419話_side_Primrose_ギルド支部
~"転生令嬢"プリムローズ~
「じゃあ、明日にはもう発つんだ?」
ギルド支部にて隣を歩くシィナに言うと、彼女は申し訳なさそうに目を伏せて肯定した。
「このような状況で、と思うのですが……」
「まあ、しゃーなしじゃん? お勤めも大事よ」
なんの話かというと、約一週間後に開催を控えた第一王子殿下のお誕生日パーティーの話である。王宮で開催されるそれに参加するため、シィナはお付の二人を連れて王都に向かわなければならないのだ。ここから王都は馬車鉄道が直通なので移動には一日も掛からないだろうが、当然、パーティーに参加するためには色々と準備が必要なので、早めの行動が求められるわけだ。
別に参加義務があるというわけではないのだが、逆に言えばシィナことイオちゃんが立場的に参加しない理由もまたないのだ。私やイオちゃんの生家である四大貴族とは元々建国時からの王家の盟友である一族なわけだが、四家の中でもフレンネル伯爵家は王家と昵懇の仲である。現王太子である第一王子殿下の祝い事に、次期フレンネル伯爵夫人であるイオちゃんが現れないというのは要らぬ詮索を招くことだろう。なんせ、貴族社会の暇な連中って、そういう勘繰りが大好きだから。なおフレンネル伯爵家は女系の一族であるので、イオちゃんは爵位を継承しないが家督の継承者であるというちょっと複雑な立場だったりする。
ここ最近のロイエンタールの緊迫した状況を放り出して王都に向かわなければならないということに意気消沈するシィナを宥めていると、後ろを歩いていたストラトスことレキちゃんから意味ありげな視線を感じた。
「なにかなストラトスくん?」
「いえ。その、随分他人事のように仰るなぁ、と」
肩越しに振り返った私に対して、どことなく気まずそうにストラトスが言う。
いやまあ、言いたいことわかるよ。要するに『お前も四大貴族やろがい!』ってことでしょ?
敢えて言うことでもないけど、勿論私は王都に向かうつもりなんて更々ない。一応、実家のお父様のところには王家からの招待状が届いているだろうが、まあお父様のことだから笑ってシカトするだろう。なのでお父様から子供達にああしろこうしろと指示が飛ぶことはないだろうが、別に参加することを咎められることもないはずだ。私の予想では、たぶん上のお兄様くらいは参加するんじゃないかな。お兄様は次期アシュタルテ侯爵という立場だし、彼には彼なりの流儀があるだろうから、必ずしもお父様の流儀を踏襲する気もなさそうなのだ。
他に気になるといえば、英雄伯家の面々はどうするつもりだろうか。例年通りならばダンクーガ伯爵閣下つまりルークパパから祝電でも送ってヨシとするんだろうけど、セラフィーナちゃんを学院に通わせたい云々の話もあるから、もしかしたらベルさんあたりが王都に遠征してついでに顔出してくるのかもしれない。
そんでもって、セラフィーナちゃんの特別講師として手配したキノコちゃんだけど、私が送った手紙のお返事全然来ないなぁ。彼女は一応実家に帰省するつもりだと言っていたので、シュヴァルツ伯爵家宛てにアンジュ名義で送ったのだが、なんかのアクシデントで届いていなかったりするのだろうか。キノコちゃんに届くまでに誰かが読む可能性もあるから内容は当たり障りなく暈したけれども、キノコちゃんだからこそ通じる表現もあるし、彼女ならちゃんと読み取ってくれると思う。私達仲良しだから(迫真)。
「ほらシィナ、いい加減に元気出そうよ。残念なのはわかるけどさ」
「はい……」
と、ロアことソシエくんに一生懸命元気づけられてなお、中々シィナの顏は上向かない。
どんだけ残念なのよと若干の呆れが過らないでもないが、ちゃらんぽらんな私などとは違ってシィナは責任感の塊みたいな女の子だから、余計に途中離脱する自分が許せないのだろう。スケジュール的に考えれば、王都のパーティーを終えたらすぐに学院の新学期が始まってしまうので、たぶんシィナ達がここに戻ってくることはないのだ。私はギリギリまでここで活動するつもりだが、新学期に間に合うように王都に向かうつもりであるのは言うまでもない。
