベルママが拗ねていた件について。

 わたしからスレイさんに対する好感度が高過ぎるというのは、実のところわたしにとっても予想外のことであり、同時にベルママに対しても同じことではある。スレイさんに対しては出会った当初の、思い出すだけでも死にたくなる対応の黒歴史があったので、正直こんな風になるとは自分でも思えなかったのだけど、今となってはわたしは彼女への愛情を表すことに一切の躊躇がない。

 これはベルママが相手でもそうだし、ランディーとスメラギさんは勿論、クロードさんでもレベッカさんでもマクダレーナさんでもそうだ。

 何故って、彼等がわたしと手を繋いでくれたのは極限状態だったからという事情はあれど、それは難易度の問題だけであって本質は極限状態であろうがなかろうが変わりはしない。

 要するに、わたしと手を繋いでくれた彼等は、わたしにとってこの世で一番信頼出来る相手に他ならないのだ。彼等がわたしの手を取ってくれたのは、彼等が本質的にわたしの味方をしてくれる人であるということに他ならないから。スメラギさんのように立場上敵対していてもそれは変わらないし、当然相手によって接し方の違いはあれど。飾らずに言えば、なにもスレイさんが相手でなくても、わたしは手を繋いでくれた人達が相手であれば誰に対してもデレデレなのである。



「とまあそういうわけで今のセラフィーナちゃんは能動的に他者を魂の部屋に呼び込むことができないから、ヘルガー嬢の出番ってわけね」


「なるほどね。いやーそっか、でも残念だなぁー」



 意味ありげな笑みでベルママがスレイさんを見遣る。

 スレイさんは訝し気に眉を上げた。



「今この場で私も一緒に魂の部屋とやらに入れたら、偶然にかこつけてスレイさんの素顔を拝めたかもしれないのに」


「ふふ。それは残念だったわね」


「ねねってかもうよくない? アヴァター解除してよ誰にも言わないからぁ」


「やでーす」



 おねだりモードのベルママに、スレイさんは取り付く島もない。

 魂の部屋の中では本質を偽ることが出来ないから、スレイさんの姿も今相対しているアヴァターのそれではなく、アヴァターを解除したアンジュさんのそれになるのだ。ちなみにこれは誰にも言っていないことだけど、なのでスレイさんことアンジュさんと妹のリスティさんが本当の姉妹ではないということもわたしはなんとなく理解していた。



「確か、スレイさんの素顔は東方風の異国美女っていう話だったね」



 温泉施設で彼女に会った時にそんな話を一度しているので、それを思い出しつつベルママが言う。

 便宜的にアヴァター姿をスレイさん、解除した姿をアンジュさんと呼ぶことにすると、スレイさんとアンジュさんは面立ち自体は殆ど変わらなかった気がする。顕著な違いは色彩で、スレイさんは見事なブロンドヘアに青系の瞳、白皙の肌という典型的な西方系の美女だけど、アンジュさんは髪も瞳もシックなダークブラウンで、肌の色味も少しだけ深みがあった。

 例えるなら、



「あの人に似てます。ラクサーシャさん」



 少し前からこのクランハウスに滞在し始めた訳ありの女性だ。わたし自身は交流もないけれど、彼女の顏はよく覚えている。あまりこういう言い方はよくないけれど、四肢を失っている彼女の姿は見る者に強烈な印象を与えるので。それでいて本人が相当な美女であるというのだから尚更である。

 わたしの言葉にベルママはスレイさんを見て、その姿にラクサーシャさんのそれを重ねてみてなんとなくイメージが固まったのか、得心したような顔をしていた。

 わたしがベルママに向けて言ったつもりの例えに、スレイさんが反応する。



「ああ、シスターの片割れか。確かに、そこそこ似てるかもね」


「あれ? スレイさんもラクサーシャさんをご存じなんですか?」


「ご存じもなにも、彼女をここに連れてきたの、スレイさんだよ」



 そうだったのか。全然知らなかった。

 一体どういう事情があったのかと好奇心で少し考えてみようとして、なんとなくスレイさんの顔を見る。

 ん? とでも言うように小首を傾げて微笑んでくれるスレイさん。



「まあ、スレイさんだしなぁ……」


「え?」


「そうだよね。スレイさんだもんね」


「え? えぇ??」



 うんうん、とベルママと頷き合う。

 わたし達の言葉にスレイさんは、今日何度目かもわからない困惑顔を見せるのだった。



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