あるいは、ここでの活動でなんの成果も出せていないことを気にしているのかもしれないけど、私に言わせればそれって普通のことだ。こういう調査活動って長期のスパンを覚悟で臨むものだから、焦ったってしょうがない。私自身、この休暇中に全部が片付くとは微塵も思っていなくて、私が学院に戻った後はそのままハイメロート達に調査を継続させるつもりで動いているのだ。
まあ、などと理屈を説いてもシィナの心は晴れないだろうから、ここは一つ。
「残念かー。そっかー残念だなぁー」
めっちゃわざとらしく声を上げた私に、シィナを含めた三人の注意が向くのを確認してから、私は言った。
「パーティーに出るってことは、シィナも着飾っておめかしするんでしょう?」
「え、ええ。それは勿論」
「見たかったなー。可愛くて綺麗なシィナが、もっと素敵になるとこ見たかったなー」
その光景を想像しながら私が本心で告げると、シィナの頬がわかりやすくぽぽぽと染まる。
「やっぱり前の夜会の時みたいなドレス着るの? あれ本当に素敵だったわ。やっぱシィナの黒髪だと東方風の意匠が映えるもんね。前にも言ったけどほら、私って黒髪が一番好きでさ。でも私自身はこんなだから、シィナのこと見るのが一番楽しみっていうか」
「ストップストップすとーっぷ!!」
ロアに止められてなんじゃらほいと視線を向けると、そこにはいつぞやの如く真っ赤に染まったシィナの姿が!
いや、なんかこの子結構しょっちゅう真っ赤になってる印象あるけど、あれかな赤面しやすい性質なのかな。
シィナは両掌で頬を押さえて必死に冷却しながら、
「ご、ご容赦ください。スレイ様……そのように仰られては、このシィナ、し、幸せになってしまいます……」
え、なにその反応。
「貴女ちょっと可愛過ぎない?」
「はうっ」
「可愛いなぁほんとシィナ可愛い」
「はううぅ~」
「お待ちくださいスレイさん! これ以上は死んでしまいますっ!」
そんな大袈裟な、と言いたいところだけど私を制止するロアとストラトスがあまりにも迫真の顔をしているから、ここは大人しく従っておくことにしよう。
前々から思ってたけど、シィナって褒められることに耐性無さ過ぎひん? こんなに素敵な女の子なのに、なんで周囲はもっとその素晴らしさを言葉にしないんだ。まあちょっと素敵過ぎるというか高潔過ぎるというか、とにかく気軽なことを言えないっていう周囲の気持ちもわからなくはないけれども。
だが私は言いたいことを言わせてもらう。何故なら私は自重しないことに定評があるアシュタルテ侯爵家だから。
「すぐに真っ赤になっちゃうシィナも可愛いから、これはこれでいっか!」
「~~~~っ」
「……ほんとにお嬢様死ぬんじゃなかろうか」
ん? ストラトスなんか言った?
なんだか幸せそうに頬を緩めているシィナ(かわゆい)と、対照的に何故か疲れた様子の二人を疑問に思いつつ、私は口を開く。
「というわけで、一緒に行けない私の代わりに、シィナの晴れ姿をちゃんと写真に収めてきてよね」
「勿論です」
ふんすっ、と胸を張ったストラトスの顔には『言われるまでもない』と書いてある。
「これは気合を入れて臨まないとだね……!」
「ええ。スレイ様に情けない姿をお見せするわけにはいきません……!」
とロアに見事に乗せられて、シィナもやる気が出たようでなによりである。
ちなみに写真が欲しいのはガチである。ロハで寄越せなどというみみっちいことは言わない。ちゃんと購入費の予算組んどくんで、そこんとこよろしく。
どうせならシィナことイオちゃんだけじゃなくてレキちゃんとソシエくんも含めたスリーショットでお願いしておこう。二人だって当然着飾って参加するのだろうから、おめかしした美少女三人が並んだお写真とかそれだけでご飯三杯いけちゃうお宝ってもんですよぐへへ
「――――気持ち悪いんだよッ!!」
ごめんなさい! と条件反射で謝ってから、別に私が言われたわけではないと気付く。
なんで謝ってるんですかと呆れた半眼を向けてくるストラトスには努めて気付かない振りをしつつ、怒声が飛んできた方向を窺う。人の多いギルド支部には今日も多くの討伐者が行き交っていたが、がやがやと騒がしかった周囲もその怒声の一瞬だけ戸惑ったように音が引いたようだった。
声の主はおそらく女性で、最初の一言を皮切りに続けざまに聞こえてくる罵倒の数々から察するに、一人ではなく集団だ。
討伐者の社会では喧嘩沙汰なんて珍しくもないが、どうやらこれは違いそうだ。囃し立てる声の有無とか、怒声の内容とかでも、結構わかるんだよね。所謂『ああいつものか』で済ませていい事態かどうかって。そうでなかったから、きっと周囲の人達も一瞬注意を向けたのだろうし、これがいつもの喧嘩だったらたぶん私達も反応せずに通り過ぎている。
聞こえてくる声はどれも女性のそれで、『キモい』だの『変態』だの『寄るな』『失せろ』と口汚い罵倒のオンパレードだ。
「尋常ではありませんね……」
少し前までの可愛らしい紅潮が嘘のように凛とした雰囲気に戻ったシィナが、柳眉を顰めて呟く。
巻き添えや藪蛇は御免とばかりに騒動の中心から人波が離れ、空いた隙間に身を投じて私は様子を見てみることにした。
そうして目にした光景を一言で表現するならば、集団リンチである。
怒声の主である女性討伐者の集団が、寄って集って一人の人間を嬲っているのだ。こんな往来の真ん中で、どうしてそんな事態に発展したのかわからないが、異常なまでにヒートアップしていて、シィナの言う通り尋常ではない雰囲気だった。
彼女等が罵りながら蹴り付けている相手は、地面に蹲って必死に身を守っているたぶん中年くらいの男性討伐者のようだ。既に決して軽視出来る暴力ではないが、最低限の理性くらいは働いているのか女性達は得物を抜いてはいない。
ただ、この狂乱を見る限りは、それも時間の問題な気がしてならない。
流石にまずいと止めに入ろうとしている人も少なからず見られるが、女達の剣幕が凄まじいのと、彼女等が十人規模の集団であること、そして事が起こった経緯がわからないこともあって、誰もが踏み込みあぐねているような印象だった。
というか関わりたくない一番の理由は、女達が揃って身に着けている緋色の装備か。
最近は悪い意味でも名を馳せつつある『赤原同盟』の所属であることを示すものだ。
「シィナどうする――ってもう居ないし」
隣の彼女に訊ねたつもりが、そこには黒髪の少女の姿はなく、視線を前に戻すと当然のように騒ぎの中心に踏み込んでいく凛とした背中が映った。お付の二人も若干慌ててその背を追っており、私だけが出遅れた形である。
まあ、シィナだしなぁ。
義侠心の塊みたいな少女がこの状況を見過ごすわけもなし。自分達がここに居る目的を思えば目立つような真似は控えるべきなのだが、そうとわかっていても立ち向かわざるを得ない彼女の人間性を、私は尊敬するし好ましく思う。
シィナはまず愛刀を抜くことなく、片手で場を撫ぜた。
熱くなり過ぎた狂乱の空気を吹き散らすように駆け抜けた淡い疾風が、女達を僅かに押してたたらを踏ませる。まるでどこかのご隠居のように背後に二人のお付を控えさせた彼女に、一斉に視線が集まった。
「少し落ち着きましょう。目に余ります」
女達は一瞬呆気にとられたように動きを止めたが、すぐに剣呑さを取り戻して口々にシィナへと言い募る。
曰く、この男は罪人である。
虐げられて当然のことをした。
恥知らずの変態だ。
自分達の仲間の少女に付き纏って生活を脅かす悪だ。等々。
要するに、そこで蹲っているおじさんはストーカーの変態野郎だからリンチされて当然だし、自分達は正義の鉄槌を下している正しい立場なのだと主張したいわけね。
なおも言い募ろうとする女達に、シィナは片手を翳して黙らせる。女達にしてみれば所属も知れない未熟な少女でしかないシィナであるが、彼女の血統と義務に対する自覚が齎す風格が、そして実力に裏打ちされた貫禄が自然と伝わるのか、シィナの一挙手一投足がただそれだけで場の空気を掌握していた。
「諸姉の正統性など問うておりません。見苦しいので抑えなさいと申し上げています。きょう日、猿でももう少し品がありますよ」
うーんこの天然舌鋒。まさしくフレンネル節って感じである。
ただ、ここでそれを出すのは少しばかりよろしくない。これでキレたら自らが猿以下であると実証することになるので、プライドを拗らせた貴族相手ならば効果覿面なフレンネル節だけど、現在相対している女達はおそらくシィナが思っているほどに教養もなければ賢くもないのだ。
「ガキが……舐めてんじゃないよッ!!」
案の定、女達の一人が激昂して剣を抜き、他の面々も触発されたように得物を構える。
その短絡的な反応にシィナは微かに面食らったようだが、慌てることなく対応し、愛刀の柄に片手を掛けた。ストラトスとロアも臨戦態勢を取り、俄かに一触即発の空気が流れる。
というわけで私はシィナ達に視線が集まっているのをいいことに、こっそり転移して被害者のおじさんを救出することにした。
時間を停滞し、女達の真ん中で地面に倒れて丸くなっていたおじさんの傍らに移動する。お馴染みのなんちゃって転移である。ここであんまりこれやると、どこからともなく主人公ちゃんが笑顔で走ってきそうな気がして戦々恐々なのだが。
「大丈夫? ミスタ」
おじさんの傍らに屈み込んで安否を窺うと、そこで初めて私の移動に気付いた女達がギョッとして振り返る。こっそり転移もなにも、おじさんが女達に囲まれてるんだから、まあこうなるよねっていう。
ちなみにおじさんも討伐者ということで身体を鍛えていたおかげか、深刻な負傷はないようだ。執拗に殴る蹴るに晒されたせいか、無事なところを探すほうが難しい有様ではあったが。
女達は葛藤するような素振りこそ見せたものの、結局それ以上なにをするでもなく得物を納めて足音荒く立ち去っていった。ビビってくれたようでなにより。わざわざイキり転移して格の違いを見せつけた甲斐があったというものだ。私もシィナも明らかに腕が立つ魔法使いだとわかっただろうから、流石に魔法使いに喧嘩を売らない程度の賢明さは残っていたということか。
首を突っ込んでしまった以上、傷付いたおじさんを放り出して帰るわけにもいかないので、私達は野次馬の視線を逃れるために場所を移して、彼の手当てがてらに事情を訊いてみることにした。
で、結果。
私達はギルドから出て、それなりに人通りのある道の適当なベンチにおじさんを座らせて応急処置をしていた。といっても水魔法使いのストラトスが簡単な治癒魔法を施すだけであったが。
「ほーん。娘さんなんだ」
私の言葉におじさんは頷く。
中年になっても現役で討伐者を続けているということは、どこぞの英雄伯のような実力者であるか、あるいは細々と生計を立てている生活討伐者であるかだ。このおじさんは意外と言っては悪いが前者のようで、集団リンチに遭いながらも大きな傷を負わなかったのは、きちんと急所を守っていたことと、そもそもの鍛え方が実戦に即したものであったからだ。
しょぼくれて背中を丸めた姿は小さく見えるが、実際かなりガタイが良くて、そこそこ私好みな男くさい風貌をしている。
「では貴方は、実の娘に会おうとしただけなのに、あのような目に?」
「ああ。俺にもなにがなんだかわからないんだ」
どうもこのおじさん、実の娘が『赤原同盟』に所属しているらしい。討伐者同士で結婚して子供を授かったが、不幸にも奥さんは活動中に帰らぬ人に。以来男手一つで娘さんを育て、そんな親の背中を見てきた娘さんもまた討伐者を志す。とまあ、この界隈ではわりとよくある家族の姿だ。
それで『赤原同盟』に参加出来たということは、娘さんはそれなりに優秀だということなのだろう。
「ここのところ、あのクランちょっとおかしいだろ? だから娘からも『あまり会わないほうがいい』って言われてて、まあそうしてたんだ」
「賢明な判断ね」
「ああ。ほんと俺に似なくて賢いヤツでな……じゃなくて、だけど俺は父親だし、娘は心配だし、今はまだ俺のほうが稼ぎもいいから、たまには会って食事したり、なんか買ってやったり、してたんだよ」
ちょくちょく親馬鹿が入るが、話を聞いている限りでは、普通に仲の良い親子という感じだ。
だけど、とおじさんの顏が暗くなる。
「だがいつの間にか、本当に意味がわからないんだが、俺が娘に付き纏う変態ってことになってて。その頃からクランの連中にガードされて娘とも会えなくなって」
「先程の女性達も、そのようなことを言っていましたね」
「あの女達は娘の同僚とか先輩だろうから、アイツを守ろうとしてくれただけなのかもしれないが……おかしくないか? 俺は父親なんだぞ?」
「それは、彼女等には?」
「そりゃあ言ったさ! 聞く耳もってくれなかったけどな!」
シィナとロアが困ったように顔を見合わせる横で、私も頭を悩ませる。
おじさんからの一方面の情報しか聞いていないので事実を断定は出来ないが、彼が出まかせを言っているようにはとても見えない。というか、先程の女達の様子と、今目の前に居るおじさんの様子を見比べると、どう見てもおじさんのほうが理性的だ。
「今日は、何故あのようなことに?」
「娘に会えるはずだったんだ。俺は危ない奴だと思われてるから、一人で会わせることはできないけど、クランの人間が立ち合う場でなら会ってもいい、ってな。さっきあの場に居た女の一人が言ってきたんだ。正直、何様だふざけんなって思ったけど、とにかく娘に会えれば誤解を解いてもらうこともできると思って……」
「ノコノコ出ていったら袋叩きにされた、と」
酷い話だ。そうなると、もしかすると娘さんは全く関与していない可能性すらある。
気になるのは、何故おじさんがそこまで目の敵にされるのかということと、そもそもなんでストーカーだと思われてしまったのかである。ただ、それを訊こうにも、
「そんなの俺が知りたいよ……」
「だよねぇ」
「アイツ等本当に聞く耳ないんだ。俺が父親だと言ったら『そんなわけない』、娘に確認してくれと言ったら『騙されないぞ』、じゃあしばらく近付かないことにするとこちらが折れたら『許さん報いを受けろ』と来たもんだ」
彼の語る女達の反応になんだか既視感があるなと思ったら、あれだ。修道士。
自分の信じているもの以外は事実ではないし在ってはならない、という典型的な狂信者の思考回路ではないか。特に、その娘さん本人が実在していて、確認を取れば即座に明らかになる程度の事実を、頑なに確認しようとしないあたりがそれっぽい。
無論、このおじさんのほうが自身を父親だと思い込んでいる狂信者であるという可能性だって現状では否定出来ないのだが、私の勘は違うと言っている。この勘はそれなりに信用出来ると思っていい。なにせ私には幾度となく狂信者とやりあってきた実績があるし、ことサイコストーカー野郎に対する嗅覚には自信がある。
一回殺されてるので。
そんでもって、彼の話の裏取りは簡単だ。
別の伝手から『赤原同盟』内部の娘さんに掛け合ってもらえばいいのである。おじさんにはその伝手がないので先程の女達を通さねばならなかっただけで、だから話が拗れるのだ。
尤も、その伝手を得るのが簡単ではないという話かもしれないが。
「シィナ達、『赤原同盟』に知り合い居る?」
「女帝のお孫さんのフレデリカさんとは仲良くさせていただいております」
「お、おう」
はい勝った! 人脈強過ぎて草!
と言いたいところだが、中々うまくはいかないもので、
「ですが現在、彼女は病に臥せっているそうで、会うことが叶いません」
肩透かしを食らった形のおじさんががっくりと肩を落とす。
悪いことをしたと思ったのか、シィナが申し訳なさそうにフォローの言葉を続ける。
「わたくし自身は面識がありませんが、フレデリカさんのパーティーメンバーの女性と、わたくしの知り合いが友人関係だと聞いています。紹介することくらいは可能かと」
なんだか迂遠な物言いだが、こっそり誰のことか訊いてみると、どうやら主人公ちゃん達のことみたいだ。
それを聞いた私は、少し考える。主人公ちゃん達、今はベルさんとこに居るんだよなー。
セラフィーナちゃんの学院編入の件をどうするのか確認したいとは思っていたところだし、ついでに会っておきたい人も居るし、ちょうどいいかもしれないな。
「そしたら私、ちょうどベルさんとこ行こうと思ってたから、ついでに話してみるわ」
「わかりました。イサベル様に宜しくお伝えください」
「なんかわからんが、なんとかなりそうなのか?」
こちらだけで話を進めてしまって、置いてけぼりのおじさんに簡単に説明をする。
なんならこの人も『剣の誓い』に連れていっちゃったほうが話が早いかもしれない。
……てか下手に一人で放り出したらさっきの女共に闇討ちされかねん気がする。わりとマジで。




